無頼漢
清々しい朝に似合わぬだみ声が木霊する。
「ヒヒヒ…それでよー・・・だっつんだよ」
「ワハハお前それ・・・・だろギャハハハ」
城門の前にならず者の風体の男たちが集結している。車座でヤンキー座りの男たちもいて完全に往来を塞いでいる、邪魔だ。
ベネッサがその中にいることを確認して集団の前方で立ち止まったオレにガンを飛ばすような有様だ。
すわ反乱かと一瞬身構えるが非常に見苦しい、というか小汚い。町民の方々も遠巻きにヒソヒソしている。オレはベネッサを呼び出して小声で尋ねる。
「ベネッサ、この時代錯誤なヤンキー…もといこの方々はこの領の兵士なのか?」
軽くこめかみを抑えてオレがどう感じているかを言葉に乗せてみる。
「はい!今回の探索に志願したやる気ある若手ですっ!」
引きつったいい笑顔で胸をはって言われたがあきらかに無理をしている。
これ以上追求してもどうしようもなさそうだ。
「まぁいい、では出発だ!」
ー
極力目を合わさないように男たちの横を通り過ぎようとしたときだった。
朱槍というド派手な槍を抱える男が突然に槍を繰り出してきたのだ。
ドぉぉぉという棒きれを振り回しただけでは立ちようのない後を引く音が響く!
危ない!!と思ったときにはピタリと体から数ミリで槍が停止していた。
口角を上げて「ニヤ~」という表情でこちらをみて言う。
「ご挨拶は?」
取り巻きのヤンキーもニヤニヤ顔で足元に唾まで吐きかける奴がいる。
ベネッサの様子を伺うとあわあわしているのが視界の端にうつるがおそらくこの男がこのヒエラルキーの頂点なのであろう。
にっこりと黒い笑顔を作って言ってやる。
「お前からの挨拶が先だろ。」
悪ぶってる奴を見ると残念なモノを見る目になるのは昔からの癖で、そのためにDQNなお兄さんたちに仲良く絡まれることはご愛嬌だが、この目つきが今回は特大に相手の心のひだを刺激したようだ。
周りからヤジや冷やかしが飛びはじめる。不機嫌そうに眉根を寄せた男はお前など一捻りだと言って槍の柄でオレの腕を小突いてくる。
「手前、そんな棒っキレな腕で俺様の上に立とうってか?あ?」
こういう人種は上か下かをハッキリさせたがる。
「役割だ、お前はオレを護衛する、オレはこの領を経営する。そういう役割だ、お前が価値のある男だと言うのなら、少なくとも給金分は責務をまっとうするのだな。」
この上にもおかず、下にもおかずな回答は意外にもこの無頼漢にはしっくり来る言い回しだったらしい、先ほどより僅かに機嫌の良さそうな形に口角を曲げてニヤリとして言った。
「ふーん、いっちょ前な事を言うじゃねぇか、ならそのお前の役割とやらを全うしてる姿を俺らに見せてくれよな、領主さま。」
ふんと鼻を鳴らして前に進むが心の中は穏やかではいられない。
関わる人が増えるとだんだん領主業から逃げられなくなるような、そんな不安に襲われつつ丘までの道のりを歩くのであった。
「名はティオと言う。よろしくなハルオ伯爵サマ。」
付き従って後ろを歩き始めたティオは一言だけそう言ってからまわりの部下を動かす。嫌味な言い方だがひとまずこの探索の間は領主として認めるということか。
ー
ハルオの部下
・家宰のおっちゃん
・ベネッサ 弓部隊隊員兼補佐官
中立
・ティオ 槍部隊隊長