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没落領地の気楽な領主生活  作者: 大森サコ
千丈の堤も蟻の穴より崩れるのこと
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はじめての討伐 2

館からのぞく蔦を足場にひとひらの蝶がつかず離れずで踊っている。


日差しが中天にさしかかる頃、蕾であった花が大きく開花した。

と同時に、蝶は甘い芳醇な香りに惹かれて蜜壺に入り込む、その蕾は迷い込んだ蝶を捉えて離さない。しかし蝶が興味をなくすと青い高空に舞い上がる。


毎年繰り返されてきた何気ない出来事である。

蝶は蜜を得、花は受粉を果たす。来るべき冬に備えて生命の営みが繰り返される。

同じようにこの盗賊窟も秋から冬へ冬から春へ移ろおうとも成すべきことは変わらない。しかし、今年は少し勝手が違うようだ。


ドンっと机を蹴り上げる音に様子を伺うネズミも慌てて逃げ出す。

元は上等な布を粗末な仕立てで台無しにしたうえで、元の色が判然とせぬほどに着潰した、裸の子鬼のように見えるひとりの老人が跪いていた。


「おい、村長もう一度言ってみろ!?」

「へ、へぇ」

「へ、へぇじゃねぇ、今年の年貢が納められねぇとはどういう了見だ、あ?」

「こ、今年はひひ、日照りでーー命のお水もお館様から差止められましたので…ギャフっ!?」

「おい、聞こえねぇ、もう一度言ってみやがれ」


今度は、更に小さな声で老人は嘆願する。


「おなごもすでに村に妙齢のものはおりませぬ、なにとぞ、ご勘弁を」


尻すぼみになる声を必死になって絞りだす様は滑稽ではあるが、見るものがみればその勇気をたたえたであろう。それもそのはず、目の前のお館様と呼ばれた男は烈火のごとく怒っていたのだから。


昼間から酒も入り、相手はボロをまとっただけの老人である。いっそひと思いに首を掻き切って村に届けてやろうかとも思ったが、興が乗った男は老人を開放するように子分に命ずる。

そして10日のうちに旅人を襲撃し、物資や女を攫ってこの館に届けよと老人に命じた。


よもや逃げまいな。


酒気漂う息を吐きかけられ凄まれた老人はガタガタと震えてなんとか家路につくことができた。


ーー


そして老人は、酒気がまだ鼻の奥に残るがすぐさま寄り合いを開き、鼻息も荒く山のお館の言葉を村人たちに聞かせた。憤怒の老人は先月娘を山に攫われた、この寄り合いでは一番若い農夫に意見を求めた。


「人さまを襲うなんどとんでもねぇ、あんの盗賊どもにおらの娘っ子が!!うわーん」


哀れにも鼻水まで流して泣き叫ぶ男を見て老人も少しは興奮が冷めてきた。

火の気もない囲炉裏を薄汚い男が囲んで、そのうち一人は大泣きである。

だんだんと何事も可笑しく思えてきて、禁忌でもある領主様への直訴に及ぶべきか老人が考え始めたときだった、ここはひとつ御使いの狩人様に領主様へのお繋ぎをお願いしてはどうかと意見が聞こえた。


「そうじゃ!」

「「そうじゃ、そうじゃ!」」


あの新しい領主様ならなんとかして下さるやもしれぬ。

さっそく、村の様子を気にかけて逗留されている御使い様の宿に押しかける。


ガツ…ガツ


ドアノックをゆっくりと上下する。

勢いでここまで来てしまったが本当に直訴など大それたことをしても打ち首とならないか、急に恐怖が湧き上がったこともある。

さらにゆっくりとドアをノックする。

その様は出てこないで欲しいと願うようである。


ギッ、ギー・・・。


ついに開いてしまった!

ざわっとする村人にララがワオっと威嚇する。

びくっとする村人全員を眺めてセトが言う。


「どうしましたかね?こんなに集まって」


ーー


セトの知らせを受けた領軍の動きは迅速であった。

まず村に他村から少しずつ寄付された輜重とそれを警護する兵を20込めた。

この後領都で集積された物資が追加で届くだろう。さらにハルオ操るカリギュラの力で村の塀を頑丈なものに作り変え、櫓を設置した。


見る間に防御力が増強され、食料まで運び込んだ領軍を村民は心から歓迎した。

妙齢な女性はすべて盗賊に攫われたあとで、母親か祖母かという年齢の女性の歓迎であったのが残念なことであったかもしれない。いささか熱烈すぎた歓迎は多くの兵を驚かせた。


そして今度は盗賊たちの見張りが驚く番であった。

一夜にして兵が現れ、村は城塞のごとくに堅牢な塀に囲まれた。

そして櫓まで立ち、見張りも万全のようだった。昨日までその紙のような防御を苦笑しながら眺めていた村ではなくなっていたのだ。


「なんてこった、いつのまにこんな・・・館に伝令!村人どもは呪い師を雇った模様だ!」


「はっ!」


駆けていく伝令をみて男はそろそろ潮時かと呟いて踵を返す。

呪い師が相手では逃げるが勝ちよ、いのちあっての物種だ。


森の茂みに隠した馬の背に飛び乗ると伝令が駆けた方角とも違う、隣領との国境に向かって駒を進めた。

しかしその姿をじっと捉えるオオカミの双眸があったことに男は気づかない。

それ以来この男の行方を知るものはない。


伝令はひた駆けた。第一の壺への入り口のひとつに近づいたと思ったとき、オオカミに襲撃を受けて命を散らすことになる。

この戦、2人目の魂である。


このようにして他にも10名の伝令を葬ったオオカミ隊が合流すると、領軍の襲撃隊が第1の壺への入り口をすべて塞ぐように布陣する。

そのとき、ララが敵館の裏手に回りこみ遠吠えを行った。


「ワオーンォ」


敵はオオカミの遠吠えに崖の上からは守ることも攻めることもできぬことを忘れ、館に兵力を集中し始めた。またオオカミの戦場への登場はちょっとした事情通なら誰でもわかるほどに、セト・ララの参戦を否応なしに知らしめた。


その頼もしい合図を得てティオ率いる本隊が第1の壺の制圧を開始する。

内偵により、第1の壺の施設には捉えれた村娘たちが牢に繋がれていることがわかっている。

第一目標はその牢である。


「うぉぉぉぉーーー!!」


ゴンっ!!

腹に響く鈍い音がすると朱槍の初撃が敵のシールドを吹き飛ばす。

吹き飛ばされたシールドは盗賊ごと木の葉のように舞うのだ。

全身を使って振り回す槍の猛撃に呪術を乗せて数発シールドの壁にぶち込む!


数合の打ち合いで盗賊の前衛は完全に崩壊していた。

あとは弓と槍の挟撃で数を減らす、ここで数を減らすことは作戦全体の難易度を位置づける。

なんという事もない敵の膂力のなさにため息混じりにティオは更に槍を突き入れる。


「ぐごぉ!」

「ふぎゃっ!!!」

「ぎょえぇ!?」


一振りで幾つもの命が刈り取られる。

黙々と狩り尽くす姿がさながら死神のようで、敵も味方もすくみ上がる。

このときティオは戦場を支配した。

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