【救いゲーム】五話目。
歩くだけでもズキズキと痛む身体中の傷は、徐々に俺の体力を奪っていく。
傷を治してくれる奴はもう敵だ。
「大丈夫?りっくん」
「心配してくれてありがとな。大丈夫だ」
止まらない汗を拭って何事もないように見せかける。心配なんてかけてられない。
美術準備室から出た俺達はある教室へと向かう。
一年二組、それは、俺やカオリ、そして、晶が過ごした教室だった。
感情を自ら殺している晶もなんでかその教室にいるようだ。
懐かしいその教室で晶が何を感じているのか、それを知らなければ俺は晶を倒すことも救うことも出来ないだろう。
真っ暗な、見慣れてしまった学校をゆっくりと歩く。
先ほど美術準備室で拾った懐中電灯の光を頼りに進むがやはり安心はできない。
階段を下りて曲がると、一部屋だけ電気のついている場所があった。
「何で電気が……」
「おそらく、待ちくたびれてるんだろうな」
「ってことは、晶が……?」
ヒロトは教室を睨みながら頷いた。
音をたてないように、壁にそって歩く。
『……もっと堂々と出てくるかと思ってたよ』
「……」
『早く出てきなって』
もうバレていた。
教室から聞こえるその声はとても落ち着いていて、逆に気味が悪かった。
「……晶、その、制服は……」
『似合わないよね。懐かしいよ、この教室』
教室に入ってみると俺達と同じ学ランを来た晶がいた。妙な違和感はあったものの、それが本当の姿だということを認識した。
「お前にとってこの教室は、どんな場所なんだ?」
『……どんな、か。割と楽しい場所だったよ。短い間だったけど、俺にとってかけがえの無い時間だったと思う。でもね……』
「でも……?」
『そのかけがえの無い時間を失ったから、俺は今ここにいるんだ。失ってよかったとは思わないよ。ただ、失うべき時間だったのかもしれないって思う』
「そんなわけない。俺はお前にこんな所で会いたくなかった!ちゃんと現実で会いたかった!!」
晶が俯いた。
教室の床に涙が滲む。
晶の瞳からは涙が零れていた。
『俺だって、普通に生きるはずだった。リクやカオリと変わらない、普通の生活をおくるはずだった……』
「今からだって遅くないだろ!!」
『遅いんだよ!俺はもう、人間じゃない……化け物なんだ!!』
バチンッと弾けた音が響く。
晶のまわりには黒いイナズマのようなものが現れた。
「やっぱり、お前が成の力を……!」
『もう、戻れない。俺も、ヒロトも。そうでしょ?』
「っ……」
涙を流しながら笑う晶と、悔しそうな表情で俯くヒロト、二人は何かを抱えているようだ。
「何の話だ!!」
隠されているのが嫌だった俺はヒロトの肩をつかんで俺の方を向かせた。
「やめろよリーダー……。痛てぇ」
「だったら話せよ、ヒロト……!」
「りっくんお願いやめて!!」
「何で止めるんだよ夏宮!!」
間に入ってきた夏宮も、俺に隠し事をしている。それが嫌で嫌でしょうがない。
どうして俺だけ何も知らないんだ。
俺がヒロトから突き放されると、ずっと黙っていた晶が口を開いた。
『話してなかったんだ。じゃあ俺が、代わりに話すよ』
「やめっ……」
『ヒロトは、このゲーム内で生き返るために化け物になったんだよ』
「は……?何言って……」
『だからヒロトはもう、現実に帰る気なんて無いんでしょ?』
「……うるせぇよ。余計なことを」
ヒロトは俯いたまま言葉を吐いた。
きっと図星なんだろう。
「帰る気が、ない……?何で!」
『流石に俺はそこまでしらないよ。ヒロト、答えてあげたら?』
「……俺は、晶と同じでもう戻れない。だから、せめてこの力はみんなを救うために使いたい。それ以外は使わない。現実に帰らないのは、俺がもう人間じゃないからだ」
静かに、淡々とした口調でヒロトは言った。
そしてそんなヒロトに晶の黒いイナズマが迫る。それを拒むことなくヒロトは立っている。
「ヒロト……!?おい何してるんだよこのままじゃ……!」
『ここじゃダメだ。ちゃんと話せるところに行こう』
「……あぁ、そうだな」
ヒロトが俯いているせいで表情が読めない。だが、晶の言葉にヒロトが返事をすると晶のイナズマは夏宮のほうへ向かってきた。
「やめろよッ!!」
夏宮を庇うとイナズマは俺に当たった。
鋭い痛みが身体中を巡る。
その痛みでどんどん意識が遠のいていった。
最後に視界に写ったのは、イナズマに撃たれて倒れる夏宮と、悲しい表情をしたヒロトだった。




