二十一話目。
「……ぃ……おーい!カオリさん!リク君!」
ふと聞こえたその声に振り返る。
そこには小さな身体を精一杯広げて大きく手を振るレイナの姿が見えた。
レイナがいるということは、きっとあの二人もいるのだろう。
「カオリさんたちを調べたらGPSによくわからない反応があったので……あっ…………」
昌と目が合うとレイナは涙をこぼした。
そして昌の方へと駆け寄ると昌に抱き付いた。
「黒羽さんっ!!
よかった……生きてたんですね!!よかったですっ……!」
「え、なになに……カオリ、どういうこと?」
「あ、ミカ……、いや、私にもよくわからなくて……」
しばらく混乱したあと、レイナが泣き終わって落ち着いた。
状況の飲み込めない私たちはただひたすら昌を見る。
今のは何だ、説明しろ、という視線で。
『いやー……困ったな。レイナ、一回離れて?』
「あ、はい、すみません……」
『……あらためまして、俺は黒羽昌。よろしくね。あ、言っておくけど俺はこのゲームの主催者側だから』
「敵じゃん」
「敵だな」
『扱いの酷さ半端ないねっ!……で、でも俺は敵じゃないんだ。DB、君のことはよく知ってるよ。君は俺のこと知らないみたいだけど』
なんとなく、空気が重くなるのを感じた。
それはきっと昌の声のトーンのせいで、敵が現れるとかそんなんじゃないんだろうな。
「……で、俺のことをよく知ってるお前はレイナとどんな関係だ?」
『あー、それは簡単だよ。
兄妹のような関係さ』
「「「は?」」」
『……さっき俺が死にかけたんだけど、多分そのことで泣いてたんだと思う…………』
「それって、あのボロボロになってた時のか?」
『そうそう。レイナはまだ主催者側との連携がとれてるから感じてたんだよね?』
「……はい」
レイナを見る昌の表情は本当に優しくて、確かに兄妹のような関係にも見える。
……私にとって昌は、今も変わらず親友なのだろうか。
今ここに昌はいる、でも現実の昌はもう生きていないのだ。つまり、もう昌は、いないのと同じ。
せっかくの再開も、先を考えるとどうも辛くなってしまう。
私にどんな仲間がいようと昌は私にとって大きな存在だ。
『ここで問題!雪村彩夏とはズバリ、なんでしょう?』
「ラスボスだろ?」
『正解!じゃあ俺、黒羽昌は?』
「…………そう聞かれるとわからないな」
『そう。俺はそういう存在なんだ。でももっとわからないのが一人いる…………白と黒の間の存在』
『昌君、ネタバレ発言だよ、それ』
昌がなにかを言おうとすると、何もない空間からショートカットの少女が現れた。また、そういう存在か。
ミカとリクは武器を構えた。けれど私とDB、レイナはそのままその少女をただ見ているだけ。
『……うん、ずいぶん強くなったね。このままじゃ黒羽君の負けだよ?大丈夫なの?』
『うるさいな。さっさと自己紹介でもすませなよ』
『はいはい。……私は灰山成。質問君や彩夏ちゃんとは違って、正真正銘の化け物だよ』
彼女、灰山成はそのセリフを笑顔で言った。
笑顔なのに、直感だけど、確かに雪村彩夏よりも恐怖を感じた。
「雪村以上の化け物なんて、いないだろ。そもそもラスボス越えられるわけないじゃねーか」
『うん。でも私は彩夏ちゃんの持つ殺すだけの能力と、昌君の持つ治すだけの能力を両方持ってる。片寄りなんてないんだよ』
片寄りがない……それは、欠点がないのと同じだろう。
もし灰山という少女がこちらの敵ならば、倒すことも、勝つことも不可能。
ならばこちらの味方にするしかない。だが、そう簡単じゃないことは、この場にいる誰でもわかる。
『……灰山は、俺と雪村が衝突しないように、それを避けるためだけにいる中立の立場の存在なんだ。だけど今回のゲームで見事に俺と雪村は衝突した。だから来たんだよね?』
『そう。……私はただ、監視だけをしていたかったのに。
