【日常】二話目。
「命を、かけた……?どういうこと?」
「えー、そのままの意味だよ?私とカオリちゃんは生きるか死ぬかの勝負をしていたんだ。あの時は本当に楽しかったなぁ」
この人はおかしい、そう思った。
だって生きるか死ぬかなんてそんなの怖くて出来ないよ。
私には無理。一人の少女を見ただけで震える私がそんなのできる分けないじゃないか。
それを楽しかった、なんて、おかしい。
「……貴女本当にあのカオリちゃんなの?見た目はそうなのに中身が別モノだよ?」
「わっ、私、はッ……覚えてない、貴女のことも、そんな、勝負のことも……!」
「へぇ……あのカオリちゃんがこんな可愛い女の子だなんて……でも私の望んでるカオリちゃんはそんなんじゃない」
急に彼女の目付きは鋭くなった。
そして彼女は一瞬で私の隣にきて銀色の銃を私の頭に当てた。
これは、本物……?そんなわけない、そんなの、ありえない!
「早く思い出してよ。じゃないと貴女の大切な仲間……三年一組は取り返せないよ?」
ドクンと心臓の音が頭に響いた。
大切な仲間、三年一組、そのワードで私の中の何かが動き出した気がした。
「三年、一組……?」
「そう。あの子達はまだあの世界に囚われたまま……カオリちゃんが助けるしかないでしょ?」
「私が……?」
「カオリちゃん意外に誰がいるっていうのさ?」
「私は無理……私は、死にたくない!!」
頬に痛みを感じた。
でも痛みに気付くまで何をされたかわからなかった。
傷んだ頬に手を当てやっと気が付く、私は叩かれたのだ。それも思いっきり。
「……ありえない。記憶を無くしただけで貴女はカオリちゃんじゃなくなった!前のカオリちゃんは死にたくないなんて思ってても言葉に出さなかった、強かった!仲間のためなら喜んで死を選んでた!!それがカオリちゃんだ!そうじゃないなら貴女は誰なの!?ねぇ!私に、今の貴女を教えてよ!」
怒ってた。泣いてた。
強い私を語っていた。そんな私だったらどんなに強かったんだろう。きっと私は記憶を無くしてから空っぽなんだ。
彼女の涙につられて私もまた、涙を流した。
「私は……西田、香織…………貴女の望むカオリはもういない……」
「……わかった。貴女に希望を残した彩夏ちゃんは、きっとまだ望んでる。貴女のことを。それだけは、何があっても忘れないで」
灰山成と名乗った彼女はもう姿を見せなかった。あまりにも非現実的すぎて私はあの時の出来事がもしかしたら夢だったんじゃないかと、そう思っている。
でも記憶に焼き付いた彼女の姿は離れない。
灰色の髪、青い瞳、灰色のワイシャツ、オレンジのスカート、私より少し大きな身長、銀色の銃……全部、覚えてる。
あれが夢なら、どんなに嬉しいか……そう、思う。
「何で最近元気ないわけ?」
「おぉう広瀬!?いきなりだね……!」
「で、何で?」
「……ちょっと、よくわからないことがあって、どうすればいいか、わからないんだ」
「そうか。なら俺の過去を話してやる」
「いきなりだね、本当に!!」
「まぁ聞けって!人の話を聞いてれば気が紛れるだろ!」
私と広瀬は放課後の教室にいた。
ただ理由もなく残っていた。
そんな私の様子を見て広瀬は声をかけてくれたんだろう。
「俺さ、双子の兄貴がいたんだー。親の離婚でバラバラになっちゃったんだけどさ、割と近くにいて……まぁ、なんか変な兄貴だったよ。いつも笑ってて、変なとこで優しくて……俺が親のケンカに巻き込まれた時も庇ってくれた。だから俺は小さい頃、兄貴とおそろいを失っただけで済んだんだ」
「おそろいって?」
「黒髪のこと。俺、変なことして色素抜けちゃったんだ。……そのときはそれだけだった。でも、結局それだけじゃ済まなかった。バラバラなっても俺達はたまに会っていたんだ。あの日も待ち合わせの公園で俺は待ってた」
「……何か、あったの?」
「兄貴、死んだんだよ。電車の事故でさ。俺は泣けなかった、なんであんなに笑って話してた兄貴が自殺したのかわからなかったから」
広瀬の表情は何一つ変わっていない。普通、こういう話をするとき、悲しげに話すもんだと私は思っていた。
でも、泣けないことも、悲しめないことも、とても辛いと思う。
「広瀬は、強いね」
「えぇ、何で泣いてんの!?」
「あははっ……私もね、悲しいことがあったの。すごくね、悲しかった、辛かった……」
「そっか。聞いてやるよ、俺でよければさ」
その日、初めて私は記憶のないことをクラスメイトに話した。涙が止まった頃にはすごくスッキリしていて、今なら私は前の私に、近づける気がした。




