【救いゲーム】八話目。
「なんでお前が!?生き返ったのか!?」
『一応生きてるんだ。そんな言い方はないだろ?まぁ、死にたかったがな……』
雪村は寂しそうに笑った。
コイツ、こんなに表情のあるやつだったか?
『お前らに伝えたいことがある。ちょっと驚くかもしれないが、ちゃんと聞いてくれ』
急に雪村は真顔になって、声のトーンを下げた。
その独特の雰囲気に、俺たち二人は雪村から目を離すことが出来ない。
『私は、夏宮里佳という存在を知らない』
その言葉の意味がわからなかった。
知らなくてもおかしくはないと思っていたから。
「……は?そりゃそうだろ。だってお前には関係ないんだから」
『違うんだ!夏宮里佳を知らないだけで、覚えてる。あの姿、笑顔、口調、優しさ、無邪気さ、全部、私の親友だった人のものだ。私が殺した、親友のものだ』
ちょっとどころじゃない、言葉が出ないくらい驚いた。
でもそんなのありえないと思った。だって夏宮里佳は俺の小学生時代からの友達なのだから。
「勘違いだ」
『……勘違いならそれでいいんだがな。一度だけ、昌に話したことがあるんだ。その親友のことを。だからじゃないのか?夏宮里佳を犠牲にして私を元に戻そうとしてるのは』
雪村はそれしかありえない、というような態度をとって俺たちの方をみて笑った。その寂しそうな笑顔でさえも、美しいと思ってしまった。
だがすぐにその思考を切り捨てもう一度よく考えて見る。コイツを元に戻すための犠牲がなぜ夏宮なのかを。
「夏宮がもしお前の親友だったとして、元に戻すのには関係ないだろ!」
『確かにな。そもそもなぜ犠牲が必要なのか、リクはわかるか?』
「…………わかんねーよ。お前が今ここにいる理由も」
敵同士だったはずなんだ。
なのにどうして、俺に、俺たちにそんなことを話す?
これが罠という可能性もなくはない。俺は雪村をそこまで信用してないないのだ。
『夏宮里佳は私の呪いを分けられた一人だ。私にとって呪いは命。夏宮里佳を殺して分けられた呪いを戻せば、私はまた、元に戻れる。そういうことだ』
納得、してしまった。もしも、夏宮が本当に雪村の言う通り、昔の親友だったなら有り得る。
呪いが命、という言葉は俺にとってとても嫌なものに聞こえた。
望んだものじゃないものが命というのは俺だったら無くしてしまいたい。だから雪村も死にたかったんだろう。それも納得がいく。
『……私の認められなかった、大嫌いな現実を殺すため、命がどれだけ簡単に無くなってしまうかわからせるための現実的な殺人…その意味をこめてつけたリアルキルゲームという名前には、なんの意味もなかったな。現実は殺せないし、一度死んだはずのお前は生きている……私は何がしたかったんだろうな』
雪村は力なく笑った。そんな雪村を見たヒロトは俯いた。そして低い声で言葉を吐いた。
「そうだな。なんの意味もねぇよこんな世界。お前が化け物だろうが死にたがりだろうが俺らには関係ない。なのに巻きこまれたんだ」
『っ……すまなかった。私がしてきたことは、ただの殺戮だ』
「わかってるなら、この先どうする?もうお前はラスボスなんかじゃないんだ、この世界には必要ないんだろ?」
ヒロトにしては優しさが欠けていると思った。ヒロトは人を否定するようなことはしないはずだ。怒っているから、なんだろうか。俺は何も言えないまま、話を聞いていた。
『私は、止めたい。晶を止めなきゃいけないんだ。私のせいで、晶はっ!!』
「……止めてどーすんだよ。アイツはもう、どこにも居場所がないんだぞ」
震えた声で、ヒロトは言った。そうだ、晶は、死んでいるんだった。現実には帰れない。ここしか居場所はないんだ。
それに俺は気付かなかった。
『お前らだって晶を止めるんだろ!?なら同じだ!』
「俺は、アイツに居場所なんてあげられない。けどな、アイツと死ぬ事は出来んだよ……お前と違ってな」
「待てよヒロト!どういう事だ!?お前晶と戦ったら死ぬつもりなのかッ!!」
