【取り戻しゲーム】九話目。
「落ち着いた?」
「……ごめんなさい。私、やっぱり弱かった」
私が泣き終わるまで成ちゃんはずっと隣にいてくれた。優しく待っていてくれたから我慢することなく泣けた。だから泣くほど涙が無くなってしまったから自然に止まったのだろう。
「そんなことないよ。……あとさぁ馬鹿宮、アンタ逃げるふりして逃げてなかったでしょ?バレてるから出てきなさい」
突然声色を変えると成ちゃんはひきつった笑顔になった。くすくすとした笑い声とともに出てきたのはユウ君とダイチだった。笑っているユウ君とは違いダイチはなんだか嫌そうな顔をしていた。
「え、何笑ってんの?今すぐ死にたいって?いいよ?」
「悪ぃ悪ぃ、そんなに怒んなよ。お前もやっと人間らしさを取り戻したんじゃないか?」
「!……余計なお世話。今更何を言ってるの?私は私。灰山成は……化け物なの。アンタが一番知ってるでしょ……!」
静かな怒りをその震える声で成ちゃんは表していた。私には昔の私が知っている成ちゃんも、昔の私の知らない昔の成ちゃんもユウ君が知っている成ちゃんも、知らない。何も、知らない。成ちゃんは冷たいと思っていたけれど、もしかしたら冷たいんじゃなくて寂しかっただけかもしれない。
「あぁ俺が一番知ってるさ。その一番知ってる俺が言ってるんだぞ?お前はもう、過去に縛られる必要なんてない……って、ごめんなカオリ、こっちの話だ」
「大丈夫だよ。こっちこそ私のせいで足止めくらっちゃってごめん……ここを早くクリアしよう」
「だな」
それから私たちは階段を上りすごく広い部屋に入った。もしかしたらここは会議室だったんじゃないかと思わせるものが沢山ある。ホワイトボードや大きな机、必要なものしか置いてないところを見るといろんな人が共通で使っている場所なのだろう。
すると突然その会議室の電気がついた。突然のことに驚いた私たちはついた電気の方をひたすら見てしまう。天井を眺めていたが、次に私の視線は一点に集中した。それは、真っ黒な格好をした男の子…………佐蛍晶の後ろ姿だ。でもその姿を見て驚いたのは私だけではなかった。ダイチもだった。先に口を開いたのはダイチだ。
「ぁ、あに、き……?」
肩で息をしている状態の晶はゆっくりと振り返る。その顔には余裕はない。何かを抑え込むかのように必死な顔をしている。
『なん、で……大智がここに……』
私が驚く暇などなかった。晶とダイチは二人で目をあわせて驚いている。私は言葉を発せなかった。晶とダイチの繋がりを知らなかったからだ。確かに、晶は電車との事故で死んだ。ダイチのお兄さんも電車の事故で死んだ。晶とダイチは双子だ。違いといえば黒い髪と茶色の髪、それ以外は多少の違いはあれど似ていた。だからダイチと初めて会った時もなんとなく知っているような気がしたのだろう。そんな二人を成ちゃんは冷静に、見ていた。この事実を知っていたかのように。ユウ君は驚かない。何も知らないからだ。ダイチのことも、晶のことも、わからないから驚かない。
「兄貴こそなんでこんな所にいるんだよッ!!兄貴は死んだはずじゃなかったのか!?」
『……俺は、死んださ…………。でもここで、生きている……ここでしか、生きられない』
「どういう事だよ!」
『ごめん……今の俺は、もう……お前の兄貴ではいれないよ。俺は…………』
声にならない声で、晶は何かをいった。そして私を見つけてやわらかく笑った。そのまま晶は消えてしまった。ダイチに何を伝えたかったのか、昔の私のことをどう思っているのか、今の私になぜ笑いかけたのか、疑問ばかりが残って、私とダイチは黙る。突然の再開に動揺を隠せなかった。
「おい、灰山……兄貴のこと、知ってたんだろ」
「まぁね」
「なんで何も教えてくれなかったんだよ!!兄貴はどうして生きているんだ!?ここでしか生きられないって……なんでだよ!兄貴は苦しそうだった……なんで……なんでだよっ……!双子の俺はどうして兄貴のことがわからない!?俺は兄貴のなんなんだ!……なぁ、失ったと思ったものが目の前にあったらどうすればいい……?教えてくれよっ……」
ダイチが成ちゃんの胸ぐらを掴んだまま泣いていた。静かに泣いているから私はダイチから目をそらした。こんな悲しい涙は見たくない、そう思ったからだ。でも私の頭にはダイチの言葉が響いていた。「失ったと思ったものが目の前にあったら……」ダイチにとってそれは晶のことだ。私の失ったものは記憶、私はそれを取り戻している。……でも、取り戻したらどうする?その後のことなんて考えてなかった。でも、こんなのダイチじゃない。ダイチは現実を見ていない。大事なことがわかっていない。だから私はダイチを救う。
「ダイチ、アンタは晶をどうしたいの」
「……俺は…………」
ダイチは涙の溜まった瞳で私の方を見る。こんなダイチ見たくない。ハッキリ言わなきゃいけない。
「死んだ人は生き返らない」
冷たかったかもしれない。酷かったかもしれない。でもそれは、事実なのだから。
「………………わかってる」
私の一言でダイチは俯いた。生き返らない、生き返らないんだ。言った私が傷付いた。晶とのことはもう私も思い出している。だから辛い。私もできれば晶と現実で会いたい。もっと話したい。
「……親友だったのに」




