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没落領地の気楽な領主生活  作者: 大森サコ
千丈の堤も蟻の穴より崩れるのこと
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新たな挑戦

 サトワは領都に戻りハルオに罪を告白、裁可を仰いだ。


 ハルオの心を動かしたのは強い暗示の中で、不殺を貫いた事であった。ひとまず身柄はティオとマッカス預かりとなったが冒険者となって生計を立てるとハルオに誓った。ハルオもその生い立ちを知り、腹痛の被害があった旅人や村人への贖罪を条件に観察処分としている。


「おい、サトワ。オレ様がてめぇに名を付け直してやる、綺麗サッパリとザラの事は忘れて人さまの為になる冒険者になるんだ、いいな?」


 ティオらしい高飛車な物言いだが父性が滲み出る。年はそれほど離れていないが兄としての振る舞いに近いかもしれない。ティオはハルオから言い渡されたことがある、それはサトワに名を与え、ラディオール家を再びもり立てるようにとの命令だ。戦が近い。


「カーク。」


 サトワは膝をついて新たな名を受け取る。


「カークよ、我が騎士にして我が家の盾。我が教えに従い我が一族の剣となれ。その忠義は誰に捧ぐ」


「主の導きのままに」


 ティオは初めて騎士を得た。帯剣を鞘ごと抜いてカークに下賜する。また、カークは慣れ親しんだサトワという名を捨て騎士、または冒険者としてラディオールを支えようと心に誓った。そこに黒鼠と呼ばれた賊の姿はない。



 カークは冒険者ギルドを訪れた。


 新たな主人の為にもギルドのランクは最低でもBランクにまであげなければ。これまでの鬱々とした気分がサトワと言う名を捨てるだけでこんなにも明るく希望に満ち溢れるものになるとは!いい年だがルンルンでギルドの入り口をくぐる。


 暗殺術と投げナイフがどの程度冒険者に通じるかわからないが、やるしかない。おや?入り口の影に何やら悪巧みの様子に気付いた。ここはいっちょからかってやるか。最初の印象は大切だ。あと他人と仕事を一緒にした事がないので、舐められたら終わりと本気で思っている。


 なにも気付かないふりをして扉をくぐる。


 まずは初歩だ。足引っ掛け。何事もないように飛び越える。飛び越えながら足を掛けようとした女の前髪をパッツンに切りそろえてやった。


 やはり華奢な体つきが舐められるのだろう。すかさず意地悪そうな筋肉ダルマがコケるオレを待ち構えている。足の引っ掛けが失敗しているのに準備をしていた通りに半分笑いかけて、ギョッとしているのが目に映った。残念だったな。ついでにその姿勢のまま影縛りで縫い付けておいてやる。顎が外れるまでそうしているがよい。


「冒険者登録をしたいのだが」


 受付の親父はダルそうに処理をする。ハルオ様の肝いりで始まった冒険者ギルドと聞いていたが、受付は改善の余地がある。けしからん。すかさず手刀を入れて親父を昏倒させる。ちらと周りをみるがオレの攻撃に気付くものは居ない。


「おい、受付が倒れた。そこの娘、替われ。」


「は、はい。ってえー!マテイさん大丈夫ですか!?」


 マテイという受付がそそくさと運ばれていく。替わりに座らせた娘はおどおどしながらも見事にギルドの規約を説明してのけた。途中、先輩というため息ばかりする女に助けを求めたが任務はやる気が大切だ。オレはC5ランクからの開始だと告げられギルドカードをもらった。


 ほう、これがギルドカード。さすがはティオ兄貴の主であるハルオ様!お考えになったカードはキラキラと美しい。


 一部始終を見ていたマッカスはとんでもない新人が入ってきたと目頭を抑える。まず新人イビリをコケにするような身のこなしで回避、問題児の2人に仕返しして今も絶望のどん底に沈めてケロッとしてやがる。顎戻んのかな?受付もありゃ手刀入れてやがんなぁ、あいつも勤務態度が悪かったし、お役御免かなぁ。ティオには世話んなるぜなんて軽く投げられたが、いきなりなんだかなぁ。


 「C5ランクの仕事はどのようなものがあるのだ?」


 「えっ、あ、はい!今あるのは4丁目のパン屋さんのパンの配達お手伝いと、下水のお掃除、冬ごもりのお手伝い、他にはえっと……。」


「もうよい、パンの配達をしてこよう」


 マッカスが注意をしようとしたが既にカークの姿はなかった。


 蓮華亭の酒場から覗いていた冒険者たちは戦慄した。自分たちの目に追えぬ攻撃が受付周辺で繰り広げられた事を起きた現象から察することはできたが、何が起きたのかわからなかった。


 大型新人現る。この知らせは冒険者の間を駆け巡った。


 その翌日の朝、いつもより深く突き刺さるように堅パンが配達受けに届けられた。領都では屋根から屋根に飛び回る黒いパン屋を見かけたという怪談まで出回った。ハルオは時ならぬ怪談の対応に追われることになった。


「ティオに伝えて。カークはもう少し目立たないように冒険者をするようにって」


 冬に向けて少し忙しくできてなんとなく嬉しかったハルオであった。

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