二十四話目。
晶と彩夏が出会ってから何年たったろうか……。もしかしたら数日かもしれない。時間の無いその場所では、自分の感覚だけがたよりなのだ。
晶は、もう殺されていく人々を見るのになれてしまった。彩夏が作ったこのゲームで、未だに彩夏を見たものはいない。絶望でそのまま死んでいく人もいた。
「そろそろ、お前の学校の生徒もこのゲームに招待するぞ」
「……そっか。まぁ、もともとその予定だったもんね」
「あぁ。お前は久しぶりに友人と会ったらどうだ?」
「俺は死んでるんだよ?会える分けないじゃないか」
「それもそうか。ならお前は一切手を出すな。お前を裏切った奴らなんてどうなろうが、構わないだろ」
彩夏は晶のほうを見ずにそう呟いた。
彩夏にとって晶はもう、大切な存在になってしまっているんだろう。たとえ自覚がなくとも。
彩夏がゲームの準備のために移動すると、晶は全てのステージの中心に存在する会議室のような場所に入った。
ゲームが開始されると必ずこの部屋にいなくてはならないという彩夏が作ったルールがあるからだ。
だが今回は一つ、おかしいことがあった。
晶の目の前にはにっこりと笑った少女がいたのだ。見たこともない、完全に初対面な少女が。
この世界は彩夏が作り出したもので、彩夏と晶以外はプレイヤー、それ以外の存在はありえないものだった。
「……は?」
「はじめまして、佐蛍晶君」
「えっ、ちょっと待って。君誰?何で俺のこと知ってるの?」
「うんうん、やっぱりそうなるよねー。いやー慌ててる晶君可愛いな」
……会話が成立していなかった。
質問に対する答えは帰ってこない。だから今の状況が何一つわからないままどんどん話は進む。
それに対して慌てている晶をみて少女はニヤニヤと見ていた。
「ふざけんなよっ!?お前誰なんだ!」
「あははっ、怒っちゃった?ごめんごめん。私だって悪気があったわけじゃないのさ」
「百パーセント悪気があった」
「認めよう」
「即答かよ!」
また話が脱線する。この会話はどういう訳か少女の流れになってしまうようだ。
「まぁ、おふざけはこれくらいにして君の質問に答えるよ」
そう言うと少女は先ほどの笑顔ではなく、静かに微笑んだ。なにかこれから悪いことを話すかのような雰囲気。晶も黙って少女を見つめた。
「私は外の人間……ではないな、外の化物だよ。私は雪村彩夏が君を殺さないよう保護しに来たってわけ。君は私の自分勝手に関係ないからさ」
「は?」
一気に沢山の情報が入ってきてパニックになる晶。
そりゃそうだ。この少女は晶がこうなると予想してわざと断片情報しか教えてないのだから。
「い、意味わかんねぇ……。保護?俺は俺の意思でここにいるんだ!!」
「……まぁ落ち着きなよ。わからなくてもいいから。それはそうとして、君と彩夏ちゃんが仲良くするのはすっごく困るんだよねぇ。化け物と人間、それは本来一緒にいてはいけない存在なんだ。化け物は化け物と、人間は人間と、そうやって世界はバランスを保っているんだよ?」
「っ……君だってちょっと特殊なだけで普通の人間と変わらないはずだ!彩夏は普通の女の子と何一つ変わらないはずなんだ!!化け物だなんて言うな!」
「わかってないなぁ君は……。じゃあ君も、化け物になってみる?」
晶はニヤリと笑った少女の顔を見て、その場に倒れた。本当に一瞬の出来事、少女は晶に一発の銃弾を放ったのだ。
「ごめんね晶君……君の彩夏ちゃんに対する気持ちと、君の人間である部分、殺しちゃったっ!」
少女は笑っていた。狂ったかのように銀色に光る銃を握って。
まるでこれからのことを想像して笑っているようだった。
撃たれた晶は脱力してその場に倒れている。だが撃たれた場所からは血も出ていなく服もそのまま。それをみてまた少女はにやける。上手くいったと、そう言った。
「なるほどな……最初から晶の保護は目的ではなかったと、そういうことか」
狂った少女の背後から殺気を纏った彩夏が出てきた。
目付きは悪く、酷く怒っているようだ。
「あはっ、バレちゃったぁ……?」
「お前、何者だ……。晶はもう人間じゃない。それはお前の持っているその銃のせいだろう?」
「私は成、灰山成。彩夏ちゃんと同じ、化け物だよ……」
二人の殺気がぶつかり合う。
それは異常な空気だった。普通から外れてしまった化け物同士の睨み合い、それは見ているだけで恐怖を感じるだろう。
「だからなんだ。この場所は私の死に場所、お前が勝手に入っていい場所じゃない」
「それはごめんね。でも仕方ないんだよ、彩夏ちゃんがあまりにも殺しすぎたから。この殺戮ゲームを壊さなきゃいけないんだ」
「…………お前、死にたいのか……?」
言葉は足りなくともその放った殺気の量で成は察した。これは、ヤバイと。そう感じたと同時に彩夏から距離をとる。
「晶君のこと?それとも、自分の死に場所を壊されることに対する怒り?」
「馬鹿かお前は……。そんなの、どちらもに決まっているだろうッ!?」
彩夏は成に殴りかかった。
触れてしまえば、自分の勝ちだと思っているからだろう。
「彩夏ちゃん、私ね、あなたと同じ能力を持ってるんだよ」
ガシッと成の腕を彩夏が掴むと成は俯いてそんなことを呟いた。そして成が顔を上げるとその顔はあの狂った笑顔だった。
「ッ……!?」
容赦の無いパンチが彩夏の腹を打つ。
「ぐッ…ぁ……!!」
その威力にさすがの彩夏も腹を抑えてうずくまるしかない。
目には涙すら浮かんでいた。
「痛い?さすがの化け物でも身体は人間だもん。それも十二歳の身体じゃ、耐えられないよねぇ。あははっ!」
「ぅ、るさいッ……!黙れっ!」
「……最初はこのゲームを壊そうかと思ったけど、面白そうじゃん。私がこのゲームをもらう。ゲームを止めないためにあなたは生かしておいてあげるよ」
「晶はっ……どうする気だ……!?」
「んー、そうだなぁ。殺すには勿体ないし、記憶を変えて私のことを敵だと認識しないようにする」
ころされなくて良かった、と彩夏は思った。けれど次の瞬間成は彩夏の想像もしないことを口にした。
「まぁ、最終的には彩夏ちゃんを殺すための道具にしちゃうけどねッ!!」
「なっ……!」
「だってさ、このゲームに私が飽きちゃったら壊すしかないじゃん?なら、晶君に彩夏ちゃんを殺してもらおうかなって。彩夏ちゃんも、そのほうが幸せでしょう?」
「お前は、自分勝手だ……!晶を巻き込むな!」
「自分勝手なのが私。じゃあね、彩夏ちゃん。次に晶君と会うのは、晶君と殺し合いをする時だよっ」
成はそう吐き捨てて晶を連れていってしまった。
その笑顔は歪んでいて、気味が悪い。
何も出来なかった彩夏は憎しみを募らせ、謝ることしか出来なかった。
「しょ、う……晶……ごめ、ん……!」
誰もいない一人の時間がまた始まった。




