ドッキリじゃ、ない。
満面の笑みの太ったおっさんの横でガリガリのおっさんが口を開く。
「して商人殿、此度はどのようなご用件でしたかな?」
途中で亀と話したような気がするけど、あれは夢だ、と思いたい。
まだドッキリの可能性が濃厚だと信じたいけど、状況からどうやら中世っぽい田舎街に転移か何かをしたらしい。
ひとまず、転移してしまった線で話を合わせる必要があるか…伯爵は従兄弟がなんとか、ぶつぶつ言ってたよな。
「この地には珍しきものがあると都にてきき及びまして、それではと店を従兄弟に譲り仕入れに参りました次第です。」
なんて言えば商人っぽいのかわからない、ドキドキする。ちょっと後先考えてない感じがダメかな…。
「ほぅそれは、どのような噂でありましょう?」
ガリガリの目がギラリと光る。
よ、よし!このまま退出する方向で。
え、えーっとどんな噂か考えてなかった、うーん
「石が…え~光る的な?」
「ほぅ、光る石とな?」
太っちょも喰いつく。
「そのような石はこの領地にて噂となっておりませんか?」
く、苦しい…食いつかないで。
「伝承ではあるが、街の近くの丘にある亀甲石が光る石と言われておる。詳しくはほれ、コレ次第じゃ。」
左手の親指と人差し指で輪っかを作る太っちょ。
えーーーー光る石なんてあんの!?しかもさっき居たバショじゃん!あと金ないし…、そのジェスチャーって異世界共通ですか!?フランクだな!
左手の親指と人差し指で輪っかを作って答えるオレ
「これは友人に預けておりましてー、よろしければ取りに戻ってまた商談をさせていただく形ではいかがでしょうか。」
「ならん!!」
先に情報を話すので兵士を同行させて金を取りに行けと脅される。
まるでチンピラ、都会にはぼったくりバーというのがあると友達の牧くんから聞いたことがあるがまさにそれである。
逃げられない…。
はいかYesしか選べないぞコラ!
太っちょは外を眺めながらつぶやく。
「…なに、光る…玉を…青年が?」
ハっとした伯爵は前かがみで顔を近づけてくる。
「もう少し近う寄れ。」
ハルオは数歩歩み寄る。
「よく聞け…お主、ワシの養子になれ。」
サムズアップして満面の笑みの伯爵。彼は歴史的な人物の故事に大いに憧れていた。そしてこの窮屈な生活から一刻もはやく抜け出したかったのだ。
自らの地位はいつ命の危険があるかわからない。働き盛りにして悠々自適な隠居を夢見るだめな男である。そしてちょっぴりハルオの眼差しに賭けてみることにした。
「大丈夫じゃ、わしが遊んで暮らゴホゴホ、わしを大切にしてくれればよい。父と思って盛り立てよ。」
その日城にはオレ、ガリガリの絶叫が響いた。
”マジでー!?”
そして、それから2週間後、ハルオは王国建国以来の名家セーラト伯爵家の31代当主となった。
その出自、急な当主交替と宮中を賑わせたが、いかんせん貧乏な没落領地。気にとめるものもなく、ハルオ伯爵が誕生したのであった。
やっとスタートです…。
4.25 '16 1話の改訂に合わせて修正しました。