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白夜  作者: セイル
青髪の少女
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出現


僕たちが思っているよりも噂が広まっているようだ。

それとも地域住民の勘が冴えているのだろうか。

いつもこの時間には賑わっているこの通りも人通りが一切なかった。


「ここまで人がいないとなんか別の町に来たみたいですね。」


そう言うと舞姫先輩も嗣柚も頷いてくれた。

田舎の小さな町ではあるけれど、ここまでひっそりとしているのは初めてだった。

見慣れた町並みもなんだか別のものに見えてくる。

この辺りは望月町の住宅街で、たくさんの人が住んでいる。

それでも公園や緑地、池などがあって自然豊かな場所だ。

子育て世代に人気がある住宅街だと聞いたことがある。

自然豊かで学校や公共機関ともアクセスがいい。

自転車さえあればどこへ移動するのも楽なエリアだ。


学校の前の坂を降りるとここはもう平坦だ。

この平坦な道を三人で歩いていく。


「待って……。」


ふと舞姫先輩が立ち止まった。


「どうしたんですか? 」


嗣柚もそれにつられて立ち止まる。

すこし先を行ってしまったから振り返る。

舞姫先輩が真剣な顔をして辺りを見回す。


「なにか聞こえるの。」


舞姫先輩が小さな声でそう言った。

僕たちも立ち止まって耳を澄ます。

かすかに何かが動く音が聞こえた。

水面をパシャリと撫でる音、そしてまた何かが動き出す。

もしかしたら怪かもしれない。


水面を撫でる…。

そうか。

あまり自信はないが、心当たりがある。


「先輩、近くの月駒池です! 」


舞姫先輩が月駒池の方に耳を澄ませる。

そしてそっと一回頷く。


「嗣柚、結城に連絡を入れて。」


冷静に指示を出すともう一度月駒池の方を向いた。


「わかりました! 」


嗣柚は制服のポケットから携帯を取り出す。

携帯を操作し、スピーカーモードで結城先輩を呼び出す。

その呼び出し音を聞き、確実に連絡が取れたのを確認した。


僕は左腕につけた青い石のブレスレットに手を二回かざした。

青い光が辺りを照らす。

その光の中から込めていた双剣を取り出す。

双剣のグリップを強気握りしめて月駒の池の方に走る。


舞姫先輩もアンクレットに2回手をかざし、光をまとう。


『彩樹、早々に終わらせましょう。』


舞姫先輩の声が後ろから聞こえてくる。

そう思った瞬間すぐに僕の隣を妖艶な狐が音を立てて過ぎ去っていった。


実を言うと舞姫先輩は完全体な人間ではない。

人間であれど怪、怪であれど人間。

そんな不思議な存在だ。

さっきの音がいち早く聞こえたのも先輩が普通の人間よりも聴覚が冴えているからだ。

舞姫先輩は自分のことを半怪と呼んでいるが、代々そういう家系らしい。

もちろん完全体な人間ではないため遺伝子も弱いそうだ。

両親は体が弱かったらしく亡くなっているそうだが、健在である舞姫先輩のお姉さんも半怪だ。

舞姫先輩のお姉さんに探りをいれたこともあるが、『まあいろいろあったんやけど、詳しいことは堪忍な。ウチらにもわからんこともあるんよ。』と言われてしまいそれ以上のことはわからなかった。


