黒鼠 5
最近多忙だ。
のんびりできない。どんどん広げた事業は結局すべてにオレが関わらなければならない。さっきもティオから早馬が届いた。問題を解決したお礼に村から接待されているのでのんびり帰るという伝言だった。なんだかムラムラと沸き起こる気持ちが抑えきれない。
「あーーーなんでだぁ!こんなはずでは……」
「閣下、冒険者ギルドから相談が来ています」
「はい、なに?」
そら来た、半ばあきらめの心境でベネッサに応じる。高校生、たまにはやさぐれる時もあるのだ。そんなお子様なハルオを見せてもベネッサの目には優しさ成分が含まれる。この二人、大概である。
「仲間で1つの依頼を達成したら、仲間に達成ポイントを割り振れないか相談が増加しているようです」
「そっか、最近難易度の高いクエストを増やすように言っておいたからか」
えーと、グループとかクランみたいなのが作れればいいんだよね?なんて呼ぼうかな?ベネッサに聞いてみるか。日本語をしゃべり続けているが今まで意思疎通に困ったことはなかったよな。ベネッサが仲間という単語を仲間という意味を持たせて発音すると、あら不思議。日本語で仲間という発音になって聞こえるんだ。
「仲間ってこの大陸標準語ではなんていうの?」
「コ、ロ、ムです。」
「そっか、なんかしっくりこないなぁ。地球から拝借しちゃうか。」
しばらく考えるけど何も出てこない。あーとかうーんとか言ってみたが出てこないものは出てこないのだ。ギルドはもっと大きなくくりで使っちゃってるしなぁ……。
「クランで。」
さっそく、ヴァラキを呼んでギルドシステムの修正を依頼する。
「クランには貢献度というステータスがあって、所属する冒険者が依頼を達成すると依頼ごとに設定される貢献度を合算できる。」
こういうのできる?とヴァラキに聞くとできますとの回答だった。じゃ貢献度から次のテーブルを参照してランクを決める。これもできるとの回答だった。
ランク/人数テーブル
Pt |rank |人数
2000 |1 |4
4000 |2 |6
2000Ptにつき2人づつ増える。毎晩0時にランク査定される。人数の上限は100人まで。ギルドカードにも項目を追加する。入る文字数は2段24文字まで、入りきらなくても登録は可能と。オレはヴァラキに伝えながらもベネッサに書記をお願いする。あと、クランリーダーはサブリーダーを3人まで選べる。クランリーダーとサブリーダーは念じる事でメンバーの除籍、加入許可が行える。
「よし、じゃベネッサ、マッカスに伝言よろしくね!」
「かしこまりました!」
それから数ヶ月後、『封竜の鉤爪』というクランがこっそりと出来ていることにオレは気がついた。ティオに確認すると、例の村で捕縛した賊を改心させて冒険者にしたそうだ。どのように改心させたのか聞くと鈴を握らせたあとに、しこたま殴ったと言ってた。意味がわからん。
−−
ティオは頭を抱える。あまりこの男がするような仕草ではない。まずひとつはアデーレが目を合わさないためだ、何かを言いかけてまた俯くような有様だ。こいつはどうでもよい。だがもう片方の賊はザラの息子だった。ザラの息子はサトワと言うそうだ。サトワは、生まれつきザラの能力を強くその身に宿して生まれた。ザラもその能力に気付き己の思いつく限りの暗示を掛けた、自らにその牙が向かぬように。
その暗示は強力なものだった。ザラ以外を殺す。決して見つからない。しかし、いずれもほころびができていた。ティオの野生の感と昴から譲り受けた能力によってザラは今この世にない。そして襲撃をかけようとすると見つかった。言の葉の力の縛りが揺らいでいた。その前に薬師の老婆に命を助けられたとき、綻びは起きていたのだろう。あえて言うならば村人に死者がなかったのがその証拠である。
ラームが持たされた予備の鈴をティオは預かり、サトワの目の前に垂らす。
凛。
「なんのためにこの村で旅人を襲った?なぜ何も盗らない?」
「それは……主から命じられたからだ」
「その主の名を何と言う?」
「ザラ」
立ち会う一同に緊張が走る。
「ザラは村人を殺すなと命じたのか?」
「いいや、殺せと言われた……」
「なんのために関係のない村人を殺させる?」
魔王のような武威を纏ったティオに威圧を乗せて、真っ直ぐに見据えられると自然に真実を語ってしまう。そうサトワは思った。
「さぁわからぬ、領都で騒動が起きたらこの村を壊滅させろとだけ言われた」
ラームの目が光る。
「なぜ村人を殺さなかったのだ?」
「……。」
「おい、聞いているか?その暗示から逃れたくばこの鈴を握れ。」
やはり直感でサトワの善良を見ぬいたティオは改心の機会を与える。
凛。
そーっと、後ろ手に縛られた手のひらに鈴を近づける。自ら開いた。
ごぉぉぉ……およそ人の鳴らす音ではない。
大気が振動するほどの呪を弾いたのがわかった。
つーと涙が零れる。これまで良心と呪の狭間でなんとか生き抜いてきたサトワは一筋だけ涙を流した。嗚咽もしない。下も向かない。ただ真っ直ぐにティオを見た。その表情からは先ほどまでの残忍さが零れ落ちていた。そして――
「私を殺してください。」
ティオは無闇に命を投げ捨てる奴が大嫌いだ。サトワの胸ぐらを掴むとすくっと立ち上がる。左の頬を強かに打ち据える。驚くサトワに構わず、みぞおちに膝を叩き込む。すでに吐くものもない。何かを訴えようとするサトワの顔面を張る。痛みで涙が出てきていた。
「なんだきちんと泣けるんじゃねぇか」
そういうと、左手で持ったサトワを右手に譲りさらに右の頬を張る。脳にダメージが通り泣くどころではない。クラクラとする頭を必死に覚醒させていると、更に強烈な一撃を腹に喰らう。泣きたくて泣いてるんじゃない、痛すぎて泣いてるんだ!!サトワはそう思った。もう許してください、死にたくない。そう呟いたとき、手離された。
どっかりと庭に転げるサトワを眺めてティオは言う。
「ならせいぜい長生きするこったな」
「飯喰いおって戻ったらいきなり暴力とは、いやはや」
ラームとサラが並んで呆れている。
「けっ、この領の悪党はどいつもこいつもザラに関係していた。まぁこいつぁその中じゃ真っ当なほうだ、婆!ちゃんと面倒見てやれよ。」
「この村には置いておけぬよ。坊っちゃんのほうでなんとかしてもらえぬでしょうかなぁ?」
ざざっ
縛られたままで五体を投地するサトワ。
「アニキ!弟子にしてください!」
驚く一行にひとりの同道者が現れた。




