【救いゲーム】七話目。
しばらくするとヒロトが目を覚ました。どうやら鳩尾と同時にあのイナズマをくらっていたらしい。
「……リクは、もう大丈夫なのか?」
「多分、な。……でも、所々の大きな傷やひどかった怪我が治ってるんだ。もしかして、晶が?」
「かもな……。アイツ、何を考えてるのかわからない……」
動いた時に聞き覚えのない音がした。
ポケットの中を探るとくしゃくしゃになった紙が入っていた。
広げてみると、驚くメッセージが書いてあった。
『おれをとめて』
間違いなく晶からのメッセージだ。
晶は自分の中に生まれてしまった闇と今も戦っているのだろう。いくら大切な人のためといい、人を殺せるような奴じゃないはずだ。
「止めてやらなきゃ……」
「リク?なんだそのメモ。それは、黒羽から……なのか?」
「それしかありえない。晶はきっと、助けて欲しいはずなんだ」
「……ったく、めんどくせぇ奴だな。そんな紙置いてかれたら、助けるしかないだろ」
こんな手紙を置いていくという事はしばらくの間夏宮は大丈夫だろう。
晶がまだ、誰も殺せない人間だからだ。
誰も殺していないから。
でもだからと言ってずっとほおっておくわけにもいかない。
俺達の準備が整ったら、すぐにでも助けに行く。灰山と合流出来れば十分だろう。
「ヒロト、こっちからもカオリ達の方に向かおう」
「だなっ!俺達二人じゃ黒羽には勝てねぇし」
「……お前、この世界のこと何でも知ってるのか?このステージから出る方法も、その口ぶりじゃ知ってるんだろ?」
「なんでもは知らねぇけど、ある程度は知ってる。今の俺はゲームにプレイヤーというより主催者側扱いされてるんだ」
やはり、ヒロトが復活した時にそういう扱いになったのか。
その扱いと同時に知識と力を手に入れたなら納得がいく。
ヒロトが現実に帰る気がないということは、今は忘れよう。考えたって、きっと答えは帰ってこない。
なら、今するべき質問じゃない。
「……お前も、化け物なのか」
「あぁ、そうだよ。人は人間に宿ることのない力に憧れる。異能、超能力、魔法……この力にはいろんな言い方があるけれど、俺や黒羽にとっては呪いだ。そんな呪いを受けてしまった人間をなんと呼ぶ?……もう、化け物しかないだろ」
「そう、だな……」
「カオリもだ。覚えているか?あの、ドッペルゲンガーを」
言われてから思いだした。
俺を助けたカオリは、ドッペルゲンガーだった。
ドッペルゲンガーの能力を持ってしまった。
カオリも、もう化け物なんだ。
「……あれも能力なんだよな」
「そう。本来プレイヤーには宿ることは無かったはずなんだが、まぁその事情はよくわからん。きっと記憶を無くしてるから現実では発動はしてないはずだけどな」
「カオリはもう、高校生か……」
俺達はずっとこのゲームの中にいるせいで成長もしていない。
ずっと、あの時のまま。俺らはまだ、中学校を卒業出来ていない。中学三年生のあの時間で止まってしまっている。
だからこそ、このゲームをみんなで抜け出して止まった時間を動かさなければいけない。
カオリが自分だけ助かった、なんて記憶を思い出してしまったらきっと罪悪感で壊れてしまう。カオリが悲しむ顔も、みんなが助からない終わりも、俺は見たくない。
「高校生って言ってもそんなに時間は経ってないからカオリはきっと変わってないよ」
「まぁ、そうだろうけど……。俺達のことを忘れてるっていうのは、ちょっと」
「ショックだよな。でも、思い出さない方がきっとカオリにとって幸せだろうな。あんな記憶……ひどいもんだ」
「俺は出来ればこっちの世界に来て欲しくなかったけどな」
「俺も同意見だよ」
無邪気な笑顔がやっとヒロトに戻った。
この笑顔がないとヒロトじゃない気がする。そんな笑顔を奪ったのはこのゲームだ。このゲームを生み出した雪村彩夏が悪いわけじゃない。そんな雪村彩夏にしてしまった呪いが悪いんだ。
俺やカオリ、ヒロト、クラスメイトたちはその呪いのせいで普通に生きられなくなってしまったんだから。
「……カオリ達と合流する前に教室に寄らないか?」
「三年一組の教室か。行っても辛いだけだろ?何でわざわざ……」
「目に焼き付けとくんだよ。みんなを」
「……そういうことならまぁいいが、大丈夫か?」
「大丈夫だ」
一階から三階へ向かう。
このゲームのおかげで体力がついたのか、三階まで階段で上っても疲れなかった。
教室に入るとさまざまな表情で固まっているクラスメイト達がいた。触って見ても、硬い石のようだ。冷たい。体温を感じない。
「……なんで、助けられないんだよ……。どうして、普通に生活してただけの俺達がこんな目に会わなきゃいけないんだ……!」
力強く握りしめた拳で壁を叩く。
暗い廊下にやたら音が響いた。
「リク……」
『……悪かったとは、思ってるさ』
「「!?」」
教室の隅から声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
急いで声のした方に進む。暗くてよく見えなかったが、懐中電灯をつけるとそこにいた人物は眩しそうに目を細めた。
『久しぶりだな、リク。そっちのお前は、初めまして、か』
見たこともないソイツの笑顔は、思った以上に幼くて、今まで想像していたような人物とはまるで別人のようだった。
「雪村、彩夏ッ……!?」




