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没落領地の気楽な領主生活  作者: 大森サコ
千丈の堤も蟻の穴より崩れるのこと
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虎口への道

 部屋という部屋が炎を吹き出す。逃げ惑う人々の影が城壁にシルエットを残している。その中でも一際大きな影が老人の影に掴みかかる。


「パッタ・メキド、辺境伯を討ち取ったり!!」


 兵の中にその名乗りが信じられぬものもあったが、概ねの者があぁなるほど、やはりかと納得の心持ちであった。こうして呆気無く西方の鎮守であるべき辺境伯は討ち取られ城門を開いた。


 そう、暗がりの中に一際明るく燃え盛るはオーランの第二砦だったのだ。


 この日、百年近くこの地を守り続けた岩乗の城塞が崩落した。外からの攻撃に寄らず、内からの崩壊であった。その機に乗じて連合王国の軍勢が粛々と城塞を囲む。


 蟻一匹逃れ得ぬ堅陣を見て、炎から逃れた城兵並びに、文官、奉公人あわせて数百は全員連合王国に降った。翌日には辺境伯の生首が城門に掲げられ一応の混乱に終止符が打たれた。



 一方、旅の空にあったカークとベネッサ一行はきのこをあるだけ放り込んで馬乳で煮立てたスープで少し遅めの朝食を楽しんでいた。ベーコンの塩気と胡椒がアクセントで、中に入れられた馬乳の臭さがたまらない。ベネッサは若干苦手のようだが満足な栄養源がない地域ではご馳走と言えた。


「あと何日で辺境伯の居城に着くだろうか?」


「今は連合王国に押し込まれオーランの砦のどれかに篭っているとのこと、領都よりも更に遠くにまで足を運ばねばなりませぬなぁ」


 案内と従者をしている老人、ロニーが乾ききった声音で絞り出すように説明する。


「左様か、もう少しこの旅が続くか」


「ベネッサ様のおかげ様で、ほれこの通り、獣の肉に困ることがございません、千里眼の弓は百発百中とくれば、領都の残る男どもが何人束になっても勝てませぬな」


「ロニー翁も口が達者なものだな」


 カークなどはティオに心酔しているのでロニーのその言には物言いたそうな目を寄越していた。同じようにベネッサは本気の力のヴァラキやハルオの力の片鱗を知っているだけに、曖昧に社交辞令として処理した。それを見てロニー爺も訳知り顔の表情である。


 一行は知らぬがロニーの正体はセトとララの部下のオオカミである。人化の術で化けてはいるが、ロニーはなぜか老人の姿になってしまう。やむを得ないのでこのままの姿で諜報活動を行っていた。今回は危険が一行に迫ったとき、いち早くベネッサを連れてハルオの元に戻るように命じられていた。


「ところで、西よりなにやらきな臭い香りが流れて来ましたが……。」


 ロニーが鼻の良さを発揮して嗅ぎとった戦乱の後の臭いを報告する。ついでに馬車から携行してきたコウモリの巣箱を手繰り寄せ報告を記載した紙を持たせて一匹を解き放つ。


「そうか?オレは何も感じぬが?」


「私も何も感じない。」


「ロニー殿、行ってみればわかるであろう、急ごう」


 そのようなやり取りをしながら進むこと数日。領都に繋がる道をあえて見過ごしてオーランの砦群に一行は到着した。途中軍馬と馬車が大量に辺境伯の領都に向けて進んだ後があったが、オーラン砦陥落は想像の外であった一行にとっては、せいぜい大量の物資が移動した後にしか見えなかった。


 到着した砦だが、城壁や内部の構造物が多少煤けているものの、年季と思えば重厚な砦の戦化粧のようにも見え、城門の上のカラスにつつかれ原型を留めぬしわがれた首を見ても、それが辺境伯とはついぞ気付かなかった。


 また頼りのロニーも幾度か攻め寄せられた砦であればこのように血なまぐさい臭いもやむをえぬかと抱いた疑問を自ら手放していた。優秀なオオカミだが司令塔があってこそであることを後に痛感することになる。


 こうして、一行は虎口に入った。


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