【サイカイ】一話目。
「私……こんなことにならなければずっとカオリちゃんと仲良くしてたかったんですよ?本当に、本心です」
岩瀬霊奈……私の高校になってからの友達。ずっと一緒だった。クラスが同じになって、席が近くなって、話が合って……そんなレイナが今私たちに刃を向けている。それも笑顔で、だ。口調すら変わってしまっている。
「忘れてたよ、お前のことを。そりゃあそうだよなあ?お前はアイツの味方なんだから」
「おかしいですね、ヒロト君と会うのははじめてなんですけど」
「俺はお前をよく知ってるぜ?神隠しにでもあったかのように消えたと思えばカオリのいる現実にいたとは、マジで驚いたわ」
ヒロトとレイナがにこにこと笑いながら話しているのにその雰囲気は明らかに異常だ。二人とも武器を構えたままなのだから。
「ヒロト、そいつ私に殺させて。私言ったよね?変な事したら殺すって」
ヒロトの前に出てレイナを睨む。成ちゃんの手にはあの銀色の銃が握られていた。
「えぇ、言いました。でもそれは不可能です。だって今のあなたは化け物としてほとんど機能していないただの人間でしょう?黒羽さんに力を奪われてから随分大変そうですね。体力が切れたり、精神が安定しなかったり……ふふっ、落ちたものですねぇ最強の化け物様も」
「ただのNPCが……馬鹿にしないでよッ……!」
『落ち着け成。実際、今のお前にはあの時のような力は出せないだろう?やめておけ、お前が死んだら困る』
レイナが、あの優しい方向音痴のレイナが……変わってしまった。いや、元からこういう人だったのかもしれない。私が知らないだけで……私が、覚えてないだけで……。
「レイナ……何でよ、どうして私たちに殺意を向けるの?私たち、一緒に戦ってきたのに!」
「一緒に戦ってなんかいませんよ、最初から。でも、私はあなたの優しさが大好きだったんです。カオリちゃんが黒羽さんと敵対するまでは……灰山成と手を組むまでは……!」
レイナは成ちゃんを睨む。でも、確かにそうだ……私と成ちゃんは敵だったはず、私とレイナが仲間だったはず、全て狂ってしまっているんだ。だから、今のレイナには私がてきにおもえるんだろう。
「……もう、いいですよね。友達なんて、薄っぺらい嘘はいらないですよね。今から私とカオリさんは敵です。殺し合いをするんです、甘い考えなんて、今のうちに捨ててください」
「そんなの嫌だよっ……」
「カオリちゃん、敵は敵なの。今までのことを思い出して」
悔しそうな表情でレイナを見ながら成ちゃんが私に冷たく言い放った。私はまだ甘いのだろうか。少しの希望も望んじゃいけないのだろうか。
『成、お前は先に昌の方に行ったほうがいい。他の連中もだ。残るのは少人数のほうが動きやすいと思うぞ』
「……わかった。じゃあカオリちゃんとヒロトとリクは残って、私たちは先に行く」
ヒロトとリクは頷く。私は頷かない。でも拒否権など存在しないのだろう。皆はどんどん穴に入っていった。三人でレイナのほうを向き武器を構える。私の手は震えていた。
「……切り替えろ。もう仕方ないんだ」
「わかってる……でもっ……」
「目をつぶってゆっくり深呼吸をしろ。大丈夫、俺たちの知っているカオリも同じように悩んでいた。でも、それを乗り越えてきたんだ」
言われた通り目をつぶって深呼吸をした。リクの言葉に何でか安心してしまい、うるさかった心臓も、ぐるぐると回っていた頭も、いつの間にか落ち着いている。手の震えさえも嘘みたいになかった。
「……大丈夫そうだな」
「うん」
「んじゃ、さっさと終わらせて懐かしい話でもしよーぜ」
無邪気な笑顔なヒロトに、呆れたような、でも楽しそうなリク。私はこの人たちを守りたかったんだ。そうだ、思い出した。この人たちに憧れて、強くなりたくて、守りたかった。大好きだった。必死に生き残って、ヒロトを生き返らせたくて……。
……ダメだ、頭に浮かぶ映像はどれも曇っているような。霧がかかっているような……。でも、鍵はかかってない。もう少しなんだ。
