第14話 心の傷とお日様の匂い side 陽菜
今夜は二人で飲むことになり、結衣と二人で家に帰る前に食料を買い込んだ。
家にあるもので夕食やサラダは出来るため、赤ワインにシャンパン、ビール、クリームとクラッカー、生ハム、スナック菓子にチョコレートなどお酒と肴を大量に買い込んだ。
二人でお酒を飲みながらたわいない話をしたり、借りていたDVDを見て過ごしていたけど、翔君の事には結衣も私も意識的に避けていた。
結衣は、あまり翔君の話をしたくないようだった。
注意深く観察しながら、だいぶ気持ちが落ち着いてきた結衣に翔君の事の話を切り出した。
「翔君、結衣と話したいって言ってたけどどうするの?」
私の言葉に結衣は持っていたワイングラスに視線を落とす。
「今は、翔の顔みたくない。考えたくない。」
小さい声で呟く様に話す弱気な結衣を見たのは初めてだった。
結衣は視線をそのままワイングラスに落としていたけど、目に涙が溜まっているのが分かった。
私にとって結衣は、何時だって頼りがいのあるお姉さんみたいな感じだったから、こんなに落ち込んだ結衣に何て言ったらいいか分からない。
「そっか。本当に翔君と別れるって思っているの?」
結衣は何も反応しない。
「どっちにしても、一度翔君とちゃんと話した方がいいよ。うちには、気がすむまでいてもいいからさ。」
静かに頷く結衣にお風呂に入る様に促したあと、いつでも眠れる様に準備する。
結衣と入れ替わりにお風呂に入った後、明日は二人で買い物にこうと話して寝る事にした。
暗くなった部屋で天井を見つめながら結衣と翔君の事を考えた。
詳しい状況は分からないけど、さっきの電話からも翔君が浮気していたとは思えなかった。
電話で結衣と話したいと言った翔君は、本当に一生懸命だったし結衣の事を一番に思っていると思うけど一緒のベッドに女の子と寝ていたというのは、浮気していたと誤解されても仕方がないと思う。
恋に理想を持っているわけじゃないから、男の人が好きじゃない子とも浮気出来るのは分かってるけど、翔君からは想像付かない。
二人はこのままどうなっちゃうだろう・・・
一人グルグル考えていると、「陽菜。まだ起きてる?」と結衣が声を掛けて来た。
「起きてる。結衣も眠れないの?」
「うん。やっぱり色々考えちゃって・・・あのさ、今回の事ショックだったんだけど、私知ってたんだよね。」
結衣が何を知っているのか分からなくて、結衣の方に体を向けて黙って話の続きを待っていた。
「私と付き合ってからは本当の所分からないけど、翔昔結構遊んでたと思う。」
その言葉に、静かに息をのむ。
「翔は隠してたのかもしれないけど、違う女の子を連れて二人で歩いている所何回も見かけた事あるから・・・」
別に翔君を好きってわけじゃないけど、何て言うか翔君は結衣に一途ってイメージが自分の中にあったから、
結衣の言葉に少しだけショックを受けた。
「他の子と遊んでいる時も翔は優しかったし、付き合ってからもそれは変わらなかったんだよね。私、翔と付き合う前に先輩と付き合ってたんだけど、その人に何回も浮気されて辛くてよく泣いていたんだよね。もう浮気しないって言っても繰り返すし、いつの間にか彼氏の事を信用してない自分がいて・・・
その後も色々あったんだけど、最終的に別れることが出来て翔と付き合い始めたの。翔と付き合ってから本当に幸せだったんだよね。
翔は一番に私の事を考えてくれるのが嬉しかった。私、翔なら大丈夫って安心してた。だから・・・」
今まで聞いた事がなかった結衣の過去の恋愛に何も言えなかった。
翔君と一緒に笑っている結衣しか知らなかったから、そんな辛い経験していたなんて想像もしなかった。
「だから・・・今日の他の子と一緒にいる翔を見て、『あ〜やっぱり』って思っちゃった。」
結衣の押し殺した鳴き声が暗い部屋に響いている。
「もし翔も先輩と同じだったら・・・私、これ以上翔とは・・・いられない。
翔・・・だから・・・余計に、辛い・・・」
押さえていた感情が、一度口にすることで堰をきったように結衣から溢れる。
私は、何が出来るんだろう?
きっと翔君と付き合う前の結衣は沢山傷ついて、その傷は翔君と付き合っている中で、癒されていったんだと思う。
だけど結衣にとって今日見た事は過去の傷を思い出させ、翔君を信じていたからこそショックが大きかったんだ。
結衣の気持ちをやっと理解することが出来たと思う。
結衣と翔君の二人の事は何も出来ないかもしれけど、結衣のために私が出来ることあると思う。
それは、結衣を一人にしちゃいけないってこと。
結衣のために私が出来る事は、それしかないから・・・
「結衣。せっかく泊まるんだから一緒に寝よっか?」
ベットから抜け出し結衣の布団に潜り込んだ。
結衣は、私の行動が意外だったらしく目をパチクリさせて私を見た後、笑った。
どうやら涙は止まったみたいだった。
「陽菜がいてくれて良かった。いいね、陽菜の家の布団気持ち良い。お日様の匂いがして、心が落ち着く感じがする。」
鼻の所まで布団を引っ張る。
結衣の言葉に今日お布団を干しておいて良かったと思う。
「翔君の事私も分からないけど、結衣と一緒にいる翔君は結衣の事を凄く大切にしているし、彼の中での一番は結衣だと思うよ。
翔君の過去はどうか分からないけど・・・翔君の気持ち信じてもいいんじゃないかな。」
お互いの体温で布団の中はポカポカしてきて、眠気を誘う。
このままだとすぐに眠ってしまいそうだったから、結衣にどうしても伝えたい事を伝える。
結衣は「ありがと」と小さく言って、目を閉じる。
私も目を閉じ、お日様の匂いと結衣の温かさを感じながら、結衣の傷が少しでも癒される様に願いながら眠りへと落ちていった。
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サブタイトルに毎回悩みます。
ネーミングセンスが全くなくて、悲しくなります。