そうとはいえ舞姫先輩は怪と交戦する際には半怪の姿、綺麗な狐の姿になる。

一見したら今地域住民を騒がす怪とは全く別のように見える。

もちろん半怪だからといって恐れられるだとか迫害されるとか、この望月では全くない。

半怪の人間はここまで成長する、というのが稀なのだそうだ。

成長できずに死んでしまう個体が多いだけで半怪自体はそこまで珍しくはないらしい。

僕の周りには舞姫先輩とそのお姉さんしか例がないから珍しいと思うだけであって、世界的には結構例はあるらしい。


池に足を進めながらそうこう思いを巡らせているうちに、望月の家に連絡を取り終えた嗣柚と合流する。


「どうだった? 」


「結城先輩がすぐ向かうって。確実に倒して札を採取するようにって。」


僕はわかった、と短く返事をして走るスピードを早めた。


半怪姿の舞姫先輩が走っていったあとを追いかけると、数体の怪が月駒の池にたむろっていた。

怪は宙に浮かぶ浮遊型と地面を動く通常型が入り交じるちょっと厄介な編成だった。

一足先に現場に着いていた舞姫先輩が舞うように怪と交戦していた。

僕は現場に着くと小さく息を吐いた。


「舞姫先輩、僕たちも応戦します! 」


『了解よ。嗣柚、本家からの指示は? 』


舞姫先輩が聞くと嗣柚はさっき僕に話したとおり札の採取をするようにとのことです、と伝えた。


『わかった。さっさと噛み殺しちゃいましょ。』


妖艶な姿からは想像もできないような残酷な言葉を残して戦闘に戻っていった。

嗣柚は右手のブレスレットから小さなハンドガンを取り出す。


何も言わずとも厄介な浮遊型を相手してくれている舞姫先輩にはそのまま浮遊型をおまかせして、僕たちは連携して通常型の怪を仕留めることにした。


「嗣柚、僕は通常型の動きを怯ませるから動きが鈍ったところで確実に処理してくれ。」


「おっけ、任せろ。」


いつものように3.2.1と短いカウントダウンをして僕は戦場に飛び出した。


「まずは一番左から! 」


「そいつを孤立させてくれ! 」


いつも通りの連携で速やかに怪を追い込んでいく。

僕の双剣で傷ついた怪が嗣柚の放つ弾で余計に怯む。

そこに蹴りを加え、最後に嗣柚のハンドガンで仕留める。

池にたむろしていた怪はほんの数分で片付いた。


「なんてことなかったわね。」


戦闘を終えて人間の姿に戻った舞姫先輩はその辺に転がる札を拾い始める。

怪を倒すと出てくる札を僕たちは「異怪札」と呼ぶ。

さっきまでここでたむろしていた怪たちはこの中に込められる。

この札を調べれば怪がどんな生態で、その個体の強さはどのくらいかということがわかるらしい。


「結城先輩を呼ぶまでもなかったですね。」


「まあこいつらが例の怪だったかもしれないわけだし、大事なのは報告・連絡・相談よ。」


みんなで手分けしてさっきの個体分の札を拾い集めるとそこに結城先輩がやってきた。


「みんな、どうだった? 」


「手応え的にはこいつらが例の人食いではなさそうね。」


舞姫先輩が札の様子を見ながらそういう。

結城先輩は少し残念そうな表情を浮かべる。


「そうか……。」


「結城、捜索の進展は? 」


舞姫先輩が最後の札を拾い集める。

結城先輩は苦笑いし、首を横に振る。


「殆どないよ。もしかしたら一回退散しているのかもね。」


「そう……。こっちもパトロールしていて見つけたのはこいつらだけ。」


結城先輩が短くため息をつく。

これだけ凶暴な怪を野放しにしておくわけにはいかない。

実質当主の結城先輩の心労は僕の想像以上だろう。


「わかった、ありがとう。じゃあその札は氷撫ひなでさんに。」


「うん、詳しいことがわかったら連絡する。」


集めた札は舞姫先輩に集め、みんなで話し合った結果今日は解散にしようということになった。

新しい情報が入ったら各々連絡すること、と告げて結城先輩は聖域の見回りに戻っていった。


「それじゃあ帰りましょうか。」


僕はこの池のすぐ近くに住んでいるから、と言い二人と別れた。


いつもは人通りの多い道を、今日は貸切状態だ。

そう思いながら帰路についた。

2018.11.28 サブタイトルの変更をしました。

2018.12.28 内容の改変を行いました。

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