全てを元通りに。
「私は高校の日常に戻りたい」
「……うん、わかった」
私は普通に戻りたいと思った。中学校のクラスメイトたちは助けられたのだから、どちらに戻っても失うものは無い。中学校クラスメイトたちからしてみれば私だけ一歩前に進んでいるのだけれど、それでもまぁ許してくれるだろう。
「それじゃあその姿も元に戻すね」
と少年が言うと私の姿は高校生の私に戻った。次に少年は私に目をつぶれと言った。言われるがままに目をつぶると、場所が変わったような感覚がする。
目を開けるとそこにはパソコン室のドアがあった。部屋の中からはざわざわと笑い声が聞こえる。戻りたかったとはいえ、入りづらい。
ドアに手を掛ける。
「はぁー……」
大丈夫、大丈夫……私は元々ここにいたんだから。
でも、ここにいたのは私じゃないかもしれない。だって記憶がないまま過ごしていたんだから。だったらここにいる私は、高校にいた私じゃない?
そう考えていたら涙が出てきた。声を出さないよう片手で口を抑える。
「っ、うっ……うぅ……」
ドアを開ける勇気が出なくてドアから手を離した。
ドアから離れてその場に座り込んだ。
大丈夫なんかじゃなかった、私はこんなに弱い人間なんだ。
「やっぱり、こんなことだろうと思った」
そんな声が聞こえて頭をあげる。
そこにいたのは───
「幽、君……?」
「おかえり」
「何でここに……私が帰ってくるなんて知らなかったはずなのに」
「勘が当たっただけだ」
幽君は私に合わせてしゃがんだ。その顔には優しい柔らかい笑みが浮かんでいる。
「ま、そんなことはどうでもいい。ほら、立てよ」
幽君は優しい声で手を差し伸べた。その手を取って立ち上がる。
「香織はたくさん苦しんでこの日常に帰ってきたんだろ?ならもうこれ以上泣くなよ、お前、俺の前で一度も笑ってないぞ」
「……今まで、笑える状況じゃなかったから」
「なら、もう笑えるだろ?」
「……笑えないっ」
幽君から目をそらす。いつの間にか涙は止まっていた。どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。
「それは残念だ。じゃあ───」
幽君が私の腕を掴むともう片方の手で、パソコン室のドアを勢いよく開ける。
ドンッという音と共に私の方へ視線が集まる。
「ちょっ、幽くっ……」
「西田……?」
私をじっと見て驚いているのは広瀬だった。その瞳から目をそらし、俯きながら言いたかったことを言う。
「広瀬……あの、えっと……無茶して、ごめんなさい」
「ホントだよ!お前っ、俺は止めたのに!」
「ご、ごめ……」
「まぁまぁ広瀬、そんなに怒るなよ。香織も戻ってきたし、もういいだろ?」
「蒼夜は甘すぎんだよ!お前も見てただろ!?」
「その話はまた別の日に、皆が混乱してるだろ」
「おいお前ら大丈夫か!?」
私の背後から聞こえた声は懐かしく感じる担任の声だった。その表情は心配と焦りが見える。
そして先生を見た時だった。
「先生、そこに男の子いませんでした?」
幽君の姿がどこにも見当たらないのだ。
「え?男?あー、どうだったかな、お前らのことを心配して走ってきたからな……すれ違ったのかも……」
それだけを聞いて私はパソコン室を飛び出した。パソコン室は四階、急いで階段を駆け下りる。そしてその背中を見つけた。
その背中に向かって大きな声を出す。肩で息をしているような状態だが、昇降口の中から外へ、届くように叫んだ。
「幽君ッ!ありがとーう!」
振り返った幽君は驚いていた。元々私がこんなことをする性格ではないというのもあるんだろうけど、多分、今私は笑ってる。だから幽君は驚いているのだろう。
その後、私たちは普通に過ごした。しばらくはいろんな人に話を聞かれたが、それも落ち着くころには冬になっていた。
いつも通りの帰り道、駅の改札を潜るとそこには見覚えのある姿が見えた。
今までおかしいくらい会えなかったのに、こんなふとした瞬間に会えるなんて。
いろいろ聞きたいんだよ。
高校はどこにいったとか、今まで何をしてたとか、私のことをどう思っていたとか……。
白い息を吐きながらその名前を呼んでみた。
「───浩人」
ちょっと小さめの声だったかもしれない。ずっと会いたかったけど、心の準備が出来ていなかったから。でも浩人の瞳には私の姿が映った。
「かお、り……?」
「えっと、元気そうだね……」
「お、おう、そっちもな……」
最初はお互いぎこちない言い方で、会話を進めていたが時間が経つにつれてその緊張もほぐれ元通りになっていた。
「そっか、今までそっちも忙しかったんだね」
「まぁなー……。俺らなんて年単位で行方不明だったから」
「確かに騒がれない方がおかしいか……。でも皆が無事で元気ならよかった」
「俺が一番驚いたのは、黒羽……あぁ、佐蛍か。アイツが俺らと一緒にこっちに戻ってきたことだよ」
そのことを聞いて少しクスッと笑ってしまった。私は前よりもよく笑うようになったと思う。
「また皆で集まりたいねー」
「あ、その事なんだけどさ」
「ん?」
「明が、三年一組全員で会おうって言ってたぞ」
予定は冬休みに皆で中学校に行ってみよう、とのことだった。もう卒業した私たちだが、懐かしい校舎に行ってフリでも、全員で卒業をしようという計画だ。
「そうだね……皆で卒業しないと」
「だな」
冬だったからか、日が短く、いつの間にか夕日は落ち始めていた。もう話も終わりそうな頃、私は少し黙ってから決心をかためた。
「あのさ、浩人……伝えたいことがあるんだけど」
「……俺も」
「「ずっと───」」
私たちはこの日常を手に入れるために長い長い時間をかけた。でも私はそのかけた時間を戻そうとは思わなかった。時間を戻さなくても幸せは手に入ると思ったから。この選択が正解だったのか、不正解だったのか、確かめようはないけれどただひとつ言えることがあるとすれば、私は今、幸せだ。
リアルキルゲーム完結。




