二十六話目。
「ッ……!」
痛い。
『ふっ……んな!!』
辛い。
「もう……りだ……よ……」
うるさい。
『い……おぃ……カオリ!』
ここはどこなんだろう。
誰が私を呼んでいるんだろう。
まだ痛いんだよ。お腹が痛い。ミカに撃たれたお腹の激痛が治らないんだよ。
『いつまで寝ているんだ!死にたいのか!!』
バシンと頬を叩かれスッキリと目が覚めた。
私の視界に広がっていたのは真っ白な空間と、傷ついたリクと晶、そして歪んだ笑みの灰山と必死な表情の彩夏。
あの白いワンピースが返り血と自分の血でところどころ赤く染まってしまっている。
「彩夏、さん!?なにこれ……どういうこと!?」
起きあがろうとすると手に生暖かい感覚が伝わってきた。その感覚に驚き手を見てみる。するとそこにはベッタリと血がついていた。
私の血……?違う。私はこんなに血を流していない。
その血をたどって視線を動かす。
「ひっ……ぁ……み、ミカ……なん、で……」
そこにはミカの死体があった。
腕を切られ、足の関節はありえない方向に曲がっている。
ここまで酷い殺し方があるだろうか。
その隣にはDBもいた。沢山の刺傷がある。どれも致命傷だ。
『お前もこうなりたくないだろう!?ならば立て!戦え!!お前の奪われた全てを取り戻すんだ!!』
「嫌だっ……なんなのッ!?もう何がなんだかわからないよ!!誰が何をしたのさ!私の敵は誰なの!もう、わかんないッ……」
私はあのミカから撃たれた銃弾で気絶していた。
その気絶している間に彩夏の記憶を夢で見たのだ。傍観者のように、ただじっと見ていた。
あの彩夏が、どれだけ辛かったか……それを考えたら心が簡単に砕けてしまいそうだ。
そんなものを見てしまったあとにこの光景じゃ、誰が敵だかわからない。
誰を倒せば元の現実に帰れるんだろう。
私が眠っている間に一体何が起こったんだ?
『アハハハッ……彩夏ちゃん、そろそろ私、怒るよ?
あなたがした事は、ゲームのルール違反。チートだよ』
『私が作ったゲームだ……ルール違反だろうが許される』
『いい加減わがままもやめて欲しいな。彩夏ちゃんが私に奪われたものってそこまで大切なものなの?』
二人が話している間に私は重い身体を起こしてリクと晶の元へと走る。
「リクっ……晶……!」
「ぅぐっ……ぁ……カオ、リ」
「何で二人ともこんなに傷ついてるの!?私が寝てる間に何があったの!?ねぇ!!」
『成……灰山成が、全員殺そうとしたんだ……。その時、急に目の前が真っ白になって……気付いたら雪村に助けられていた』
やっぱり、灰山成が……。
そう考えたら許せなかった。皆を殺したのは、アイツ。
これから私達を殺そうとしているのもアイツ。
なら、ラスボスは、アイツだ。
私の倒すべき相手は灰山成だ。
「晶……私、死んじゃうかもしれないから言っておくね。
私は君に助けられた。私は君を助けられなかった。本当にごめんなさい……ありがとう」
『や、めろ……灰山は、雪村を倒すんだぞ!?現実に、帰りたくないのか!!』
あぁ、そうだった。晶はもう、彩夏との記憶は無いんだ。
「本当の敵は、灰山成だよ。そこまでされて、まだ気付かないの?」
『でもっ……』
「私は灰山成を倒す」
その一言で晶は何も言わなくなった。黙って私の傷を治してくれた。
私の現実を取り戻すために、私は最後の戦いをするのだ。
この命を落としても、倒さなければならないから。
『あれれ?カオリちゃんも敵なの?』
「……あなたは私の仲間の命を奪った!」
『でも私はカオリちゃんに与えたものもあるよ?』
「それは絶望と痛みだけじゃない!!」
『だーいせーかーい!アハハッ、よくわかってるじゃない!!』
狂ってる。絶対、おかしい。
「私はアンタを許さない!!!」
鉄パイプを拾ってドッペルゲンガーを出す。今回はドッペルゲンガーと二人で殴りかかった。
すると灰山は黒いイナズマのようなものをまといまたあの歪んだ笑顔で笑った。
バチンッとはじかれその場に倒れ込む。けれど痛くなかった。
防御されただけだ。
『その鉄パイプ……私が作ったあの敵にやられた山川 浩人のものだよね?わぁ、すごい。このステージまで歪んでないなんて』
私の中で、真っ黒い感情が湧き上がってきた。
私が作った?あの敵?
その単語を聞いた瞬間、あの光景がフラッシュバックする。
死んだ時のヒロトの顔が、私の頭に浮かんでいた。
「ふっ、ふざけるなぁぁぁぁあッ!!!!!」
『何だカオリちゃん、あなたもずいぶん狂ってるじゃん!!人を殺せるようになるなんて!』
私は灰山を殺そうとした。頭を思いっきり殴ったのに、手応えもあったのに、なのにその攻撃はきちんと防御されている。
あの黒いイナズマがまるで刃物のようになってガードしたのだ。
『その武器、大切なものなんでしょ?
じゃあその武器で私があなたを殺してあげる!』
鉄パイプが私の手から消え、灰山の手にはヒロトの鉄パイプが握られている。
まずい、私、死ぬ。
まるで槍のように鉄パイプは私の心臓を狙って飛んできた。
『カオリッ!!』
死ぬと思ったのに晶が私を庇う。
そんなことしないでよ、私の前で死なないでよ。
お願いだから、私のためにまた死なないで……。
でも、鉄パイプが貫いたのは私でも晶でもなく、雪村彩夏だった。
『晶……お前の笑顔が好きだったっ……』
そう呟いて、雪村彩夏は涙を流した。
そっと晶のほうに手を伸ばして、そのまま、倒れた。




