元日の夜に・・・
2016年1月1日に投稿したものです。
「ノブ、なんで一緒にブクマに行ってくれなかったんですか?」
「だって29日からはカウントダウンライブだったしさ、夏はブクマにいったしさ・・・」
ブクマとは、ブックマーケットの略称。ブックマーケットは世界でも最大級の同人誌即売会で、この日のために貯金をして物品を買うことは、ある意味ステータスであり、というかこのブクマが聖地化しているため、ここに行くことが当たり前になっているのかもしれない。
そしてカウントダウンライブというのは、ノブとジョンが応援しているアイドルグループのライブであり、アイドルとともに新年を迎えるのもまたステータスであり当たり前の事なのだ。
この当たり前が重なってしまい、今この二人はちょっとした言い争いを新年早々始めてしまったのだ」
「いいですか、ノブ。あなたがカウントダウンライブに行くのはずっとわかっていました。できれば私も行きたかったです」
「だろ?」
「だけれどもね、ブクマに売っている物は、二度と手に入らない、そこでしか手に入らない限定品が多いんですよ!」
「知ってるけれども・・・」
「まったく、これだからノブは・・・」
ジョンは怒ってしまった。信長もなぜか「あぁ、やってしまったなぁ・・・」と反省している・・・。
「・・・とりあえず、お土産は買ってきましたから、カウントダウンライブのグッズと交換ですよ!」
「だな」
ふたりとも、相手の好きなものが分かっている。聞かなくとも、自然とお土産を買ってきているのだ。
「おっ!新しい俺の新刊じゃないか!」
「そうですよ・・・。あっ!さすがノブ、このグッズは欲しかったんですよ」
「だろ?」
マニア同士の話とはいつ花が咲くかわからない。というかずっと花が咲いているのかもしれない。だからこそ、一年の始まるは子の二人にとってはいつも通りのことなのかもしれない。しかし、この女にとっては一年の始まりというのは、違ったものとなるのだ。
「さっっむ!」
冬なのに薄着の衣装で町を歩く。
「信長さんにいろいろと鍋の材料を頼まれたけれども、信長さんのところに鍋用コンロってあるのかな?」
歩くたびに、町にいる男どもがこの女を見るために振り返っている。男どもは口々に「すごい美人だな」とか「かわえぇ・・・」とか言っている。
しかし、それは当たり前の事なのだ。だってこの女は、アイドルなのだから。
アイドルというのもいろいろと大変なもので、本当であれば鍋の材料を買いに行く時間さへも惜しいものだ。しかし、信長に秘密を隠しとおすためには、これぐらいの事は必要最低限の犠牲といえよう。その犠牲もあってか、信長には何もばれずに生活ができている。秘密を知っているのはジョンだけなのだ。
「牡蠣鍋の材料だけれども、お正月っておせちじゃないのかな?」
そんな疑問を持ちつつ、女はスーパーへと向かい信長の家に向かった。
「・・・とりあえず、おせちの材料も持って行って作ってあげよう!」
「ジョン!それは俺の牡蠣だ!」
「ノブの生きてきた時代は弱肉強食でしょ?それと同じですよ」
「まぁまぁ二人とも、材料はまだまだありますから」
鍋を囲って小さな部屋に、三人の男女。はたから見れば異様な光景だ。
「そういう問題じゃないんだけどもなぁ・・・でも、鍋はおいしいな!」
「ありがとうございます!」
「毒でも混じってるんでは?」 いつも通り、ブラックに質問する。
「ジョンのには、王水でもスープに加えてあげようか?」 にこやかに返答をかえす。
「刺激があってよさそうですが、遠慮しておきます」 いつも通り、落ち着いて返す。
「王水か。俺にぴったりな飲み物だな!持ってこい!!」
「無知って怖いですね・・・」 呆れたような表情をする。
「本当ですね・・・」 ジョンも同じような表情をしてみる。
「なんだよ二人とも俺を馬鹿にしやがって!」
一年は今まさに始まったばかり。しかし今日という日は二度とやってこない。
今日という日を堪能するべく、三人の夜はまだまだ続いていく・・・。