五話目。
リクとホノとDBが一人ずつ順調に助け出しているころ、私とヒロトは未だに隙を見つけられないでいた。困ったな、とまた唇を噛む。これは私の癖。
「はっ……はっ……」
「カオリ、そろそろアヤの体力が……」
「わかってる、けど…………」
これはまずい、そう思った。
アヤは順調に攻撃を当てていた、が、敵の体力は底無しか、動きが鈍る気配が無い。
「グァアアアアァァア!!!」
「ぇ……?」
一度大きな声で叫んだ敵はアヤを潰す勢いで拳を降り下ろした。
大きな黒い影の拳が、まるで重力に引き込まれるように落ちていく。
「ッ……しゃーねぇなッ!」
「ちょっとヒロト!?」
間一髪、といったところだろうか。
いや、完全にアヤを助けられたわけじゃない。ヒロトが身代わりになったのだ。
「ヴッ……いってぇ……マジか、よ…………こんなの、イレギュラー、な事態、だ…………」
アヤを突飛ばし私が駆け込む前にヒロトはその拳を受け止めようとした。だが、ヒロトの持っていた武器は鉄パイプ。受け止めることが出来ないことなどわかっていたはずなのにヒロトは迷わず自分を犠牲にした。
「ばっ、馬鹿なの!?ねぇ、起き上がって!!アンタ死にたいの!?」
「……もう、思い出した、から。あの時の、借りを…………。それ、に、俺は、仲間を、助け、たかっ……た、だけ……」
ヒロトがゲホッっと咳をすると大量の空気と血を吐き出した。胸に拳が当たってしまったようだった。
これは肋が折れて、肺に刺さっている可能性がある。もしもそうなら……もうヒロトは…………。
「ッ…………借り?ふざけんな!アンタはアンタの命をッ……なんだと思ってんだよ!!!!」
私は生死の狭間にいるヒロトにぶちギレているんだ。
いつものヒロトの笑顔がちらつくように過る。
どうしてヒロトがこんなことにならなきゃいけないの。誰一人死なせる気なんてなかったのに。
「…………カオリ、もう……やめてやれ」
静かに、落ち着いたら口調でリクは私に一言言った。それが私の心を砕いていくような、そんな風に感じていた。
「嫌だ…………こんなの、嫌!!!!!!」
「お前まで死ぬ気かッ!!泣いてる場合じゃねぇんだよ!あの時、お前はどうして仲間を助けられたんだ!?ただゲームクリアだけを目指したからだろ!!」
もう止めて、あの時、私は仲間を見捨てたんだから。
ただ、それだけなの。私は私が生き残るためにヒロトを殺そうとした敵を倒した。そんなことをヒロトは思い出した、そのせいでッ…………。
「また同じだ!次こそは誰も死なせないって、アンタだって思ってたんでしょ!?」
「落ち着けよ!!ヒロトはまだ死んでない!お前がそうしてる間に、他の仲間まで殺されるかもしれないって、わからないのか!?」
「殺、される……?」
何も考えられない。わからない。何なんだ、この気持ち悪い感覚は。雪の積もる山のように、私の頭も真っ白になっていった。少しずつ、でも確実に。
もう身体の力がすべて抜けて脱力していた。
「グァ、ゥ、ガァァアァアア!!!」
リクが時間稼ぎとして攻撃をするが、足止めにもならない。無駄なんだよ。また死ぬんだよ。きっとその結末しかない。そう、思ってしまった。
「クソッ…………!!皆、撤退だ!」
またリクに抱えられて移動する。
腕の傷がズキンと痛んだ。この痛みが、ここが現実だと言うことを嫌でも気付かせる。悪い夢であってほしかった、そんな望みを残酷に、打ち砕く。
……暖かい涙が、ゆっくり、静かに頬を伝った。