【日常】一話目。
私には、中学三年の時のクラスメイトの記憶がない。なぜかはわからないけれど、卒業が近づくその季節に何かの事件に巻き込まれたらしいのだ。そしてその事件で私以外のクラスメイトは行方不明になった。卒業式も、私のクラスの三年一組の席は私以外誰もいなかった。
事件のショックで全てを忘れしまった私に「事件のことは何も話さないでくれ」と言ったのは両親だった。
もともと中一、中二と友達が少なかったせいか、三年の記憶がないと私には友達がいなかった、ということになる。それだけは少し寂しかった。
けれど今、私は普通の女子高生として生きている。友達はいるし、入った部活は楽しい。だからそれだけで十分だった。
あの、夢を見るまでは……。
『……けて…………カオリ……』
泣いている白い少女。アルビノというやつだろうか。光の無い瞳で泣いている。
私はなぜかその少女に見覚えがあった。
助けなくちゃ、そんな気がする。
『もう一度、もう一度だけ……こっちの、世界へ…………』
そういって少女は消えた。
私の夢もそこで終わった。
目覚めは最悪。いつも以上に汗をかいている。
「あの子、誰だったんだろう……?」
すごくきれいな子だと思った。
顔は整っているし、何よりあの白髪に一瞬でも見とれてしまった自分がいるのだ。
でも、悲しそうだったな、と小さくつぶやく。
数分後、私はもう夢のことなんて覚えていなかった。
朝ご飯を食べて、着替えて、歯磨きをして、普通の生活を送る。また、私の一日が始まる。それだけでうれしい。何でかはわからない。でも、生きているってすばらしいことなんだって思える。
私は生きている感覚が好きだ。何気ない行動でそれを感じられるなんて最高だと思う。
私がおかしいのかもしれないけれど。
「おはよー」
「おーおはよう西田」
「……え、広瀬、なんか今日早くない?」
「今日も、だし」
「そっか。で、りんは?」
「時宮はまだだけど」
「ああ、そう……」
頭の良い広瀬大智は初めて出会ったときから初めてじゃないような気がしている。
少し色素が抜けてしまっている茶髪には見覚えはないが、その顔に懐かしいなにかを感じた。周りを見渡してみるが誰もいない。ずっと疑問に思っていたことを言うのは今かもしれない。
「あのさ、広瀬」
「何だよ?」
「私と、あったことない?すれ違ったとか、小さい頃とか……中学三年生の頃、とかさ……?」
「はぁ?んなもんねぇーよ。何?テスト期間のせいでおかしくなったん?」
「はぁっ!?そんなわけないでしょ!」
「じゃあ変なこと聞くなよ……。あ、でもお前って天鈴出身だっけか?」
「あ、うん……。一応、ね」
「……ならまぁ、ありえる。いや、俺は会ったことないけど」
「何意味わかんないことブツブツつぶやいてるの?」
「お前には関係の無いことだっつーの!」
しばらくするとだんだんとクラスメイトが集まってきた。
私と広瀬の会話はあれ以上続く事はなくよくわからないまま終わりになった。
私の待っていた時宮りんは数分後に来て、いつもと変わらない会話をする。
それが私の日常だ。
一時間目、国語、二時間目、数学、三時間目、体育……。
体育では体力テストが終わり今回からバレーボールになった。
球技は苦手だ。ボールは私を拒否しているように感じる。
先生に言われたとおりボールを投げてみるが思ったように飛んで行かない。飛んできたボールは怖くて避けてしまう。
それも、異常な速度で。
どうして身体が動くのかわからない。
ただ、怖いのだ。向かってくるものが。
「……何が、怖いのか、わからない」
「香織、どうしたの?」
「え?あ、うーんと……なんでもないよ。次の授業なんだっけ?」
「次は科人で、五時間目がパソコンだよ」
「ありがと」
そしてもう一つ、私には理由もわからず恐怖心を抱くものがある。パソコンだ。パソコンを目の前にして席に座る事はなぜだがストレスで、ひどい頭痛と吐き気が同時に私の身体を襲う時がある。まぁ、たまにだが。
その画面をじっと見ることが苦痛でしかないのだ。
だからといって授業を休むわけには行かない。いつも仕方ないからその苦痛に耐えながら頑張っている。
「科人かぁ……理科はなかなかできないんだよなぁ」
「わかるわかる!ありすとてれさ?とかわかんないし!」
「アリストテレスね」
「そうそう!あとゴッホ!」
「ゴッホは美術でしょーが」
「あれれ、そうだっけ?えーとえーとあとは……」
「もういいよ!頑張ろうね!!」
友人は素でわからないのか、ボケているのかどっちなのかわからない。理科でゴッホが出てきたらゴッホはどれだけ多才なんだっての……。
「香織ちゃーん!真彩ちゃーん!」
少し遠くから手を振ってくる女の子。
入学式に話しかけてから仲の良い岩橋霊奈だ。
「霊奈?どうしたのー?」
「私のこと置いていったでしょー!?」
「いや、急にいなくなったのは霊奈だよ」
「え、嘘!?私また変な方向に行ったのか……」
「そうみたいだねー。全く霊奈は本当に方向音痴なんだから」
霊奈も広瀬と同じで、何でか懐かしい何かを感じる。
でも、彼女は何も答えてくれなかった。知らないというよりは、余計なことを言わない、そんな感じだった。
いつ出会ったのか、そもそも出会っているのか、それを話してくれないのだ。
四時間目の科人が終わり、五時間目のパソコンが終わり、帰りの時間になるのはあっという間だった。
何事もなく今日が終わるのだ。
私はそう思ってた。
けれど帰り道、私の目の前に現れたのは一人の少女。
青い瞳で私をじっと見ている。それを少し、怖いと思った。
「……だ、誰ですか……?」
「やっと、見つけた。……綺麗に記憶が消えちゃって、ちょっと憎たらしいよ……」
「記憶……?もしかして、私の三年生の時のことを知ってるの!?ねぇ、貴女は誰なの!?教えてよ!」
私がそう叫ぶと彼女は笑った。
「あははっ!私?私は灰山、灰山成!カオリちゃんと、命をかけた勝負をしたんだよ!」
信じられないくらい、私の足は震えていた。
でもその灰山成と名乗った少女に、私の欠けた記憶の手がかりが隠されているんだとそれだけはわかった。




