第15話 目覚めの幸せ、昼のトラブル side 颯太
携帯の着信音で眠っていた意識がゆっくりと覚醒する。
眠気でぼんやりとする中、ベッドサイドに腕を伸ばし携帯をとる。
昨日、彼女をタクシーまで送り届けた後二次会のカラオケボックスに行った奴達と合流した。
カラオケボックスで周りが盛り上がっている中、何度も彼女のアドレスがメモリーの中にあるのを確認しては顔がにやけそうになった。
アドレスを手に入れただけで、こんなに幸せになれる俺ってちょっと簡単だな〜と思いつつも、これは大きな前進だと思うとテンションも上がって来る。
酒を飲む量も自然と増えると、隣に座った同級生から一緒に抜けようと誘われた。
(ホント彼女以外興味が全くないんだけど・・・香水臭いし、勘弁して欲しい)
他の女達も酔いが回ってきたのかベタベタしてくる奴も出てきて、
早々に切り上げようとトイレに行く振りをして家に帰ることにした。
家に帰り着いて、彼女から連絡が来ていないか確認するけど、あるのはどうでもいいメールだけだった。
まだ視界がはっきりしない目で時間を確認すると、昼を過ぎた所だった。
昨日飲んだ酒で、遅くまで寝ていたようだ。
のろのろとベッドから起き上がって、メールの相手を確認すると彼女からのメールだった。
その名前を見た途端、体中の機能がはっきりと覚醒した。
メールを読むと、昨日の礼と無事に家に帰り着いたことが書かれてあった。
こっちが疲れてしまう様な絵文字を無駄に使うわけでもなく、その内容もあっさりと事務的なもので、彼女の真面目さに笑みがこぼれる。
たとえ事務的なメールだとしても、自分のアドレスに彼女の名前があってメールが届くという、昨日まで考えられない状況が妙に嬉しい。
返信メールを送ったら、また返事が返って来るだろうか?
とりあえず、シャワーを浴びて彼女へのメールを送る事にした。
シャワーから出て、濡れた髪をタオルで拭きながらミネラルウォーターを飲んでいると、着信が鳴る。
通話ボタンを押して俺が話し出す前に翔が切羽詰まった声で話し出した。
「俺、結衣と別れるかも・・・颯太、俺どうしたらいいか分かんねぇ。マジどうしよう・・・」
いつになく弱気で参っている声に、尋常じゃない事がすぐに分かった。
しかも、結衣と別れるかもって意味が分かんねぇ。
とりあえず、状況を確認するために翔の居場所を聞きだし、すぐに行く事にした。
翔の部屋のドアを勝手に開け部屋に入ると、翔がベッドの端に腰掛け俯いている。
声をかけると、翔は顔を上げてこっちを見た。
「急に携帯で結衣と別れるかもってどういう意味?何があったんだよ?」
俺の質問に気まずそうな顔した翔は話し出した。
「昨日、クラスの仲間と俺の部屋で飲み会する事になったんだよ。クラスの女も何人か混じって飲んでて、
終電過ぎるぐらいまで皆飲んでたから全員泊まる事になってたんだよ。
俺、途中眠くなって先にベッドで寝てたんだけど、夜中に水飲みたくなって起きたら俺の横に女が隣で寝てた。
他の奴らは、皆帰ってて・・・朝、結衣が家に来て、女が俺の横で寝ている姿見て出て行った。
それから何度も連絡するけど、電源切ってて繋がらないし家にもいなかった。」
翔が話す状況を考えたら、誰でも誤解するだろう。
「そりゃ、朝来て自分の男がベッドで違う女と一緒に寝てたら誤解するだろうな。でも、誤解ならすぐに解けるだろ?