…………それでね、このままじゃゲームを進めることが出来なそうなの。つまりどういうことかわかるかな?』
「リタイア?」
『違う。この後君たちがクリアするはずだったステージを抜かして、彩夏ちゃんのところに行ってほしいの』
それはもうルール違反なんてレベルじゃない。
どうしてそうしなきゃいけないのか、それはわからないが、きっと聞いても教えてはくれないだろう。どうせ、あとあとわかることなのだから。
けれどそれをするかどうかは私たちが決める。
主催者だからといってすべての選択を委ねるわけにはいかないのだ。
「悪いけどそれはお断りだよ。
私はこのゲームで大切な仲間を失ったんだ。それをやり返さないでラスボスだけを倒すなんて納得いかない」
「……俺もその意見には同意だ」
「カオリもDBも何言ってるの?ゲームをクリア出来るんだよ?皆助かるんだよ!?バカ正直に命懸けのステージをクリアしていくって……ふざけないで!!冗談でもそんなのおかしいってば!」
ミカは、本気で怒っていた。普段の私ならここまで言われたらミカの言うとおりにしただろう。けれど、私の意思は曲がらない。
目の前で死んでいった仲間たちのことを思い出したら、許せない、絶対に。
生き返るからって、そんなの違う。
全員ぶっ潰すまで、私は敵を倒し続けるのだ。
「ねぇ……何で黙ってんの?リクもなんか言ってよ!この二人おかしくなってる!!」
「………………おかしくねぇよ」
「……は?」
「悪いミカ……俺も、命懸けでも、敵を倒したい」
『多数決、というのはあまりいいものではないよ?
私は反対だなー』
『灰山、お前は口を挟まないで』
『そういう黒羽君はどーするの?私と彩夏ちゃんの所にいく?』
『お断りだよ。俺はカオリたちと進む』
『そっか。じゃあ、ミカさんだけ、彩夏ちゃんのところに行く?』
「もちろん。私はもう…………限界なの」
暗くてよく見えなかったけれど、ミカは沢山の傷を負っていた。
限界というのは心も、身体も、という意味だろう。
ずっと一人で恐怖と戦っていたんだ、そりゃ辛かったはずだ。
それに気付かなかった私たちはミカを支えることをしなかった。
私たちは救うために頑張ったというのに、目の前にいる仲間の心を救えていなかった。
「私は、誰かが死ぬのも、自分が死にそうになるのもこりごりなの!!嫌なの!」
「……ミカ、大丈夫だよ。私たちは…………」
「やめてよ……本当にさ…………、何で?何でわざわざ死のうとするの?」
「死のうとなんかっ……!」
「してるよッ!生き残れるっていう根拠は……?……ほら、ないじゃない。どうせ死ぬならって考えてるわけ?いい加減にしてよ!いつだって自己犠牲……カオリは何がしたいの?」
「自己犠牲だなんてそんな……。私は私の出来ることをしてるのに!」
「だったらもっと自分を大事にしてよ!!
私はカオリが死にそうになるたびに怖かった、気絶してたときも、このまま目が覚めないんじゃないかって……。ずっと……ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……一緒だと、思いたかったんだよ…………?怖いって恐怖心も、人を失ったときの弱さも……なのに何で強くなっちゃったの?そんなのカオリじゃない、カオリは私に守られる存在じゃなかったっけ?あれ……?おかしいな…………自立しちゃったの?まだ、早いよ」
「ちょっと待ってミカ……、どうしたの……?
なんかおかしいよ……」
ミカは泣いてうつむいたまま何かをぶつぶつと言っている。
それがあまりにもおかしいと思った私はミカのほうへと少しずつ近付いた。
「近寄らないでッ!アンタはカオリじゃない!!」
「ミ、カ……?」
一瞬だった。
私はミカに、撃たれたのだ。
わからなかった。何が起きたのか。
でも鋭く走る痛みだけが、その有り得ない現実を語っていた。




