コーラギー
ベネッサがついに戻ってきた。
こっそりベネッサの弟のことをティオに聞くと重度のシスコン男で根は真面目だが、変人。
そんな端的な人物評価だった。また、謀が得意で底の見えない人物だと、いつの間にか隣りに並んだヴァラキが言う。
弟の名はサムルというそうだ。
「王よ、あなたは私を斬首とするでしょうか?」
そんな言葉から始まったベネッサの弟の挨拶は驚愕の連続であった。まずは暗殺計画の暴露。
「私はあなたについて不敬な言葉を吐いた上に、あなたの死を望みました。何よりも姉と親しげなのが気にかかります」
そしてさりげなくもない、拗らせたシスコンのストレートな言葉。
これは一筋縄ではいかなそうだ。ここは姉の力でなんとかしてもらうしかない。オレはベネッサを呼んでサムルに現役復帰と例の布告を行うように説得してもらう。
一転、デレたサムルは快く仕事を請け負ってくれた。ちょろすぎる。
「私はあなたを認めてはいない。しかしこの度の仕置は素晴らしい、いくつもの問題を解決したことでしょう。しかし何人かには必ず目をつけられました。本来の私の仕事はそれらを排除することです。ですが、私はあなたの敵をあえて泳がすことにします・・・姉の思いを奪うあなたが悪いのだ。」
いや、前言撤回、キモすぎる。
コラぁと怒る姉をみてニマニマ喜んでいる、かなりの重症だ。ティオとオレは苦笑いを交わした。
「失礼致しました、思わず本音が漏れてしまいましたが・・・貴方様からのご依頼引受けましょう。領軍中将サムル・コーラギー準男爵これより現役復帰し全力で仕事に取り組ませてもらいます!」
貴族だったのか、ベネッサ・ローハンと家名が違うけど義理の家族なのかな?
ま、いっか。ひとまず軍の有力者らしい人物と関係を持つことができた。
「サムルよ、我が名はヴァラキという。亀甲石を守護する精霊じゃ。王の命によりこの領の内務卿を務めることとなった。お前は私の部下となる。そこでだ、お主にひとつ策を授けよう。」
威厳あるヴァラキの下知にオレにはまったくみせない、迅速誠実な態度で応えるサムル。
ベネッサとティオは自分も経験した道だ。とあるお伽話のことを頭に噛み殺しきれない笑いをこらえる必要があった。きっとこの子も同じことを思っているに違いない。
滑稽なまでの生真面目な返答がすべてを物語っている。
「ハッ!なんなりと」
サムルは思った、これは早まったやもしれぬ、まさか伯爵の守護者が亀甲石の精霊とは、伝説の王の物語が史実であったとは…しかもヴァラキだと!?恐怖の善王の政策のことごとくを実行した冷徹な宰相と同じ名ではないか・・・よもや。
冷や汗が背を流れる。
「おい、サムル、そんなに怯えなくてもいいぞ、オレは人を正義と恐怖で支配したりしない。善良な学生でついでに伯爵だ。」
「更についでに言うと、かなり抜けている」
ティオが事実ゆえにムカつくことをさらっとかぶせてくる。
王となったとはいえ、それはヴァラキにとって王であるに過ぎない。これまでどおり王国伯爵として振る舞うことを皆に確認しているが、改めてサムルも含めて伯爵であることを念押ししておかなければならないだろう。そうでもしないと王に目をつけられたら、それこそ目もあてられない、戦争にまっしぐらだ。
「ふん、どう思おうがお前の勝手だが・・・策は肉との交換で糞尿を収めさせろ」
えっ!?
全員がギョッとする。
「うんちやションベンを集めたら肉と交換してもらえると?」
各村に穴を掘り一箇所に集まるようにするように、またその穴は浅くて森が近いとよいというアドバイスまでしていた。
オレはピンときた、熟れると堆肥になる、それを肉と交換するのは先々の農業生産を考えると一石二鳥だ。さらに村の衛生面の改善も期待できる。無償で施すのは最後の手段だ、これなら領民の忠誠もあがって暗殺から一歩遠ざかる。
「飼い牛や羊、馬の糞でもいいよ」
オレがそう付け足すとヴァラキは満足そうに頷いた。
後の細かい方法はサムルに任せることを告げ、さっそく作戦に移ってもらう。
そのやり取りから1月後、またもや王宮に使いが走る。
伯、肥やしをもって蔓延する病魔を退ける!
またたく間に広がる噂は、毎夜開かれる絢爛豪華な夜会の出席者の耳を楽しませたという。
その噂話に、ひとりのかわいらしい王女が興味を示したのはまた別のお話。




