大晦日の夜に・・・・・・
「信長様、今日は大晦日ですよ?」
「あぁ……そうだな、偽美希」
「それだというのに、何ですかこの料理は。信長様だってしっかりとした料理が出来るようになったのに、インスタントそばとは」
「年越しそばをわざわざ作るよりかは、楽でおいしくていいだろう」
「風情というものがありませんよ、これでは」
「可愛い顔して、泡盛を十升を開けてケタケタと奇声をあげやがって……あれ、深夜に見てびっくりしたんだからな。一生のトラウマになっちまったよ」
「一生に残るようなことを出来たのであれば本望ですよ」
「何が本望だよ」
間もなく一月一日、ついに新年を迎えようとしているのだが、なぜだかいきなり偽美希が料理にケチをつけてきた。
「それにおせちだって作ってないじゃないですか! 頼んでいるわけでもないのに」
「それは、ロリポップのところで新年会やるからそこで食べると言っただろう」
「ですがぁ……」
なぜか急に偽美希が涙目になり涙声になった。そして、机の上に置いてあった煎餅をぼりぼりとかじりながら「私……お腹が空いちゃいましたよ」と、訴えるような目で見てきた。
そんなに訴えるような目をしても何もしてあげられないし、何もする気はないのだがな。
そう言えば、一人称変わったんだな。
「……まぁ、我慢しますよ。信長様の意見に反抗しようとは思いませんから」
「反抗しても別に俺は構わないけれども、お前がそう思うんだったらそれでいいだろう」
「だけれども一つだけ、言わせてください」
五分間時間が経ったので、インスタントそばのふたを開けてそばをすすりながらしゃべる。大丈夫食べながらしゃべっているわけでは無いから下品では無い。
「……その、来年の事なんですけれどもぉ……」
「うぉん」
俺もそばをすすりながら偽美希の話を聞く。
「その、結局のところ奴はいつ帰ってくるんですかねぇ」
「あれ? この前帰って来てたんだぞ」
「え?」
ここで言う奴というのは、ジョンタイター、ジョンのことだ。
「……まったく、奴も帰ってきてたんだったら料理の一つでも作っていけばいいのに」
「確かにそうとは思うけれども、どうしてそう思うんだ?」
すると、偽美希はすするのをやめて箸を置いた。そして、お茶を飲みこう言った。
「あまり言いたくはありませんけれども、奴の料理は超一品ですよ。さすがの私でも、あの料理には感動してしまいますよ」
「……」
偽美希が、なんとも真面目な顔で言ってくる。ものすごくどうでもいいことなのに、ものすごく真剣な顔をして言ってくる。なんとも不思議な感覚だ。
でも、偽美希の言う通り確かにジョンの作る料理はうまい。
「……まぁ、またあいつが戻ってくるのを楽しみに待とうや」
「そうですね、信長様」
こんなどうでもいい話をして、ちょっとニコニコしながら偽美希と見つめ合う。テレビもつけているわけでもなかったので、ニコニコ以外には音は何も聞こえなかった。そこに突然ゴーンと言う音が鳴り響いた。
「おや、信長様。どうやら新年を迎えてしまったようですよ」
なんとも不思議な年越しだろう。まぁ、ただ新年を迎えたことには変わりないな。
「信長様、今年もよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼むよ」
とりあえず、のびるまえにインスタントそばを食べないとな。