【キュウサイ】五話目。
里佳が目をつぶり涙が落ちた。そんな里佳の頬にそれを見たリクの涙も落ちる。リクは、こんなこと信じられないと言わんばかりの表情で固まっていた。
里佳はまだ生きている。なのに、きっと目を覚ますことはないのだろう。里佳から出てきた白い塊こそがこの悲劇を生んだ全ての原因なのだ。
『そろ、そろ……終わりにしょうか』
「あぁ、そうだな……。ここらで、終わりにしたい」
晶と偽物が沢山の傷を負いながらお互いを見つめてそんなことを言っていた。疲れさえも共有しているのだから、どちらが勝ってもおかしくはない、そう思っていたけれど、晶が突然動きを止めた。固まっているようだ。
『く、さりッ……!?』
そう、白い塊からでた鎖が晶の身体に巻きついていたのだ。何が起こっているのかわからない私はその場でその状況を見たまま動けないでいる。
だが、成ちゃんと幽君がすぐに晶のほうに向いその鎖を握る。けれどまるで石のようにビクともしていなかった。
少しずつ晶が鎖に引っ張られ白い塊のほうへと動いて行く。鎖を握っている成ちゃんと幽君も同じようにして白い塊のほうに引っ張られていってしまう。
『灰山っ、離して!このままじゃ道づれだ!』
「そんなこと言ったって、嫌な予感がするの!晶君があの中に取り込まれたらッ!」
『離せって言ってるんだ!!』
一瞬晶と鎖を握る二人の間が黒く光った。あの能力を使ったのだ。二人が反射的に鎖を離すと一気に晶は白い塊に飲み込まれる。
「はははっ!呪いは呪いに集まる!それは俺がやらなくてもだ……。どうだ、絶望したか?希望なんてそんなものだろ。もう打つ手がないんだからなあ!?」
「っ……」
「夏宮里佳はもう使い物にならないが、カオリ、お前ならこの呪いを全て受け止められるだろう。全部受けとめて、お前にとっていらないものを全て殺すんだ!」
「そんなのっ……!」
嫌に決まってる。そう言おうとした時だった。たった一つの可能性が私の頭を過ぎったのだ。
「そうか……それは思いつかなかった……」
「何言ってるんだよカオリ!あんな奴の言うことを聞くのか!?」
「……ヒロト、ごめん。この選択は多分、自己満足」
ヒロトは私の肩を掴んで揺すった。でももうこれは決めたこと、この気持ちの後ろめたさでつい俯いてしまう。肩くらいまでの髪がだらんと下がる。
「っ、ははっ!最後に仲間に裏切られるとはなぁ!しょせん絆なんてそんなものなんだよ!」
偽物が大きな声で笑いながらそう言うとヒロトは走ってソイツの方に行く。そして大きく鉄パイプを振り、攻撃した。
「うるせぇよ!全部お前のせいだろーが!」
その攻撃はかすったり、当たったりはしている。が、ヒロトはまだ手加減をしているのか、どの攻撃も相手を倒すには弱すぎた。
「ヒロト、やめて」
「カオリ!?なんで!」
その偽物を庇うかのようにヒロトと偽物の間に入った。ヒロトの鉄パイプの動きは時間が止まったかのように止まる。
「───晶が、傷付くでしょ」
「ソイツはっ……!」
晶じゃない、そうヒロトは言おうとしていた。でもそれ以上は言わなかった。諦めたように俯いたヒロトの横を通り過ぎ、呪いの方へと近付く。その白い塊に私の手が触れようとした時、大きな声が響いた。
「やめろ!」
私を突き飛ばし、それを止めたのはダイチだった。その勢いに任せた不器用な突き飛ばし方で私はしりもちをついた。
「……どうして止めるの」
「お前のやろうとしてる事がわかってるからだ」
「止めないで。これで終わるなら私はそれでいい」
「いいわけねぇだろ!」
腕を強く掴まれる。座ったままの私を引っ張りあげるようにして腕を上にあげた。
「やめてよ、痛い」
「俺はお前の昔の仲間に対する気持ちがどれほどのものかはわからない、でも、お前には俺がお前のことをどれだけ大事に思ってるかわかってほしいんだ!」
「っ……わからないよ!私とダイチは元々そんなに仲良くなかったじゃない!どっちも深く関わらかった……違う!?」
そう、私とダイチの関係はそれほど進展はしていない。私は私の友達と、ダイチはダイチの友達といただけ。それ以外に少し話す程度だったのだ。深く関わるようになったのは実際このゲームに来てからだったかもしれない。
「……違う。お前と俺は、もうとっくに友達なんて関係通り越してんだよ、親友なんだよ!俺らはお互いを助け合わなきゃいけねーんだ!」
