【日常】三話目。
「笹野宮高等学校から転校してきました灰山成です!よろしくお願いします」
何この状況……。
あの急に現れた灰山成がまた急に現れた。
黒板には控えめな綺麗な文字で「灰山成」ときちんと書かれている。これは現実なのか……。
てか笹野宮高等学校ってどこ!?
聞いたこともないよ!
灰山成は私と目が合うとにこっと笑った。
その後、休み時間になると灰山はすごい笑顔で私の席に来た。
「香織ちゃん、これから仲良くしよーね?」
「う、うん……よろしく、灰山さん」
「灰山さんはやめてよー、成って呼んで!」
「わかった、成ちゃん……」
私と転校生である成ちゃんが仲良しげに話している事が不思議なのか、クラスはざわついている。
「西田、お前灰山と知り合いなん?」
「ま、まぁ、一度あったというか、前から知り合いだったというか、一発殴られたっていうか……」
「なにそれ」
「自分でもよくわかんなくて……」
「それって、お前の欠けた記憶と関係あるってこと?」
「……うん」
成ちゃんは徐々にクラスに溶け込んでいった。コミュニケーション能力が高いのか、もう既に友達も多いようだ。
あんなことがあったけれど成ちゃんはあぶない人なんだろうか?
昔の私にとって、成ちゃんはどんな人だったんだろう。
今の私にとっては、そこまで危なくもないし、悪い人には見えない。
「一日、観察して見るか」
「えぇっ?バレずに出来るわけないってば!」
「やってみなきゃわかんねぇって!レッツチャレンジだ!!」
「わかったよ……」
広瀬と相談し成ちゃんと少し離れて観察をすることにした。
成ちゃんは友達と話しながら移動教室に向かっている。
とくに何も無い。
昼休み、コンビニかどこかで買ってきたパンを食べている。
それ以外はとくに何も無い。
掃除の時間、友達とふざけて入るがとくに何も無い。
帰りのHR、少し眠たそうだけどとくに何も無い。
「何も無かったよ!?」
「いいや西田、ここからだ。家まで付けるぞ」
「それもはやストーカー……」
「早く行くぞ!」
「りょーかい……」
道の角や、電信柱に隠れて成ちゃんを付ける。
すると成ちゃんがゆっくりと振り返った。
「はぁ……一日中観察されると私も疲れるんだけどなぁ」
完全にバレてる。
「ねぇ早く出てきてよ」
「……いつから、わかってたの?」
諦めて隠れるのをやめるとそこは誰もいない公園だった。
なんだか寂しい公園。誰かが遊びに来ている気配がない。
「最初からだよ。だからここまで連れてきたんでしょ?ちゃんと話ができるように」
「わざわざ人がいないところに?」
「そう。だって、もしもの時に人がいたらあなた達を殺せないじゃん」
ぞわっと鳥肌が立った。
どこからどこまでが本気なのかわからないけれど確かに殺気を感じたのだ。
「おい西田、コイツ危ないぞ……」
「まぁ殺す気はないけど。……あれ?君、そっくりだね」
「なんのことだか意味わかんねー」
「へぇ……わからないのか。なら君はこっちにこない方がいい。来ちゃダメだよ。知りたくないことを嫌でも知ってしまうんだから」
「本当にお前何言ってるのかわかんねーよ!」
夕日がゆっくりと沈んでいく。
夏なのに暗いって事はもう七時すぎか、なんてのんきに考えてる場合じゃない。
「香織ちゃん、あなた、本当に全て忘れてしまったの?」
「私は、中学三年のときの記憶がない……ほかにも、一年の時の一定期間の記憶がなくなってる」
「……なら、わからないよね。でももう時間がない。あなたの大切だと思っている人達がいつまでもつか……助けようよ。もう一度、あの世界へ行こう」
「あの、世界って……?」
「リアルキルゲーム。
私とあなたとあなたの仲間が殺し合いをした世界」
「またそれなの?私は覚えてないんだから何を言われようがわからないよ」
「明日、わからせるよ。もう時間がないんだから。