予想外の言葉に俺はさすがに黙ってはいられなかった。目の前で死んだ友人が生き返って会えたというのにまた失うなんて、嫌だから。全員で帰りたいんだ。あの、日々に。
『どうしてそんなことを……!?』
「……俺は佐蛍のことを助けられなかった罪滅ぼしがある。あとさ、やっぱ、ほっとけねーよ。一人だけあんなのって、辛すぎんだろ」
ヒロトは少し困ったような表情で笑いながらそう言った。
現実にはもう、戻る気は無いのだろう。でも、それじゃダメなんだ。俺たちは元に戻らなくちゃいけない。あの日々に戻って、未来に向かって進まなきゃいけない。
「…………ふざけんな」
自分でも驚くくらい怒りの混じった声が俺の口から出た。その声にヒロトははっと驚いて俺の方を見る。
その顔に、拳を一発入れてやった。予想もしていなかった俺からの攻撃にヒロトは体制を崩して倒れる。
「いってーな!何すんだよ!!」
「うるせぇ!!お前は何に憧れてんだ!?テレビにでてる自己犠牲ばっかのヒーローかよ!」
頭よりも先に口が動いてしまう。口と同時に身体も動いてしまう。気付けば倒れたヒロトの胸ぐらを掴んでいた。
「そんなもんただのガキだろーが!!お前が死んで誰が得する!?誰が悲しむ!?お前はそれを考えたことがあんのかよ!!誰よりも余裕ぶってるくせに、結局一番余裕が無いのはお前だろ!!仲間とか、クラスメイトとか、そんなこと言っておきながら今のお前はお前のことしか考えてねーんだよ!!」
ここまで怒ったのは久しぶりだ。俺は今までこんなことを思っていたのか。俺の行動に雪村は驚いて固まったままだ。ヒロトは悔しそうな表情をしながら俺の手を振り払った。
「あぁそうだよ!俺は俺の事で精一杯だ!お前みたいに強くないんだよ!!俺は一回死んだんだ、なにを失ってももうかまわない!」
ヒロトの叫んだ言葉でさらに俺の怒りは止まらなくなった。
こんなことしている場合じゃないのはわかっているのに、ヒロトも俺も、殴り合いのケンカをやめない。お互いの言葉が、拳がぶつかってそれでも譲る気はなくて。どうすればいいのか、分からなくなってきていた。
『やめろ、二人共』
雪村の落ち着いた声で俺たち二人の熱は冷めていった。俺の中の怒りも落ち着いてしまう声色だった。
『私には、どっちが正しいのかはわからない。だが、今こうして二人がぶつかっているのが間違いだということはわかる。だから、ひとまずそんなケンカはやめろ』
怒っていたのは俺たちだけじゃなかった。落ち着いている顔で、態度で、今ここにいる誰よりも怒っていたのは、雪村だった。
「……殴ったりして、悪かった」
「俺こそ、お前の意見を無視して一人で勝手に決めて、悪かった……」
『はぁ……いくらこのゲームで強くなっても結局中身は中学生、お前らはガキなんだよ。一人で何かを抱えこむには早すぎる』
呆れたような目をして俺たちを見る雪村にほんの少し苛立ちを覚えたがケンカを止めてくれたコイツには感謝をしなければならない。
「ガキっていうなロリのくせに」
『誰がロリだって?お前殺すぞ』
「はぁ?見た目ロリじゃねーか。小学生のちんちくりんが」
『人を見た目で判断するなクソガキ。私はもうお前らの倍以上は生きてるんだよ』
感謝をしようと口を開いたがその前にヒロトが雪村にケンカをふっかけてしまった。前から思っていたが、ヒロトは本当にバカだ。
「……じゃあお前今いくつだよ」
『…………』
「おい、雪村?」
『余計なことを考えている暇があるならさっさと夏宮里佳を取り返しに行くぞ』
「は?なぁなぁリーダーコイツいま誤魔化したよな?な?」
「俺に話を振るな」
その後、俺たちは夏宮と晶がいるであろうあの白い空間を目指す事にした。
最後に三年一組の教室を見渡す。動かないクラスメイトを見るのはこれで最後にしよう。
「……次は、誰も欠けさせねぇから」
俺が呟いた一言は誰の耳にも届かずに消えた。




