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第11話 クラコンと非常階段と三日月 side 陽菜


「陽菜ちゃんも、今日行くよね?」


次の講義までの休み時間、持ってきたお菓子をパクついている私に彩音ちゃんがニコニコして話しかけてきた。

彩音ちゃんの言う『行く』っていうのは、クラコンのこと。

講義室を見渡せば、いつもは代返をクラスメートに頼む子達が色々とメイクを念入りにチェックしたりしているし、妙に皆の服装も気合いが入っている。

なぜこんなに皆が入念になっているのかというと、クラコンこと『クラスコンパ』が今日の夜に経済部と合同であるからだ。


私が在籍している英文科は女子率が高い。じゃあ、どうしてそんなに気合いを入れて皆おしゃれをするのか?

それは、合同でする『経済学部』っていうのがキーワード。

経済学部には、『彼』がいるからだ。

―――霜織颯太くん彼は経済学部に在籍している。


新入生代表で目立っていた霜織君はやっぱり大学に入っても人気があった。

入学してから一ヶ月が過ぎた今でも、彼に彼女がいない。

彼に彼女がいない事は学内では有名だった。

もちろん、彼女になりたい子なんて沢山いるけど誰一人として良い返事をもらった子はいない。

携帯番号やメアドも、女の子には教えてくれないらしい。

そんな霜織君に関する噂は、自然と耳に入ってくる。

女の子は噂好きだから。

でも、本当に高校の時に聞いた様な噂が全く彼にはなくなっていた。

実際にそんな現場を見たわけじゃないから、あくまで噂だけど・・・


そんな彼だから、仲良くなりたいって思っている子は多かった。

どうして経済学部と合同クラスコンパが開かれることになったのか分からないけど、その事を知った皆はこの日を楽しみにしていた。


「うーん・・・悩み中。私、大勢で飲むのってあんまり好きじゃないしなぁ・・・」


「行こうよ〜。陽菜ちゃんがいなかったら、私一人になっちゃうじゃん。」


どうやら彩音ちゃんは参加する気らしく、消極的な私を少し強引に誘ってくる。

よく見ると、いつもより可愛らしい格好をしていて 彩音ちゃんらしからず 私の説得を一生懸命にしている。

経済学部との親交は別として、クラスメートとは仲良くなりたくて今日のクラコンに参加する事にした。


皆と違って気合いを入れることもないし、講義が終わった後少しメイク直しにパウダーをはたいて、オレンジの配色具合が絶妙で買ったコーラルピンクリップを塗り直すだけだった私は隣の彩音ちゃんに目をやる。

彩音ちゃんは、髪の毛を整えていた。

鏡越しに目が合うと、準備しているところを見られて恥ずかしかったのか、ほんのり頬を赤く染めて微笑んだ。

かっ、カワイイ!!

なんて、可愛いだろう!本当に女の子らしい!

私が男の子だったら、この仕草だけで胸キュンものだよ。

今日のクラコンを彩音ちゃんがこんなに楽しみにしてなんてちっとも気付かなかったよ。


 ※ ※ ※


少し遅れてクラコンが開かれるお店に行くと、皆すでに集まっていて席に着いていた。

妙に人が集中している所に目をやると、その中心に霜織君がいた。

これまで噂や彼に向けられる視線とかしか見た事なかったけど、間近で女の子が霜織君の周りに集まっているのを見るのは初めてだった。

まるで今時ドラマでもこんな現象は起こらないだろう、って思う位の光景に何も言えなかった。

彼とは、数える位しか話した事はなかったけど、凄い人だったんだ・・・


(普通っぽい人だと思ってた・・・けど、こんなに人気があるんだーーー)


その光景に初っ端から圧倒されたけど、まぁ関わらない様にテーブルの隅のほうに彩音ちゃんと座った。


霜織君の周りでは、水面下で女同士の静かな戦いが繰り広げられていた。

少しでも会話が出来る席にと、女の子達が座った反動で隅の方に座った私たちの周りには、霜織君以外の男の子達が座っていた。

その他に、女同士の戦いに参戦しない女の子もいた。

彩音ちゃん以外は、ほぼ初対面と言っていい程の人たちばかりだったけど皆の高校や地元の話は面白かった。

大学は高校までと違って色々な所から人が集まっているから、

まだ地方出身の子からは方言が出て来る。

その方言がとっても可愛い!

