【取り戻しゲーム】四話目。
「……意外と早かったね」
変わらない口調や声で、成ちゃんは言った。私は言葉が出ない。
これが現実なのかと、疑っているのだ。
夢なら覚めろと、強く望んでいる。
でも、うるさい心臓の音や、切れている息からすると、これが現実だということはわかる。
赤黒いそれはきっと、血なのだ。
それがべったりとついたクラスメイトは、何かがあって、死んでしまったんだ。それしか思い浮かばない。気持ち悪い。
「こんなのおかしいんだよ……」
「……何が?カオリちゃん、これはこのゲームの当たり前なんだ。今さら何を言ってるの?」
「こんなの当たり前じゃないッ!!!こんなのが当たり前なんて信じられるわけないでしょッ!!!!」
平然と話をする成ちゃんは冷たい瞳をしていた。だから、私は怒った。成ちゃんにとって出会ってからそんなに時間のたっていないクラスメイト達は、きっと何でもないのだろう。他人が死んだって無関心なのが人間なのだから。
けれど私にとってやっと手にいれた普通。それが壊された。きっとまた、壊された。平和も絆も、また、壊される。
また、忘れるかもしれない。
「……そんなに怒らなくてもいいじゃん。このゲームをちゃんとクリアすれば、みんな何事も無かったかのように生き返るんだから」
「っ、それ、本当か!!なら、早くクリアしなきゃ……!」
「焦らないで、ダイチ。このゲームは簡単じゃないの。これからいくつもの死体を見ることになる。それでも精神をたもって、強く、進むことが出来た人しかクリアできない。その条件に合わない人なんて役立たずなんだよ」
「俺がその役立たずだってか!?」
「そうだよ」
ダイチの怒り混じりの声がホールに響く。クラスメイトの視線は成ちゃんとダイチに集まった。
嫌な雰囲気に包まれる。
これは仲間割れと同じ、最悪な状態なんだ。
「待ってよ成ちゃん。何でダイチが役立たずって思うの!?」
「……ダイチは、似てるの。カオリちゃんが信じたリク君と、あと、もう一人に……」
「リク、さんに……でも、似てるからって!」
「優しすぎるって言ってるの。カオリちゃんは、友達のために命を捨てられる?」
「それはっ……!」
「無理でしょう?でもそれが出来てしまうのがダイチなの。でも、自己犠牲は悲しいだけ。私にとって役立たず」
悔しいけど私も、成ちゃんと同意見だった。
自己犠牲は悲しいだけ、それはきっとみんなが思う美しいものなんかじゃないんだ。
だから、ダイチを戦いに参加させられないと思った。
ダイチが死ぬところなんて見たくない。
「お前らが俺の知らないところで死ぬなんて嫌だ」
「……なら戦えばいい。自己犠牲抜きで、ね」
鋭い目付きで成ちゃんはダイチに言った。
クラスメイト達は話を聞いていたせいか泣き出したり、ビルの自動ドアをガンガンと叩いたりしている。落ち着いていない。
いつも楽しく話していたクラスメイト達の態度は想像もできないくらい崩れていた。何かを言い合ったり、慰めあったり、日常から切り離されているせいか普段見せないような表情をしている。
なんとなく感じた濁ったような空気はだんだん酷くなっていった。大きくため息をつくとその空気が一気に私の体内に入る。
その嫌な空気を私の身体は拒否するようにげほげほと咳をこんでしまった。このビルはもう死んでいるのかもしれない。
異常な光景と濁った空気が嫌になり、ぐっと唇を噛む。
無意識にでたその癖に私自身も驚いた。
「……こ、これから、どうするの」
怯えながら私達のもとへ来たのはレイナだった。
「わかんない、けどクリアしなきゃ」
「そりゃ脱出のためにはそれしかないけれど……。なんだか、カオリちゃんは私の知らないカオリちゃんに近づいてる気がするよ。どうしてそこまで一人で頑張ろうとするの?」
知らなくていい。過去の私のことなんて、私自身もわからない。
死んでいってしまう仲間ならつくらないほうがいい。だから今、絶望しているクラスメイトなど、私には必要ないのだ。
私はただ、するべきことをする。
「私は私を、私の仲間を、私の記憶を、取り戻す。それだけ。私の取り戻すための戦いはもう始まってる」




