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リアルキルゲーム 〜白の呪い〜  作者: 沙乃
リアルキルゲームver.2
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【取り戻しゲーム】六話目。

「カオリちゃん、泣いてる場合じゃないよ」

「……うん。わかってる、ごめん」



 涙をゴシゴシと服の裾で拭って辺りを見渡す。

 誰かが暴れたような、そんな部屋だった。

 私たちが来る前にどこかの誰かがこのステージで敵と戦ったんだろう。

 窓のガラスにヒビが入っているが、割れるような感じはない。

 外などないはずなのに何故か月明かりに照らされているような、そんな薄気味悪い光が部屋にはあった。



「カオリちゃん!」

「どうしたの?レイナ」

「こ、これ……」



 レイナが指さす方には見たこともない制服の男の子が倒れていた。苦しそうな表情で倒れているのを見ると、もう死んでしまっているのかもしれないという考えが頭をよぎる。



「誰だよ、こいつ……」

「私だって知らない」

「成ちゃん、こーいうのありえるの?前のプレイヤーがそのまま残ってる、または、今のプレイヤーと会うなんて」



 成ちゃんは倒れた男の子を見ながら腕を組んでるわかりやすく悩んでいる。成ちゃんにもわからないことはあるようだ。



「……普通(・ ・)ならありえない。でもまぁ、これは私のせいだから。……ゲームのシステムがおかしくなってるね、レイナ」

「私に言われても何のことだかわからないよ、灰山さん」

「はいはい。で、どうするの?」



 そう言われてすぐに男の子の方に行ってみる。そっと肩に触れるとなぜだか男の子と私は逆転した状態になっていた。



「………………えっ?」

「はっ……おま、えは……敵かッ!?」



 どうやらこれはそう、少女漫画という私とは無縁のものでいうと床ドンとかいうものらしい。全然ときめいたりなんかしない。むしろなんだこの視界が男の子の顔で埋まる不快さは。でも、思った。あぁ、この人も同じなんだって。

