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没落領地の気楽な領主生活  作者: 大森サコ
千丈の堤も蟻の穴より崩れるのこと
23/52

布石

ザラ・ティブラス。

爵位は陪臣男爵。

齢は65。精力はなお衰える事を知らず、飽きたらずに富を追い続ける。

最近判明したことだが平均寿命が40と少し上ぐらいと長くは生きられないこの領にあって、相当な老人と言える。


そして、強引な手腕で一代で財を築いた抜山蓋世ばつざんがいせいの雄としても名がある。その在所は領都から西側。辺境伯領に接する長大に広がる平野に位置する流通および農業の要というべき土地にあり、彼の差配する兵は80とすべての領内貴族内で最も多く、その練度は精強でも知られ辺境伯から援軍を請われる事も少なくない。


「お気をつけください、ティブラスはどのような手を使ってでも我意を押し通す事で有名です。」

「何しに来たの!?」

「ご本人に聞いてください」


ベネッサは困惑顔でさらに付け加えた。

「閣下、ティオ様をあのお方に近づけてはなりませんよ、真っ二つに切ってしまいかねませんから。」

「え、、」


ラディオールの没落にはティブラスの影がつきまとう。街でそういう噂を仕入れたこともあったがどうやら最悪の相性のようだ。何はともあれティオと昴を応接室に呼ぶようにベネッサに伝える。


バコン!


元来は貴族の教育を受けて作法も心得ているはずだが・・・ティオがノックもなく扉を蹴破る勢いで応接室に入室してきた。どうやらティブラスの領都入りをどこかで聞きつけているようだ。とてもではないが虫の居所がよいようには見えない。戸惑い顔の執事さんが扉を優しく閉める。


バコン!


こちらは野生そのままのすばるが扉のドアノブにぶら下がって遊んでいる。

やはり戸惑い顔の執事さんがおろおろしているのがドア越しに見えた。


こほんっ

手をソファーに指し示しながら2人の注目を集める。

なんだコイツという胡乱な視線を昴に向けるティオはソファーに巨体を沈める、そんなに深く座られるとなんとなく不作法な感じに見えるがちょこっと正座してソファーに座る昴を横に置くとどうでもよくなってくる、不思議だ。


ふたたび咳払いをして本題をいきなり切り出す。

「診療所を作るプロジェクトを高級文官のひとりと昴で進めてくれているが、これには貴族家の後援があったほうが村々に話を通しやすい。そこでだ、晴れて貴族の地位に戻ったティオにお願いしたい。」

「ふん、そんなもの頭でっかちのサムルあたりがお似合いの仕事じゃねぇか、まぁてめぇには返しきれない恩もできちまったわけだし、体を使う仕事なら任せろ。」


本当に僅かな揺らぎ程度のことだが柔和な表情を見せるティオ。が、一変獰猛なる虎口が雄叫びを発するが如くに「例えば、ティブラスのジジイをぶっ殺すとかぁぁな。」と言い出す。


ガクガクと震える昴が気の毒になるがオレもティオの本気の雄叫びは恐ろしい。というか戦場でもすべての味方にまで届いたという絶叫を室内で発するんじゃない!衛兵も得物を取り落としそうになっているじゃないか。とはいえ、やはりその話題に行くか・・・。


「ティオ、その件は諦めてくれ、ください。」

ギロリと睨まれただけでつい敬語が出てしまった。

「やつは叩けば埃だらけだ、サムルあたりを使って炙りだしてくれればオレサマがたたっ斬る。」

な?簡単だろ?というような仕草で裁判無しの極刑をさらっと言ってのけるあたり恨みもあるだろうがこの世界の命の考え方は日本に比べてもだいぶ軽い。


「裁判にかけて、その罪に相応しい罰を与える。それが死刑とは限らない。ましてや貴族であれば罪に問えない事も多い。それでいいな?」

しぶしぶという感じで流石に引き下がってはくれたが雰囲気は暗い。

その暗い雰囲気を打ち消すように努めて明るい笑顔で診療所建設の巡回使の役目を依頼する。


「ティオが村を巡回して戻る頃にはティブラスの調査も終わっているだろう、それを対価に引き受けてもらえないだろうか?」

「そこまで言うなら断る道理はねぇ。」

ティオにしては珍しい沈思を挟んで最もなことを付け加えた。

「で、隣のこの置物はなんだ。」


2対の視線を向けられた昴は名乗る。

「す、すばるという・・・あの雄叫びは洞窟の中にまで聞こえたのじゃ、お主がわが民を救いし英雄殿であったか?」

事情を飲み込めないティオに代わってオレが答える。

「あぁ、そうだ盗賊討伐戦の一の戦功者のティオだ。そして昴はあの山に眠り続けていた神獣でヴァラキと同族みたいなもんだ。今回は昴の治癒の加護を使って治癒の担い手を集めながら診療所を領内の各村に建ててまわる。」


「やはりじゃ!」

昴が送るキラキラ目線と驚きの成分を多分に含んだティオの視線が交わる。

「わらわは決めた!ハルオにお願いしたわらわの力の結晶探しはこの男に依頼するゾ!お主が手にするは千丈を凍土となす秘術、どうじゃ?」

「ほぅ、なかなか興味深けぇことを抜かすじゃねぇか、そいつはどんな形してんだ?」

「「わすれた」」

オレと昴の声が揃う。


「なるほど。」とだけティオは言ってソファーから立ち上がる。

「んじゃ、ちょっくらこのチビの仕事を手伝いがてらその失せ物探しも片付けてくらぁ。おい、いつまで座ってやがる、いくぞチビ!」

「わらわの名はすばるじゃ!名前で呼んで敬えぇ!」

ふんっとだけ言って応接室から出ていくティオに遅れないようにてくてくと付いていく昴。

凸凹だけどなんとなくいいコンビになるような気がして見送る。


こうしてとある一団がこれから騒々しくなる領都から旅だった。

ティオ、昴、バートン、そしてバートンの妻であるマチルダだ。


「今朝方早くに開門と同時に門をくぐった模様です」

「そうか、報告ご苦労様」


武官からの報告を受けていよいよティブラスと対峙することを決める。

「では、ティブラス殿を城に」

「はっ」


控えていた文官が準備されていた招待状を持って臨時執務室から出ていく。

入れ替わるようにげっそりとしたベネッサがオレの席までやってきて言う。

遠見の呪術という術がありベネッサはその使い手でもある。弓と相性が抜群にいいが、城の塔に登ればかなりの遠距離を見渡せる術である。その分長時間の遠視は体力を激しく消耗する。


「ティオ様に何者かの尾行が付きました」



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