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リアルキルゲーム 〜白の呪い〜  作者: 沙乃
【中学三年】第一ステージ
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六話目。

 私なら、私達なら助けられただろうか……。

 誰一人、犠牲なんて出させない、そんなことできただろうか。出来ないって、不可能だって、諦めたくない、諦めちゃいけない。そう思ってた。



「…………助けてあげられなくて、ごめんッ……」



 バチンッと大きな音がすると右の頬に痛みが走る。



「ハッ、ハッ……馬鹿か。ッ……、誰が、助けろなんてッ……頼んだんだよ……!」



 私の頬を叩いたのはヒロトだった。息をするのも辛いだろうに、死んじゃうかもしれないのに、私が、馬鹿みたいなこと言ったから。


 よく見てみれば、ヒロトの少し茶色い髪が赤くなっている。倒れた時に頭を打ったのかもしれない。いつものヒロトの無邪気な表情ももう余裕のない表情になっている。



「誰かヒロトを助けてよッ…………」



 そう叫んだのに、ホールにいるクラスメイトは揃って目をそらす。

 アヤは隅で泣いていた。もう目の周りが腫れてしまっているようだ。


 どうしてよ、どうして仲間が死ぬかもしれないって言うのにそんな顔してられるの?助けてって、言ってるのに……。



「なぁ……俺は、役にたった、か?」

「うん……」

「良かっ……た…………」



 〈犠牲者1名。ヒロト。ゲームクリア確率3パーセント〉



 その放送を聞いたのは、二回目(・ ・ ・)だった。

 ふぅ、とヒロトが息を吐いて、動かなくなってその放送が流れた。現実というものを、無理矢理にでも押し付けてくるような、そんな放送内容だ。



「カオリ……、これは私達二回目のメンバー全員の判断ミスだよ」



 泣いている私に一言だけ静かに告げたのはミカだった。



「わかってる……話さなきゃいけなかったのに、目立ちたくなくて…………」

「どういうことだよ」



 ダイキが少し低めの声で試すように言う。私とミカの会話がおかしいからだろう。

 一度深呼吸をして覚悟を決めた。



「私と、リク、DB、アヤ、ミカ、アキラは前回のリアルキルゲームの生き残り組なの」



 二年前、私が一年二組の時このゲームに入れられた。その時は多分、ハッピーエンドに終わった。だからゲーム内で死んだクラスメイトは生き返った。ヒロトもその一人だ。生き返ったクラスメイトはゲームの記憶が無くなっていた。生き残り組しか、このゲームについて覚えていない。


 私達二回目のメンバーは下手に目立たないよう初心者のように装っていた。

 だから、そんなことしなければ、ちゃんと戦っていれば、ヒロトが死ぬことはなかったのだ。



「二回目……だったの…………?」

「……うん」

「じ、じゃあこのゲームをクリアする方法、知ってるよね?」

「それは……」



 わからない、本当に。少しずつ謎を解いて、いくつかのステージをクリアすればそれで終了。でもその段階を幽霊のようなものが邪魔する、それしか記憶がない。謎について、敵について、主催者側(ホスト)について……記憶が奪われたんだと思う。



「……ごめん。思い出したくないことだったよね」



 アヤカが申し訳なさそうに謝る。違う、思い出せないだけ。ごめんはこっちのセリフだ。



「一歩前進出来ただけいいんじゃない?」



 一回目のなはずなのになぜか冷静に見えるシュンがそう言った。シュンにとってその前進は大きいのか小さいのか、それはわからないけれど確かな希望を持っていることだけはわかった。


 シュンも幼い顔立ちをしていて、笑顔も幼いのだ。他のクラスに双子の妹がいるらしい。ヒロトとは友達で、教室での席はすごく近かった。そんな友達がこんな殺され方をされたというのになぜ落ち着いていられるのだろう。まるで授業で先生に当てられて、その問題について答えるかのような声だった。



「……あのさ、二回目の人達に聞きたいんだけど、安全地帯とかない?ゲームだったら必ずと言っていいほど存在してるはずなんだけど」

「食料とかどうするんだ?」

「武器の使い方がわからないんだけどどうすればいいの……?」

「ここを脱出したらゲームは終わるの!?」



 状況を受け入れたのか、最初よりも生き残ろうと皆必死なようだ。

 さまざまな質問が飛んでくる。



「まず、ケイが質問した安全地帯のことなんだけど、私達が経験したリアルキルゲームではこのホールがそうだったの。だから現状では安全地帯は見つかってないかな……」


「ダイキの質問には俺が答える。……実は俺も一回目は食料について気にしたけどどうやら腹は空かないらしい」


「メイリの武器の使い方なら私が教えるよ」



 DBとリクとミカが協力して質問に答えている間は私とアキラとリュウトが周囲を警戒して見張っている。どうやらシュンもそれに加わっているようだ。


 シュンはきっと、ヒロトを殺されたことが許せないんだろう。けれど、そのどうしようもない怒りは恐怖を上回っていた。だから冷静に見えるんだ。



「シュン……その、ごめん」

「何でカオリが謝るんだよ。カオリが悪い訳じゃないだろ」

「でも…………」

「ヒロトの次は俺に叩かれたいわけ?」



 違う、と横に首を振る。すると、シュンはならいいだろ、と言ってまた歩き始めた。



「あのさ、シュンの武器ってなんなの……?」

「……武器なんて、ない」

「え……?」

「俺もよくわかってないんだ。皆武器を持ってるし……。バラバラになって探索してた時、ユウタが危ないところだったんだけど、とっさにその敵を蹴ったんだ。そしたら敵は消えた」



 そんなの、有り得ない。

 これはいわゆるゲームのバージョンアップなのか……?



「今回は、わからないことが多すぎる…………」

「でも、それでも、誰一人死なせたくない。そう思ってるんだろ?だけどそれは希望だ、願いだ。絶対なんて、出来ないものなんだ」



 シュンの言葉は、耳に、心に響いた。私も同じことを心の中ではわかっていたから。誰かにハッキリ言ってもらうまで、認めたくなかっただけ。



 顔を上げ、俯くのはもうやめた。シュンの背中を追いかけて歩く。一歩一歩、前を向いて。





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