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没落領地の気楽な領主生活  作者: 大森サコ
みちゆきを共にするモノたちのこと
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赤い目と緑の目

丘といっても道があるわけではない、丘に至るルートには崖もあり谷もある。

前途多難な風景に立ち止まってため息をつく。


「はぁー・・・」


何度目かとなるため息を吐いて、ロープウェイとかついてないのかな。

半ば意味のない思考に逃避しているとガシャガシャとティオが近づいてくる。


「おい、丘まで急げば四半時もかからないんだ、立ち止まるんじゃない、ピクニックにしちゃダルすぎんだろ」


追い抜きざまにティオに槍で尻を強かに打ちつけられる。

なんだこいつ、急に親しげになってやんの。


くすくすと笑うベネッサはどことなく嬉しそうだがこの二人さては付き合ってる?


「なぁー、ティオお前ベネッサといい仲なの?」


小指を目の前にかざして問いかけるとベネッサが慌てる。


「そそそそなんなんじゃないですっ!」


ティオはふんと一言鼻を不機嫌に鳴らすのみ、そのリアクションにベネッサは少し悲しい表情を浮かべる。


ベネッサの容姿はくすんだ金髪が自然なウェーブを描いて細い眉にかかり活発的な印象がある細身の女性だ。目の色はきれいな深緑。

一方のティオは酒臭いものの武人としての技量を感じさせる無頼漢で爽やかな緑の目がどことなく優しい雰囲気もある、なんだかいい男すぎてムカつく。

要するにどこか似通っていて、でも対照的な二人はお似合いだと思う。


「ティオ様の妹さんと私はお友達だったのです…」


その言葉でキッとベネッサを睨むティオ。


「あ、あの、、、す、すみません、その・・・」


長閑な雰囲気は消し飛んで気まずい空気が支配する。

何か曰くがありそうだが今無理に聞く必要もない。


「じゃ、いっちょ頑張って歩きますかー」


殊更明るい掛け声で空気を変える。

その言葉にティオが合図を被せることですべてが動き出す。


「野郎ども陣を組めー!!」


「「「オー!!!」」」


むさいヤンキー集団改め伯爵領槍部隊が瞬く間に陣を組みオレを中心に左側にベネッサ、右側にティオ、先頭集団に6名、後方に3名、さらに崖側の茂みに3名が分け入っていく。

さらに本隊の前方を3名の斥候が進む陣ができあがる。


驚いてティオを見ると無視された。

ベネッサを見ると少し涙ぐんでいる。

この二人にはどうやら何かありそうだ。


「さぁ伯爵サマ、丘のてっぺんまでご案内いたします、死にたくなければこの陣から出ないことですな」


慇懃な態度で失礼なことを言う。


「あぁ、お手並み拝見といこう」


そんなやり取りから数分で牡鹿の群れに遭遇する、地球の野生動物と比べると間違いなく凶暴化しており目も赤く充血している、これは怖い。


最初に遭遇したのは後方の3人で草笛でピピピと鳥の鳴きマネをする。

この回数で仲間に警戒を促すのだとベネッサが教えてくれた。

その警戒音からわずかして茂みが大きく揺れる。


堂々と7頭の牡鹿があらわれた。

ピーという警戒音と荒い息遣い、角を後衛3人に向けて振り下ろす鈍い音が生々しい。

こんなの追い返せるのか?と思った刹那にベネッサの矢が先頭にいた牡鹿の目を射抜く!


「すごい!」


いつもはのんびりしているベネッサの技量に月並みな感想しかこぼれなかったが実際あの警戒心むき出しの牡鹿の目を射抜くのは並大抵のことではない。


怯んだ牡鹿の集団に3名の後衛が襲いかかる!


ザシュという革を切り裂く音のあとに草木を血に染める勢いある血しぶきの音があたりに広がる。

同時にじっとりと鉄の臭いが風に乗って流れてきて少し離れた本隊にまで緊張を否応もなく運ぶ。


「後衛は適当に戦って引き際を見極めて下がってくるだろう。俺らは先に進むぞ、急げ」


ティオの視線の先には既に後衛の姿はなく、本隊の左から侵入した3名の茂み組のいるであろうあたりをとらえている。また先ほどから感じていた軽薄さがなりを潜める。


きっと来るのだ、もっと面倒ななにかが。

ここが異世界で、人の命は簡単に失われる場所なのだと改めて思い起こす。


呆然としていると後衛の3人が怪我もなく戻ってくる。

しかし後衛が引き上げてくると同時に新たな警戒音が先鋒から聞こえてくる。

ピピピが3回、最大級の警戒をの合図だ。


「ベネッサこの場は頼んだぞ。オレサマが戻るまでここで待機、狩人も呼び戻せ!」


茂み組は狩人らしい、独特な草笛の合図で狩人組が戻ってくる。

オレとベネッサを中心に円陣を組んで防御態勢を取ったのを確認すると同時にティオは疾風のごとく前衛に駆けていった。


ティオは駆けながら思う。

上がる土埃から大猪の群れだろう、この10年で牡鹿と同様大きく数を増やした害獣で領の木々から作物までなんでも食い荒らす、そしてあとには何も残らない。


ティオは悔しさでぐっと奥歯を噛みしめると僅かに見えた大猪の毛皮に朱槍を叩き込む!


「おらぁぁぁぁ!!!!」


ズバッと切り裂いたのは横っ腹で勢い余って地を打つ。

どばっと内蔵がこぼれ落ち湯気が立ち上る。


地を打った槍は続けざまに跳ね返り敵意もむき出しに飛び込んできた大猪の眉間を貫く!


大口を開けた大猪の上顎を足蹴にして槍を無理やり引き抜くと、返り血を避けて後ろに飛ぶ!


脇から突進してきた牡鹿は顔面を柄で軽く打ち据えて勢いを殺すとすかさず、首筋を切り裂く!


後ろからの攻撃を柄でさばいて更に、突進してくる大猪を魔法のような爆発!?で怯ませる!首を刈る!


刻一刻と奪う命に比例して戦場は静かになり、ついに荒い息を遣う男たちだけが生き残った、そして遠巻きに激闘を見ていた野生動物は思い出したように逃走する。


すぐさま狩人の3人が獲物の血抜きを開始して戦場は片付けられていった。

街に回収を依頼するために前衛で怪我をした2名が戻される。

一連を手際よく指示するティオを眺めながらオレは思った。


生き残った。


日本にいては決して味わうことのない戦場の勢い、血の臭い。そして、魔法の爆発!

聞きたいことはたくさんあったけど、うまい肉が大量に手に入ったと喜ぶ男たちを今ばかりは頼もしく思った。


ーー

戦利品

・牡鹿 8頭

・大猪 12頭



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