 頭からは血がぽたぽたとこぼれて私の頬に落ちる。

 この余裕のない表情は私の心をきつく締め付けてくる。なんだか、悲しくなる。



「……痛い。腕、痛いよ」

「!……誰だよ……」



 やっと状況がわかった男の子はすぐに私の腕を離して私の上からどいてくれた。

 よく見たら、ちょっと目つきの悪い、でも整った顔立ちをしている。



「私は……」

「おはよ、馬鹿宮」

「え?成ちゃんこの人と知り合いなの?」

「成?お前、灰山成なのかッ!!」

「私が死んだとでも思ってたのかな?」



 不機嫌そうな表情で男の子を見る成ちゃんと、怒っている表情で成ちゃんを見る男の子。私とダイチとレイナはもう何がなんだか分からなかった。

 成ちゃんのほうへ行って状況を確認しようとしたが腕をぐっと掴まれる。


「な、何?」

「ちょっとこい!」

「え、ちょっ、まっ、て!!」



 何とかして誤解を解こうとするが男の子の力にはやっぱり敵わない。いつの間にかいままでいた場所から遠い所まで走ってきてしまった。



「ねぇ話を聞いて?私たちはっ……んんっ!」

「俺の質問に答えてくれ」



 大きな手で口を塞がれ真剣な目で見つめられた。

 さっきまで気付かなかったけれど彼は身長が高く予想では百七十センチ以上はあるだろう。

 私はゆっくり頷いた。すると彼はその大きな手を離して息を吐いた。



「お前はなぜ、灰山成と一緒にいたんだ?だってアイツは突然いなくなったんだぞ!?」

「このゲームに私たちクラスメイトが巻き込まれて、成ちゃんも私のクラスメイトだから……」

「お前の、クラスメイト……?」

「そう、だけど……。あなたは何でそんなに成ちゃんを嫌っているの?」

「嫌ってるわけじゃない……いやむしろ心配していたというか。ただ、状況がわからないんだ。アイツは俺の仲間数人を殺してどこかへ消えたからな……」



 その事実に驚くこともしなかった。何でだかわからないけど、成ちゃんなら、やりそうだと勝手に思ってしまったんだ。



「……私、カオリ。あ、えっと、外の名前は西田香織で、その、よろしく……っていうか…………ごめん。こんな状況なのに」

「あ、いや……俺こそ悪かった。俺はユウ。外の名前は鹿宮幽(かみや ゆう)だ」

「ユウ君、か。あの、ユウ君はいつからこのゲームに?」

「いつからって言われても……体感時間は三週間くらいだな」



 三週間、か。そんなに長くこのゲームの中にいるなんて……。

 それだけ沢山の地獄を見たんだろう。成ちゃんが来たのは数日前だし、顔見知りということも納得がいく。



「灰山が高校に来たと思えばこのゲームに巻き込まれるし、俺のことはここに置いていくしでもう頭が追い付かなくて……あ、カオリ、その頬の血……」

「?」



 ユウ君は制服のポケットから青いハンカチを取り出すとそのハンカチで私の頬についた血を拭いてくれた。

 青いハンカチの一部が紫に染まった。



「あ、ありがと」

「ん。……で、カオリはこれからどーすんの?」

「私は、まず、このステージから脱出しようと思う。記憶を取り戻すことも考えなきゃだし……会わなきゃいけない人もいるし……」



 ユウ君に記憶のことを聞かれ全てを話した。

 リクさんのことも。



「何か、いろいろあったんだな」

「あはは……みたいだね。覚えてないことを言われたって私にはわからないよ。あのときはこうだったって言われたってそんなの知るかって思っちゃうし」


「そりゃそーだ。今ここにいるのは昔のカオリじゃない。昔のほうが優れて立ってなんだって今は今なんだから気にすんなよ。俺が出会ったのは今のカオリだ」



 そんなふうに言ってもらったのは初めてだった。みんな、昔の私しか求めていないように思えていたから。昔の私に今の私は嫉妬していたのだ。あんなにも愛され期待され、羨ましくて憎たらしかった。本当は昔の私を取り戻したいと本心では思ってなかったのかもしれない。誰かのために、それだけだった。


 でも今の私を求めてくれる人達がいるのならば、記憶を取り戻しても私は私だと誇れるかもしれない。

 なんだか心に空いた穴が埋まったような感覚だった。



「あ、ありが……」

「ッ……」



 お礼を言おうとした時だった。

 ユウ君が頭を抑えて地面に膝をついたのだ。

 そのままゆっくりと倒れていく。さっきの状況とは一変して焦りが募る。グッと唇を噛むがどうすればいいかなんてアイディアは浮かんでこない。


 そう言えばユウ君と初めて目が合った時から体調が悪そうだった。制服もボロボロだし、汚れてる。色んなところから血が出てる。こんな状態で倒れていて、助かるわけがない。このままじゃ貧血で死んでしまう。



「ぅ……」

「ご、めん……私、ユウ君のこと助けられそうにないよ……。ごめんっ!」



 意味が無いことが分かっていてもユウ君の頭から流れる血を必死に抑えた。

 さっきまで普通に振舞っていたんだ。こんな傷、痛くないわけがない。



「カオリちゃん!やっと見つけた……!」

「成、ちゃん……?助けて!ユウ君がっ!!」

「え?」

「お願い……。どうにかして!!」



 成ちゃんの方をつかみ棒立ちの成ちゃんに向かって叫びながら言った。成ちゃんは私と倒れたユウ君を交互に見る。



「ふはっ」

「え……?」

「あははははっ!なーんだそーいうことね!!びっくりしたよ、ここにアイツが来たんじゃないかってね。ん。わかった。鹿宮……じゃなくて馬鹿宮(ばかみや)を治すよ。ていうか私はコイツを殺さないし、生かしておいたんだから。罪悪感もあってさ……」



 そう言ってしゃがむと成ちゃんはユウ君に手をかざした。ユウ君が青い光に包まれ、痛々しい傷が治っていく。



「無くなった血液までは戻せないから、目覚めた時は貧血で頭ぐらぐら状態だろうけど命があるだけマシでしょ」

「ありがとう……。でも、どうにかしてと言ったのは私だけど、その魔法みたいなのはなんなの?」


「魔法?夢の詰まった言葉だね。これは呪いって言うの。私は制御出来るけど触れただけでその命を奪ってしまう呪いだってある。幸い、私は魂さえあれば命を奪うことも、治すことも出来るけどね」



 触れただけで命を奪ってしまう、それを聞いて想像してしまった。自分の大事にしていた花や、友達、指先が触れただけで枯れて、死んで、そんなものを見るのはとても精神が耐えられないと思った。



「……ごめん」

「いいよ。私はもう、なれたから。それより、この馬鹿宮はどーする?私的には連れて言った方がいい気がするけれど」


「うん。ほおっておけないよ。ダイチとレイナは?」

「置いてきたに決まってるでしょー。でも、しばらくここで待機だね。連れてこようか?」

「あ、ううん。大丈夫」



 傷も治り、苦しそうな表情ではなくなったユウ君の顔は月明かりに照らされてとても綺麗だった。

 この人とは出会うことなんて無かったはずなのにこのゲームをやることで出会うなんて、なんだか複雑な気分だ。


 ここでは現実的な殺人が行われている。いや、殺戮、なのかもしれない。だからリアルキルゲームなのだろうか。

 それとも現実を殺したいという誰かの願望からその名がついたのだろうか。



 ……もやもやとする頭の中にはいつもあの白い少女がいた。



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