【サイカイ】二話目。
「さてと、そろそろ俺らもあっちへ向かうか?」
「そうだな。……カオリ?どうかしたか?」
「あ、ううん。なんでもない」
苦笑で誤魔化すが何でか身体がおかしかった。別に何もないはずなのに言葉では表現が難しい感覚がずっととれない。
「本当は早くにでもあっちへ行きたいんだが、ちょっと休んでいこーぜ。カオリも連続の戦闘だとキツイだろ」
「そんなこともないけど、ありがと……」
その後、しばらく私の記憶にないことを二人は話してくれた。よく、「覚えてるか?」と聞かれたけれど私が首を縦に降ることは無い。
席が近くなった話、喧嘩した話、教師のあだ名、体育祭、合唱コンクール、文化祭……どれも、私は覚えていなかった。二人に悲しそうな顔をされると私も悲しくなる。
話を聞いている最中も、身体全体におかしな感覚があった。それを気にしている私を見たレイナは突然、口を開いた。
「私は、あなた達のように優しくないので」
レイナがそう言った瞬間私の全身の所々に鋭い痛みが走った。そして気が付いた。
私は、知らない間に切られていたのだ。おかしな感覚の正体はそれだ。どれも深い傷ではないようだが、全身が痛い。
どうして気づかなかったのだろう。
私が真っ赤な色に染まっていく。その痛みに倒れてしまった。
「ぇ……?あ、ぅ……い、たい…………」
「カオリッ!?何で突然!?話してる時は普通だったのに!」
息が苦しい。目が熱い、涙が滲んできた。身体が冷えて、もう死ぬって思うような感覚になってきている。
傷の場所からドクンドクンと脈の音を感じた。
「傷はそんなに深くないですし、時間が経つごとにひどくなっていっただけですよ」
「そんなっ、お前は、心がないのか!!」
ヒロトが叫ぶ。拘束されたままのレイナの胸ぐらを掴み、睨みつけているようだ。その表情には焦りがあるようだった。
「っ……あるから困ってるんですよ!あなたに何が分かるんですか!甘い考えのまま、何が出来るんですか!優しさなんて、いらないんです!」
もう、いいよ。そう言いたかった。でも、声が震えちゃう。
これが殺し合いだ。私が考えていたよりもずっと闇が深い。
何も知らなかったんだ。知ることすら拒否してきたんだ。だから、今もこうして死にかけている。
「カオリっ……」
「大、丈夫……私、かっこ悪いや……」
大丈夫なんかじゃない。激痛に耐えるので精一杯だよ。
レイナは拘束されたままだが、ヒロトもリクもレイナを殺さなかった。
私の方に来て、心配そうな顔で私のことを見つめている。
治せないのはわかってるよ。何も出来ないのもわかってる。こんな致命傷、手当も出来ないよね。いいんだよ。
「まだ思い出してないんだろ!?こんな所で死なないでくれ!」
「あははっ……無理言わないでよ……これでも、頑張ってるんだか、ら……」
「お前がいなきゃ何の意味もない!全員で脱出するって、言ってたじゃないか!」
声すらよく聞こえなくなってきている。ただ、痛みに耐えながら笑うことしか出来ない。
だんだん、ひんやりとした感覚だけになって意識を手放した。
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無邪気な声が聞こえる。風が、吹いている。あの世界の暗さは全く感じなかった。目を閉じていてもこの場所の明るさがわかる。
「おはよっ!」
目の前にいたのは白髪で赤目の男の子。先ほどあった女の子と同じような容姿だ。
「ここ、は……どこ……。私、死んだの……?」
「あれ、まさかおねーさんここが死後の世界だって思ってる?違うよ。それにおねーさんまだ死んでないしね」
視界いっぱいに広がる景色は空のようだ。無限に、どこまでも青く、どこにあるのか、太陽の光が私たちを照らしている。
私の影がなければ、目の前の男の子の影もない。
「今おねーさんは生きるか死ぬかっていう状態なんだけど、おねーさんはどうしたい?」
「……そりゃ、もちろん生きたいに決まってる」
男の子はにこにことしながら私にそんな質問をしてくる。私は即答で返事をした。
「だよね。でもさ、辛かったんじゃないの?このまま生きるとしたらもっと痛いことがあるかもしれない!いっそ死にたいって思うかもしれない!……それでも?」
「っ……」
「まぁ、おねーさんが死を選ぼうが僕はおねーさんを生かすけどね。イジワルしちゃってごめん。やっと会えたからつい、ね」
幼い笑顔で私の方を見る。やわらかい、何の違和感もない笑顔だ。
この子はやっと会えたと言った。私のことを元から知っていたかのような口ぶりだ。でも私はこの子に見覚えはない。
記憶がないだけか?いや、それにしたって何もわからない。私の感覚でもこの子は知らないようだ。
そんなことを考えていたら男の子は笑顔を崩し真剣な表情で私の方を見た。
「おねーさんは愛されてるよ」
「……うん」
「おねーさんは皆に必要とされてるよ」
「うん……」
「なのに戻らなくて、いいの?」
ふと気が付いた。私はここでなにをしていたのだろう、そうだ、死んだわけじゃないなら戻れる。私がそれを拒否していた?私は死にたかったってこと?
違うでしょ。逃げたくなってただけだ。弱いな、私。
「戻るよ。全部、終わらせなきゃ」
「さすが。じゃあ僕からプレゼントをあげるね」
「プレゼント……?」
「うん。おねーさんの失った記憶と、かつてのおねーさんの姿だよ」
男の子がそう言うと少し伸びた髪は短くなり、真っ赤に染まった制服は、懐かしいセーラー服になり、頭の中に私が思い出せなかった記憶が流れ込んで来た。
その量は多く、頭痛がする。でも、満たされていくこの感覚は、幸せとしか言いようがないほどに気持ちがよかった。
「いってらっしゃい、おねーさん。僕も応援してるから」
足元に見えない穴が開き、落下する。重力に身を任せて目を閉じた。私の涙は空に零れて、消える。
「全部、終らせるから。絶対、助けるから……!」
記憶に焼き付いた懐かしい仲間への想いを叫んで、私はまた、あの世界へと戻った。




