七話目。
「見回り組、もう大丈夫。これから安全地帯を探しに行こうと思う」
疲れたような声で見回り組を集めるミカ。
ホールに敵が集まることを予想し、危険だと判断したのか、少し焦っていた。
「バラバラに移動していた時、敵に会わなかったグループはどこ?」
スッと何人かが手を挙げる。確かにそのクラスメイトたちは怪我もしていなかった。
「範囲が広すぎる……全部周ってなんかいたら犠牲者が増える一方だ」
「ウァァアアアァアァア!!!!」
どこから周ろうかと全員で考えているといきなり大勢の敵がホールに流れ込んできた。
いきなりの事態にほぼ全員が固まる。
それと同時に十メートルほど先の目の前には先ほどまでなかった大きな扉が現れた。
〈扉ヲ開ケルタメニハイケニエガ二名必要ダ〉
脱出のための条件を聞いたクラスメイトの顔は真っ青になっていった。
私もまた、心を乱していた。
「こんなに多くの敵と戦いながら二人も殺さなきゃいけないの!?」
「違う!二人はここに置いていかなきゃいけないってことだよ!!」
「ガァァアア!!!!」
スナイパーであるリクは射撃するときどうもスキが出来てしまう。そのせいでリクは敵の攻撃をくらっていた。
「がはッ……!くっそ!!」
ヒロトを殺した大きな黒い影とは違い攻撃は弱いが後頭部なんかにあたったら即死だろう。
「ナイフなんかじゃもう倒せないよ!!」
「だったらこれ使え!」
何かをシュンに投げられそれを受け取ると、それはヒロトの使っていた少し歪んだ鉄パイプだった。
長さもいい、打撃には最適の武器だ。
「はぁぁああぁあッ!!!」
「グゥッ……!」
ゴンッと鈍い音がすると同時に手には細かい振動が伝わってくる。
曖昧な存在だと言うのに当たると硬い。変な敵だ。
何人かの敵を倒し余裕が出来たため周りを見渡すと、仲間同士で戦っているクラスメイトがいた。
「あの時のこと、許してないから!」
「だからって私を殺す気!?」
ハッキリ言って異常な光景だ。
正常な判断が出来ているのは二回目メンバーと数人だろう。気のせいだと思いたいけれど、何回か、あの犠牲者を知らせる放送が聞こえた。
「アキラ、DB、アヤ、ホノ、シュンは扉に向かって!アンタたちなら、生き残れる!私とリクはギリギリまで残る!イケニエは……考えたくないけど候補に私を入れておいて!リクは危なくなったらすぐそっちに行かせる!!」
「どうしてカオリがそこまでしなくちゃならないんだ!!」
「私はもう利き手を使って戦えない、戦力としては数えられないの!お荷物になるくらいならイケニエになる!!」
「ッ……わかった!」
ヒロトの鉄パイプは強かった。どうやら歪んだのは持ち主であるヒロトが最後に戦ったあの敵の一撃だけだったようだ。私が何体もの敵を叩いて、殺して、そんなことしてもへこみすらない。
「まったく……涙がまた出てくるよ。私の前で二回も死んでるくせに、こうして守ってくれるなんて…………」
敵と戦ってるうちに、死んだヒロトの前まで来た。
こんな殺され方しといて何で笑ってるんだよ。
幸せそうな顔して、まるで眠ってるみたいに倒れて……本当に最後までバカだったね、ヒロト。
私がヒロトの目の前に来たせいで、死んだヒロトに向かって武器や拳を降り下ろす敵がいた。
「ッ……ヒロトに触れるなァッ!」
「ヴァァアアァッ!!」
「ガグッウァァア!」
止まらない怒りに気付けば私は力の限り鉄パイプを振り、異常なレベルの動きをしていた。
どんな行動をしたかなど覚えていない。だが、その時見ていたヒロトの顔や、ドクンドクンとうるさい自分の心臓の音だけは覚えている。
「はぁッ……はッ…………」
一度目をギュッと瞑り、もう一度現実を確かめるかのように一気に開く。
目の前の景色は黒と赤に染まっていた。
転がる敵は徐々に消えていく。残るのは敵の流した血液のみ。
ヒロトには敵の血がついてしまっている。
「ごめんねヒロト、騒がしかったね……。私達はこれから、第二ステージに行くの。一人にさせてごめん、必ずまた…………」
「カオリッ……あぶねぇ!」
慌てたリクの声が聞こえたため素早く振り返ると、
後ろには、私に棒を振り下ろそうとする敵がいた。
「!?」
「バカッ伏せろ!」
リクの命令に従いヒロトを庇うように伏せる。
私は、死人までも傷付けたくないのだ。せめてもの、恩返しだと思っている。
一瞬で一発の銃弾が私の後ろから放たれた。
そして私を狙っていた敵も、静かに消えていった。
「リク、ありがと……」
「ッ……無理、させんなよ…………」
銃弾を放ったリクの声は弱々しかった。
ボロボロになった学ランが、どれだけリクが敵の攻撃を受けたかを語っていた。
そして流れている血や、学ランの破れた所から見える痣は痛々しいほどのものだ。
だがリクの悲劇はまだ始まりの途中だった。
「死にかけてる奴なんて、これから死ぬんだからイケニエになれよ……!」
ヒジリがリクにナイフを振り下ろした。
一瞬のことだ。
そのナイフはリクの太ももを刺した。
「ッ……グッ……!!!!!」
ヒジリは激痛のせいか、声すらでていない。
そのナイフは何度も何度も、振り下ろされた。
「やめて……やめてってばッ……!」
「うるせぇ!!!俺は皆で仲良く死ぬ気なんてねぇんだよ!」
ナイフが刺さるたびにセイには返り血が跳ねていた。
「ひどいっ……」
悲鳴を飲み込みリクの方へと走った。
誰かを見捨てましょう、あなたが生き残れるでしょう、そんなの誰も教えてくれない。授業で教わるのは古文、計算、科学、歴史、英語だけだ。いつ誰がデスゲームのクリア方法なんて教えてくれた?わからないから自己判断?
「ふざけんなッ……!」
鉄パイプを握った手に力を込めてヒジリを叩いた。
「がぁッ……!!」
たった一撃であっさりとヒジリは倒れた。精神状態なんかも関係しているんだろう。
リクに肩を貸しながら扉へと向かう。
ただひたすら歩いた。
ポタポタとリクの足からは血が流れ出している。出欠量は半端じゃない。
でも、このゲームの主催者は意地悪だ。
何体も何体も……また敵は増えてきた。
「リク、もう無理かも……」
流れる血。床に転がる何人かのクラスメイト。唸る敵。事態は最悪だ。
「じゃあお前が先に行けッ……!」
「それこそ無理……リクを置いていけないよ!」
息を切らして敵を睨みながらリクは叫んだ。
そして、私から離れて足を引きずりながら敵に向かっていった。
だがあの傷で戦うことは不可能。扉への道を塞がれないよう囮になっているように見える。
「リクッ……今なら間に合う、一緒に行こう!?」
「……わりぃ、もう俺、ゲームオーバーだ。また会えることを、願ってる」
苦笑いをしながらリクは武器を捨て、ドサリと床に倒れた。
〈犠牲者3名。モカ。マナ。ユリ。イケニエ2名。ヒジリ。……。ゲームクリア確率17パーセント〉