なんだか、故郷があるって感じがして羨ましい。

ちょっとした異文化コミュニケーションやカルチャーショックで項垂れている男の子とかをみて、皆で爆笑。

最初は乗り気じゃなかった合同クラコンだったけど、参加して良かった。

彩音ちゃんに感謝しなくちゃ。


 ※ ※ ※


相変わらず霜織君の周りの女の子達の戦いは続いていた。

皆が霜織君の携帯番号やメアドを教えてもらおうと、携帯を持って話しかけている。


「もう携帯の充電がヤバいから。それに、そういうのはあんまり人に教えない事にしてんの。特別な人だけ。」


甘く人好きする笑顔で女の子達に断っている彼に、彼女達は不服そうにしながらも自分の携帯をバックに戻していた。

そんな彼はやっぱり、高校の時の噂の人とは思えなかった。

だって霜織君には言ってないけど、彼のキスシーンを目撃したことのある私にとっては、そのギャップに驚かされるばかりだった。


(人ってかわるものなんだなぁ〜)


なんて考えながら梅酒のロックを一口飲む。

楽しい時って、お酒を飲むペースまで 早くなる。

隣に座っている彩音ちゃんを見ると、どうやら楽しかったのは私だけじゃなかったみたいで彩音ちゃんもらしい。

私は結構お酒を飲める方なんだけど彩音ちゃんは弱いのかな?

顔が赤くなってきてる。

一緒に飲みにいった事がないから、彼女がどれくらいキャパがあるか分からない。

とりあえず、一回ソフトドリンクで休憩させた方がいいかな?

彩音ちゃんのためにウーロン茶と他の子のオーダーをしたついでに、外の空気を吸いに非常階段に出た。


皆と話すのは楽しいんだけど、やっぱり初対面の人ばかりだと気を遣って疲れてしまう。適度に休憩が必要だわ。

新鮮な空気を吸って、少し酔いを醒ませていると非常階段のドアが開いた。

振り向くとそこには、霜織君が立っていた。


「霜織君も酔いさまし?」


「いや。ちょっと逃げてきた。」


「あー、ちょっと大変そうだったもんね。」


彼の人気っぷりを思い出した私に霜織君は少し不機嫌そうな顔をした。


「よく言うよ。俺の事なんて、全く気にせず他の奴と楽しそうに話してたくせに。」


少し恨みがましそうな顔で霜織君は私に言ってくる。


「だって、このクラコンの主旨は親睦でしょ?近くの席になった子と話すのは当然だと思うよ。それに、霜織君は他の子に囲まれて話し相手がいないなってことないじゃない。」


「そうじゃなくて、俺は吉岡さんと話したかったんだけど。」


霜織君の言っている意味が理解する事が出来なくて、首を傾げる。

「これじゃ、何の為にこの合同クラコンを企画したか意味ないし・・・」って、項垂れる霜織君を見て、彼がこの企画に関わっている事が分かった。

いつもはこういう飲み会に参加しない彼が今日は参加するって張り切っていたクラスメートを思い出し、彼の参加理由が企画の関係者なら参加して当然かと一人納得している私を横目に、「俺が言った事、スルーなのか分かってないのか・・・」多分こんな様な事を小声で呟いて嘆息している霜織君。


霜織君の言う『話したかった』ってきっと幼馴染みの友達と親交を深めたいってことなんだと分かった。

結衣と一緒にいたら、霜織君と会う機会もあるかもしれない。

いつでも会えると思ったら、ついその事が口をついて出た。


「そんなの何時だって話せるよ。今日で最後ってわけじゃないし、大学や結衣達一緒とか、また話す機会はあるよ。」


そんなに酔ってはいないと思ってたんだけど、やっぱり酔ってたのかな?

いつもの私だったら気軽には言わない様な事を、口から滑らかに出た。


「今言った事本当?」


「へ?今言った事って、何?」


「だから、いつでも話せるってやつだよ。」


「そりゃそうだよ。霜織君は結衣の幼馴染みだし、私は結衣の友達なんだから会う機会があったら話せるに決まってるじゃん。変な霜織君。」


思いがけない自分の言葉と彼の反応に、少しビックリしながら頷く。

やっぱり酔っているんだわ。

春だとはいえ、夜はまだ冷える。外の冷たい空気にさらされたことで冷静になってくると、急激に羞恥心にかられた。

そして、残してきた彩音ちゃんの事を思い出して焦る。

だって私でも何気に酔っていたのに、私以上に飲んでいた彩音ちゃんが気になってくる。

霜織君になのか、自分になのか分からない羞恥心と彩音ちゃんの事で、部屋に戻ろうとした私は後ろから呼びかけられた。


「俺、もう少しここに避難しておくから、この場所誰にも教えないでおいてくれない。」


振り返ってみた霜織君は、手すりに凭れて夜空を見上げていた。

私もつられて見上げた後、「わかった。」と返事をして戻った。

非常階段から見た夜空には、これか満ちてくるだろう三日月とネオンに負けず輝いていた金星が綺麗だった。





少しズレている陽菜と颯太。

高校生の時と変わった颯太に、少し驚きと戸惑いを感じている陽菜。

颯太の最初の目的である、颯太の悪い噂は無くして新たな印象を与える事に成功したと思います。




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