その言葉は荒かったが、思いは十分に伝わった。でもだからこそ、私はこれを実行しなければならない。
立ち上がりダイチの手を振り払った。
「やめろ、やめてくれ……!」
「私は、昔の仲間だけじゃない。皆を救いたいんだ」
走って白い塊に触れる。嫌な感覚とともに私の中に呪いが流れ込んできた。それでも自我を保つために耐える。
「あ、うっ……あぁ、ああああああッ!!」
発狂するほどにこれは辛かった。こんなものをずっと身体に入れておくなんて不快だ。でも私は全てを自分の身体に流し込み、それでなお自我を保った。今までとは明らかに違う感覚。なんでか呪いの使い方もわかっていた。
「さあ、カオリ、まずはここにいる連中から殺そう。その後はこのゲームを───」
「そんなのするわけないでしょ、私はアンタのための道具じゃないの」
私はこの呪いを取り込み、コイツに対抗する力を手に入れた。それが目的の一つだったのだ。
私の中の呪いには晶がいた。だからそれを偽物に近づき触れると同時に身体という入れ物の中に入れる。呪いを分けるという行為なら殺すことなく晶を晶に戻せるからだ。
はじき出された偽物は黒い影のような人の形をした何かになった。本来の姿がこれなんだろう。
『こんなことをするなんて……いや、馬鹿だな西田香織!俺をあのまま殺せばよかったというのにそれをしないなんて!』
「私は殺すのが目的なんじゃない、救うのが目的なの」
『だから馬鹿だと言っているんだ。お前にはもう時間が無いのをわかっているだろ?俺とともに来るならその寿命を伸ばしてやろう』
真っ黒い手を差しだされた。わかっている、自分に時間が無いことなんて。だってそうだ、殺す呪いをちょっと素質のある人間が大量にその身体に入れてしまったら少しずつでもその身体を殺そうとしてくるだろう。
でもその手を取ろうとは思わなかった。むしろ叩いてやった。完全に拒否すると、そんな意味を込めて。
するとその影の手は消滅していく。今私の身体はどこを触ろうと生命を殺してしまう身体になってしまっているのだから当たり前の結果だ。
「……こんな化け物と戦う?」
『いやぁ遠慮したいね。勝手に生み出されて勝手に殺されるんじゃたまったもんじゃない。俺は逃げるとするよ。でもこれは終わりじゃない』
「何言ってるの、これは完全に私たちの勝ちでしょう!?まだ何かする気があるなら……!」
『いいや違う。こんなつまらないエンディングで全てが終わるわけないだろ?俺はどこにだっている、お前らがその心に闇を抱える限り、永遠に、だ!』
大きな笑い声とともにその姿は消えた。あっけないラスボス戦が終わると広く暗い空間は消え、石化したクラスメイトのいる教室へと変わった。
意識を集中させ、呼吸を整える。
そして私は石化という状態そのものを殺した。
すると皆は動き出す。今の状況がわからないからか周りをキョロキョロしては騒いでいた。
でも、あの結末を見た皆だけは、私の方をじっとみていた。そして一人ずつ私に向けての言葉を言っている。涙を流している人もいた。
「カオリ……お前は死ぬのか」
「さぁ、どうだろう。わかんないや」
ヒロト
「呪いを全て受け止めるなんて、馬鹿じゃないの!?」
「ごめん、でも怒らないで……泣かないで」
成ちゃん
「俺はお前のために何か出来たんだろうか」
「うん。十分すぎるほどいろいろお世話になったよ」
リク
「助けられなかった……!お前にそんな選択をさせたのは俺だ!」
「違うよ、これは私の自己判断」
ダイチ
「結局最後まで俺はカオリに助けられてっ……」
「そんなことないよ」
晶……皆、悲しそうな表情で話していた。
「そんな顔してないでよ。もしかしたら私死なないかもしれないし、それにさ、まだ死ねないよ。ここから脱出してないもの」
状況に似合わない笑顔で皆の方を向いてみる。
そう、ここから脱出しなければ意味が無いのだ。
私は次にこのゲーム自体を自分の中に取り込んだ。このゲームも結局は呪いだったのだ。
最後に笑顔で皆の方を見て言った。
「ありがとう」
この言葉だけで十分だっただろう。泣いてなんかいない。むしろ嬉しかった。皆が助かるということが。
ただちょっと欲を言えば、私も日常に戻りたかったというだけのこと……。
これで全てが終わった。
───それと同時に私の役目も終わった。




