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二十五話目。

 酷い苛立ちや罪悪感、そして悲しみに襲われる中、彩夏はあるひとつの希望を見つけた。

 西田香織、晶が守ったあの少女だ。

 彼女はゲームを続ける中、驚くほどに精神面が成長した。

 強くなりたい、もっと強く、そう願っていたからか……彼女は自分では気付いていないだろうが、その目には確かな強さが宿っている。

 だから、きっと彼女は晶を助けてくれる、自分を殺してくれる、そう思った。


 だから彼女を殺さないためにも今回のゲームをハッピーエンドにし、逃がした。

 もしもたった一つの希望が灰山に殺されてしまっては絶望しか残らない。



 そして二年後、天鈴第一中学校三年一組である見覚えのあるメンバーと西田香織が再びこのゲームにきた。


 彩夏は二年間何もしなかったわけじゃない。いつか灰山を倒すために自分のために、NPCを作った。それがDead(デッド)Breaker(ブレイカー)、DBだ。

 もう晶は信用出来ない。このゲームも、信用できない、そう考えた彩夏はひたすら自分を守った。


 けれどダメだった。DBも灰山のせいでデータを書き換えられていた。勝手に暴走をして、仲間を殺そうとした。



『待て、命令違反にしても最悪だ。消されたいのか?』

「っ!?だ、誰……」


 グッとDBの腕をつかみ睨む。

 もうこいつも敵だと、そう認識したのだ。


「何でアンタがいるんだよ」


 自分の作ったキャラクターに睨まれる。味方だと思っていたのに。


『私が監視役だからだ』


「監視、役……?貴女は、主催者なの……」


 怯えたように彩夏のほうを見る香織。

 まだだ、まだ、この子はアイツを倒せない……、そう考えた彩夏は灰山が香織に接触しないようまずは自分を敵だと思わせることにした。


『……そうだな。本当はこんな所で姿を見せるはずじゃなかったんだが……まぁいい。ほんの少し予定が狂っただけだ』


 悪役は簡単に出来た。

 全員敵だと思えば、すべてを壊したくなるからだ。


 彩夏はDBを殴って自分の記憶を流し込んだ。

 起きたらきっと彩夏の記憶が少しは残っているだろう。

 あの灰山との戦いの記憶が。


『私は主催者側の一人、雪村彩夏(ゆきむらさいか)だ。君たちをこのゲームに招待したのも、ゲームをアップデートしたのも、このDBを生み出したのも私だ』


 出来るだけ淡々とした口調で話す。



『とりあえず、お前ら……カオリ、リク、ミカ、DB、レイナ、意外は止めておくか。話をするにも騒がしいし鬱陶しい。もう少し第一ステージで殺しておくんだったな……』


 止めておく、と言ったあとにそこらへんにいたクラスメイト達は止まった。まだ灰山はそういうシステムに気づいていないんだろう。特殊能力は一瞬なら宿すことが出来る。

 驚いた顔、笑っている顔、さまざまな表情でクラスメイトは話をしていたようだ。


「お前何なんだよ、いきなり現れて!」

『助けてやったのにその態度はなんだ。そうか、死にたいのか』

「んなわけねぇだろ!!」


『私に落ち着いて話をさせろ。殺すぞ』


 出来るだけ冷たい態度で接する。

 いつか自分を殺してもらうための準備だ。


「っ…………」


 ただの『殺すぞ』という言葉を本気で行ったせいかその場にいる五人は黙ってしまった。

 威圧感というものを出すのは簡単だ、そう彩夏は認識したのだ。


 すぅ、と息を吸って大切なことだけを伝える。

 あまり目立った行動をするとすぐに灰山が来るからだ。


『……まず、第一ステージクリアおめでとう。本当はこの後七不思議と戦って欲しかったんだがレイナがこうなっている以上不可能かもしれないんだ。だから君たちには2つの選択肢を与えようと思う』


「選択肢……?」


『あぁ。ここで全員死ぬか……、DBとレイナと殺し合いをするか…………どちらかだ。DBは命令違反をするし、レイナはもう敵として使えないからな。さぁ、どうする?』


 彩夏は最悪だと思わせるための選択肢を用意した。

 全員死ぬのも、仲間だと信じているDBやレイナと殺し合うのもきっとこの子たちは選ばない、そう思っているからだろう。


「どちらも選ばない、と言ったら?」


 やっぱり、そうくるか、と笑みがこぼれるのを必死におさえる。


『お前ら以外の止まってるクラスメイトを殺すだけだが?』


 当たり前のように彩夏は答えた。


「彩夏……さん、を殺すってのは有り?無し?」


 この子は勘がいいのだろうか。彩夏が一番望んでいることを今、口にした。この言葉にはあふれる嬉しさを抑えられなかった。


『………は?…………………フフッ……アハハハハハッ!

 それは私にも思い付かなかったぞ!!

 プレイヤーが主催者側を殺す?そんなの誰がやるんだよ!バカなのか?面白いじゃないか!!』


「た、確かに、主催者に挑むのはバカかもしれません。けれど、死ぬのも信頼している人との殺し合いもしたくないんです!!」


 だが香織の言葉に彩夏はほんの少し失望した。

 綺麗事だ、正義の味方の真似事だと、怒りが湧いてきた。


『はぁ?コイツは私が作ったお前らを殺すNPCだぞ?信頼なんてしてたのか?』

「ッ……貴女が私たちのことをどう思っているかは知りませんけど、DBは私たちの仲間です!!!」


 彩夏はずっと、一人だった。たった一人の仲間だった晶も今では敵だ。そんな状況で香織の言葉は、彩夏の傷を抉った。


 唐突に走る腹部への痛み。

 白い服に赤く滲む血。

 彩夏はDBに撃たれたのだ。撃った本人であるDBは自分の中に流れ込んでいる記憶をまだ受け入れられていないのだろう。その瞳には迷いが映る。


 彩夏はもう、痛みを感じる程人間らしくなかった。

 灰山に殴られたあの時よりもさらに化物になっていたのだ。


 本当は痛くてもそれを表に出さない。そういうことを繰り返しているうちに彩夏は痛みに鈍感になってしまったようだ。



 ……そうして彩夏は確実に、本物の化け物へと近付いていった。


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