「話し合いは終わりましたか?では、そろそろ始めましょう」
「俺たち一応、ここでは強いほうだと思うんだけど?」
「私はあなた達を殺すために作られたNPCなので、それなりに戦えるんです。あまり、自分の力を過信しないほうがいいと思います」
「それはお前も同じだろッ!!」
ヒロトがレイナに向かって容赦なく鉄パイプを振る。大振りだったからか、レイナが避けた途端にヒロトの鳩尾をそのか弱そうな足で蹴った。
「うぐッ……!?」
そんなヒロトが地面に倒れる前にリクが走ってレイナの方に行った。その手に持つ武器はスナイパーライフル。近づいては勝ち目がない。私はそのリクの行動に驚いてすぐに遅れを取り戻すかのように走り出した。
「ちょっ、何してっ!?」
鞘から刀を抜きすぐにでも使えるよう後ろに引きながら呼吸を整える。
「カオリっ、俺はお前を信じてる!」
その言葉の意味が、すぐにわかった。
私はそのままレイナに突っ込む。いち、に、さん、の大股のステップと共に私の勢いは増した。身体に感じる感覚に全てを任せる。
「ああああッ!」
「……ッ!!!」
両手に持つ小さな刀をクロスにして私の刀を受け止めたレイナ、十分、期待に答えられただろう。
「───さすが、俺たちの希望だな」
レイナが私に気を取られているうちにリクはレイナを通り過ぎて真後ろに回っていた。油断をしない相手だからこそ、正面から私が攻めればそれにしか集中が出来なくなる。リクはそう思ったのか、その作戦を伝えることはなかったが私に託した。その責任の重さは全くなかった。なんとなく、この人の考えることはわかったのだ。
レイナがその作戦に気付いたのは、リクの銃弾が放たれた瞬間だった。
「ぁ……い、痛い……です、ね、これは……」
じわりと広がる血のあと。レイナの脇腹の当たりは真っ赤になった。白い制服だからか、わかりやすく血のあとが広がっていく。
「……でも、おかしいです。背後からなら、どこでも狙えたはずですよね……?」
俯き、呟く。震えた声で。
「優しさ……ですか」
「ッ……!?」
突然私に向けられた殺意。一歩後ずさってしまった。
「何のためですか!?何がしたいんですか!!」
両手に持った短く小さな刀を遠慮なく私に向って振るう。それを防ぐだけで精一杯だ。私が動くからレイナも動く。リクは狙いを定められないから撃てない。
「っ、ぅくっ……!」
「私はっ、感情なんてない!痛くない!何で、何でよッ!!」
「レイ、ナっ……!」
「殺すために生まれたっ!だから、いらないのに!なんにも、いらないのにッ!!」
怒りに任せた戦いだ。その瞳はなぜか吸い込まれるような、不思議な魅力があった。だがどうも濁ってしまっているような、そう、感じるものもあった。
「お前はまず、死ぬほどの痛みを感じたらいい……!」
「あぐッ……はッ……!?」
レイナに押されていた私の横からヒロトはその鉄パイプをレイナの頭に振り落とす。
「俺は女を殴るなんて趣味ねーんだよ!!こんなことやらせんな!」
「あ、うッ……!」
何度も何度も、ヒロトはレイナに攻撃をした。その衝撃に耐えきれず、レイナはどさりと倒れた。仰向けに倒れているから表情が見えるがその瞳は暗く、表情は無くなっていた。
ヒロトはすぐにレイナの頭と脇腹を手当し、その場に寝かせた。もちろん、動けないようにある程度は拘束したが、あのダメージでは元々動けるほどの元気もないだろう。
「痛みを受けたなら、それと同じくらいこの先優しさも感じられる。だから俺はお前を殺さない」
私はレイナに謝り、そっと抱き寄せた。
レイナはちゃんと暖かかった。
「死ぬかと、思いました……。鈍い痛みを、まるで頭が歪んだんじゃないかと錯覚するほどの痛みを感じました……」
「レイナは、殺すために生まれたのかもしれない。でも、今のレイナは、何だって好きなようにできるはずだよ……。学校が、つまらなかったって、薄っぺらい日常だったって、本当は思ってないでしょ……?」
レイナは何も、答えてくれなかった。