じゃあ、また明日学校で」
成ちゃんはそのあとまた消えた。
私と広瀬はただ茫然とその場所に立ち尽くしていた。
何が起こったのかわからないままで。
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次の日、急に時間割が変わって社会と情報が一時間目に入っていた。
おかしいとは思ったけれど、まあそんなこともあるだろうと考え気にしないようにした。
「香織ちゃん、先に言っておくけどごめんね」
成ちゃんはそう言って自分の席のパソコンの前に座った。
何分経っても先生が来ない。
おかしいと思い始めたクラスメイト達がざわざわと騒ぎ始める。
「……これ、は……」
知っている。私はこのおかしな出来事を知っていた。
ぐっと目を瞑りゆっくり、思い出す。
まだ確実ではないからか、頭に浮かぶ過去の映像はなんだかぼやけているようだ。
晴天なのに、光が全く入らないパソコン室が私の頭に浮んでいる。私が目覚めたパソコン室は、最初クラスメイト達と一緒にいた部屋だった。
思い出す事は少ないけれど、非現実的な画面から出てくる無数の手まで思い出した。
それを思い出した瞬間、その先のことなんて何一つわからないままなのに席を立って、叫んだ。
「ここにいちゃダメだよ!!!」
突然叫んだせいか、過去を思いだして鼓動が早くなっているせいか、私の息は切れていた。
もちろん、大声で叫んだせいでクラスメイト達の視線は私に集まる。
「西田?どうしたんだよ」
「香織ちゃんおかしいよー」
そう声を掛けられた。でも私の記憶が正しくて、この先なにか起こってしまうなら今行動するしかないのだ。
「教室に戻ろう!?だっておかしいじゃん!先生も来ないし電気もつかない!!なんか……気味が悪いよ……!」
私がそういうと、確かにと言って一人の男子生徒がドアの方に向かった。
ドアに手を掛けて、その男子生徒は真っ青な顔になった。
「……ドアが、開かない」
また教室が騒がしくなる。
「そんなわけないでしょ!?ちゃんと力入れて開けなよ!」
「やってるよ!でも開かないんだ!!鍵が掛かっていると言うよりは……」
男子生徒が言いたい事はわかっていた。
なぜなら私も、どこかで似たようなことを思った気がしたから。
「鍵が掛かっていると言うよりは、石のように重く、硬い……」
「そう!西田お前、何で知ってるんだ?」
「わかんないよ!でも、ここから出れなくなってるってことは、今ここにいる全員の共通認識だと思う……」
「じゃどーすんだよ!」
どうする?そんなの、私が知るわけない。
閉じ込められた今、何をすべきなのか、どうすればいいのか、私が、知っているわけがない。
「わっ!?」
「!、どうしたの?」
一人の女子生徒がいきなりパソコンの画面を見て、驚いた。
その女子生徒のパソコンを見ると文字が写し出されている。よく見れば部屋にあるパソコン全て同じように文字が写っている。
〈全員席二座レ〉
寒気を感じた。
私と男子生徒以外、全員席についている。
もし、私と男子生徒が席に座ったら頭の片隅に残るあの記憶と同じになってしまうんじゃないのかという不安が募っていった。
〈早ク座レ〉
でも、これに従わないともっとひどいことが起きるかもしれない。それが何よりも怖かった。
だから私はゆっくり自分の席についた。
男子生徒も、私を見てドアを諦めて座った。
私たち二人が席に着くとまた文字が変わる。
黒い画面に赤い文字でこう書かれていた……。
〈リアルキルゲームver.2〉
その時誰が何を言っていたのか私はわからない。
聞こえなかった。
この文字を見た途端、余裕というものが消えて、何もわからなくなって、怖くなって、何かが始まり終わってしまうような気がしていたのだ。
「……さぁ、もう一度始めようか。ゲーム開始だよ、香織ちゃん……」