一つ確認するけど、その子とは何もなかったんだよな?」
項垂れている翔に確認すると、バツの悪そうな顔をした。
「・・・夜中目が覚めて時、いくらクラスの女でも一緒に寝るのはマズイからベッドから出ようとしたら、その女が起きて・・・」
翔はその続きを言い淀む。
あ〜成る程。何か結衣に後ろめたい事をやらかした事が分かった。
そうじゃなきゃ、ここまで翔が落ち込むわけないもんな。
「で、ヤッちゃったわけね。」
わざと冗談ぽく言う。
「いや。最後までしてないっつーか、口だし・・・って、あー!なんで俺、あんなことしたんだろ・・・酔ってたって言っても・・・」
頭をグシャグシャに掻きながらかなり後悔している翔を見て、携帯で結衣に連絡してみる。
携帯の向こうから無機質なアナウンスが流れるだけだった。
「ダメだ。やっぱり、結衣まだ電源切ってる。」
俺が結衣の携帯にかけている様子を、不安げに見ていた翔は嘆息する。
「あいつさ、前の彼氏が結構浮気してて、その度に泣いてたんだよ。だから、絶対そんな事で泣かせないつもりだったのに・・・」
翔は結衣と付き合い出す前、遊んでた。
だけど、付き合い出してからは一度も浮気なんてした事なかったし、
遊んでいた時だって結衣の事をずっと好きでいた事は一番近くにいる俺が知ってる。
小さい頃から一緒にいた結衣も翔のことを知ってるが、男の深い部分みたいなのは女の結衣には話せないこともある。
そういう意味で、一番翔を分かっているのは俺だと思う。
だから、今回の事で翔がどれだけ後悔しているか分かるし、結衣との事に不安を感じているのが分かる。
絶対に翔は結衣と別れるなんて考えられないし、逆に俺は別れた時の翔が心配になる。
何とか翔の力になりたいし、俺も大事な幼馴染みの二人には上手くいって欲しい。
とにかく結衣と連絡を取る事が最初だ。
翔は結衣の事で頭が一杯で全く頭が働いていない様だった。
結衣がこんな時に頼る相手を考えると、すぐに吉岡さんが思いついてメールを彼女に打つ事にした。
もしかしたら結衣から何も聞いていない場合も考慮して、結衣の事は伏せて誰かと一緒にいるか聞いてみる。
勿論、昨日無事に帰れたというメールの返事も忘れずに。
メールを送ってすぐに彼女からの返事が来る。
やっぱり、結衣は彼女と一緒にいるようだ。
彼女の携帯に掛ける。まさか、こんなにすぐ彼女に連絡を取るなんて思ってもなかった。
数回のコールの後、彼女は静かに出る。携帯から聞こえる雑音で彼女と結衣がどこか外にいる事が分かる。
翔と結衣の事を聞いたか確認した後結衣に様子を尋ねると、翔と別れると言っているという言葉に思わず嘆息がこぼれる。
思っていたよりも、状況は深刻だった。
翔と同じ様に結衣も翔の事を好きだと思っていたから、一回の浮気で別れるなんてないと内心思っていた。
浮気が日常だった俺は、やっぱり『浮気する』ってことを軽く考えていた所があったんだと思う。
一度結衣と話せないか聞いてみると、今結衣は席を外しているらしい。
俺と彼女との会話から、結衣がそこにいる事が分かり携帯を奪いそうな勢いだった翔を、抑えつけ彼女と話を続けていた。
結衣と話せるかの連絡を待つ事になって携帯を切ろうとした俺から翔は携帯を奪った。
やっと結衣の居所が分かったことと、なんとか話したいと焦っていた翔は勢いよく彼女に話しかける。
とにかく彼女から連絡を待つ事になった俺たちは、翔の部屋で待機した。
その間、俺は気になっていた事を翔に聞く事にした。
「お前と一緒に寝てたって子どうした?」
「結衣が出て行ってからすぐに追い返した。結衣が部屋の中に入ってきたの気付いて、わざと俺の首に絡み付いてきた。
それで目が覚めたんだけど、目を開けたら結衣がいるし・・・」
その女は翔と結衣を別れさせたかっただろう。
「じゃーそっちの方は、自分でちゃんと片を付けておけよ。後々、結衣とのこと邪魔されたくないだろ?それと、結衣にはどこまで話すつもり?」
「嘘はつかない。結衣には本当の事を話すつもり。」
翔は逃げない。『何もない』と嘘を突き通す事も出来るのにしない所を、俺は凄いと思う
不器用でバカ正直だが、だからこそ翔が言う事は全て本当んことなんだと思えるし、信頼に値すると思う。
まぁ、今回の事は結衣の信頼を著しく損なうものだけど、これは男だったら陥りやすい落とし穴だと思う。
それを女の結衣に理解しろってのは難しいかもしれないけど・・・
「分かった。俺も出来る限りフォローするから。」
翔の背中を叩く。
「悪いな。でも、お前が吉岡さんの連絡先知ってて良かったよ。いつの間に連絡取り合う様な仲になったんだ?」
少し余裕が出てきたのか、ニヤリと笑って翔は俺に聞いてくる。
これまで全くと言っていい程彼女に近づけなかった俺を知っているだけに、翔は少し興味を示した。
「たまたま昨日連絡先交換したんだよ。それに、俺の事よりも今はお前の事の方が重要だろ?」
なんとなく気恥ずかしくなり、話を変えようとしたところに携帯の着信音が鳴り、メールを読む。
それは彼女からで、結衣はまだ翔と話ができる状態ではないらしい。
俺たちはとりあえず結衣の気持ちが落ち着くのを待つ事にした。
少なくとも今日は、彼女の部屋に結衣が泊まる事になったので翔は安心しているようだった。
minimoneです。
2/14、15に拍手を下さった方有り難うございます。
なかなか進まない颯太と陽菜ですが、少しずつ二人は近づいてます。
minimone自身も二人にくっついてもらいたいんですが・・・
これからも頑張りますので、また遊びにきて下さい。