十八話目。
~リクside~
昌の口からでたお願いは簡単で難関なものだった。
もしも昌が雪村と仲間ならこのお願いを受けるわけにもいかない。
だがその逆なら雪村を倒し、このゲームから出れるかもしれない。
「全部が全部、可能性。」
前にカオリが言っていた言葉を思い出した。
その言葉通りだ。
でもだからこそどうすればいいかわからない。
この選択を間違えば全滅だ。
「……」
『……無理ならいいんだけどね。
そりゃプレイヤー側からしたら俺たちなんて化け物なわけだし』
「そういうことじゃない!
お前は雪村なんかより何倍も人間らしいんだ……!
だけどッ……」
『信じられないのも、わかるからさ。
諦めるよ』
そんなふうに笑うなよ。
平気なふりするなよ。
演技もヘタクソなんて、不器用すぎるだろ。
何が正しいかなんて、もういい。
俺の選んだ回答を正解にすればいいだけだ。
「諦める必要なんてない。俺はお前を信じることにする」
『!?……でも、俺は…………』
「もう決めたんだよ。
後悔はしないさ」
『ありがとう……!』
昌と話して、カオリを背負って次の敵を倒しにいくということになった。そして昌はカオリの肩の傷を治し、俺の腕の傷も治してくれた。
でも昌は自分の傷を治さなかった。
その理由を聞くと自分の傷は治せないという。
不便な能力だ。
『ごめんねー、リク……。カオリを背負ってもらっちゃって。
疲れてるでしょ?』
「…………お前、非力だろ」
『うぐっ……、悪いかよっ!
そうだよそうだよ、非力だよ!しかたないだろ!?』
「悪いとは言ってねぇよ。
でも女の子一人背負えねぇとはなぁ……」
『俺のこといじめてない……?』
敵を倒しに行く前に図書室に向かう。
図書室の隣の司書室の真下は資料室だ。
レイナが警戒していたということは音に敏感な敵がいるのかもしれない。
ゆっくり、少しずつ図書室に近付いていく。
だが、図書室の扉に手を掛けて気が付いた。
「鍵が、開かねぇ……」
『これは困ったね……。
図書室の鍵は普段誰が管理してるの?』
「確か、図書の先生が……でもいないときは図書委員長が管理してたな……」
『委員長ってまさか彩夏のせいで……』
「あぁ……止まってる。でも鍵だけならあるかもしれない、教室に戻ってみよう」
『そうだね』
教室に戻るまでにそう時間はかからなかった。
静かだ。相変わらず皆は止まっているし、何も変わっていない。
図書委員長の夏宮 里佳。
俺の小学生の頃からの友人で、中学生になってから性格が変わったらしい。
中二までは控え目だったそうだが三年になってからは図書委員長になるなど目立った行動をしだしたようだ。
いやまぁこのゲームに関しては関係のない情報なんだけども。
おさげの髪型の女子を探すが夏宮の姿はない。
もう死んでいる?いや、怖い話をしていたときはいたはずだ。
「……何でいないんだ」
『いるよ?教卓の下に』
昌が教卓を指差してそう言うと教卓がいきなりガタンと動く。
するとその下から夏宮が苦笑いをしながら出てきた。
「や、やほー……」
「やほー、じゃねぇよ。お前無事だったのか」
「ま、まぁね。あの白髪の女の子が出てきたとき直感で危ないと思って教卓の下に隠れてたんだ。だけど出てみれば皆固まってるし、リク君達が見当たらないしで混乱しちゃって隠れるの続行してた」
「なるほどな。で、お前これからどーすんの?」
「そりゃ……動くしかなくね?」
「だな。じゃ夏宮もいるし、図書室までまた行くか」
本当は隠れていたいんだろうが、このまま一人にしてられない。
夏宮には悪いけどこれからは一緒に行動してもらおう。
「そういえばさ、ミカたちは?あと、そこの人は誰?」
「ミカたちは別行動だ。コイツは……」
『俺は黒羽昌。よろしくね夏宮さん』
「あんまり名字で呼ばれるの好きじゃないんだけどまぁいいか。よろしく黒羽君」
敵が七不思議と設定されているせいか、廊下などでは全く敵に合わない。だから安心して歩ける。
ふと夏宮のほうを見てみるが怪我はなく、一度も戦闘を行っていないんじゃないかと疑うほどにいつも通りだった。
「そういえば、何で夏宮は夏宮なんだろう」
「え、そりゃうちはうちだもの。何かおかしいかな!?」
『……プレイヤー名がない、よね』
「あ…………な、なるほどね。それは確かにおかしい。
でもうちはずっと夏宮って呼ばれてたよ?それがプレイヤー名なんじゃないの?」
『特例すぎるよ。ゲームには絶対プレイヤー名の登録は必要だからね』
夏宮は敵なのかと思ってしまう。
少しでも不自然だと疑うのは、このゲームに入ってから身に付いてしまった嫌な癖だ。
小学校からの同級生を疑うなんて最低だろう。
だが、だからこそわかっていることがある。
夏宮は嘘が下手なのだ。その場に合わせて雰囲気は変えられるくせに、演技もうまいくせに、嘘だけは下手なのだ。
演技が出来るなら嘘もつけるはずなのに、なぜか。
「なぁ夏宮、俺たちを裏切らないよな?それを約束できるか?」
「…………うん」
少しの沈黙はあったがその返事で嘘はついていなかった。
「わかった。じゃああえて事情は聞かない。
だから、約束は守れよな」
「……ありがと」
昌は不満そうだが俺たちに害がないならそれでいい。
何より今は夏宮が必要だ。
そんなことを考えているともう図書室の前についた。
隣の生徒会室はなんでか中が見えない。
「鍵持ってるか?」
「もちろんだよ。今日先生に渡されたからね」
と言って夏宮が出すのは司書室の鍵。
「え、それ図書室のじゃない……」
「図書室の鍵は職員室に置きっぱなしだからね。
司書室から入って中から開けるんだよ」
「そういうことか……」
「じゃ、うちが中から開けるから二人は扉の前で待ってて」
わかった、と返事をして行かせてから女子一人で大丈夫なのかと不安になる。
そして扉を内側から開けてもらって入ると夏宮の様子が変わった。
図書室の貸し出しカウンターに鍵をおいて図書室の奥へ奥へと進んでいく。
「夏宮……?」
「二人は調べたいことがあるんでしょ?カオリはそのイスに座らせておいて早く用事をすませたほうがいいよ。
うちはうちで、やらなきゃいけないことがあるから」
「お、おう……」
笑顔が消え、声のトーンが下がった夏宮に何かを言えるほど余裕はなかった。
俺と昌はひたすら石化について調べた。
だが沢山本がありすぎてどこから手をつければいいかと悩むことの方が多く、収穫はほぼない状態だ。
しかたなく学校の地図だけを取り図書室を出ようとするが、呼び掛けても夏宮からの返事はない。
そこまで図書室が広いわけでもないから探してみるが見当たらない。
「アイツどこに行ったんだよ……」
『先に出たのかも』
「一人で行動するなんてそんな馬鹿なことしないだろ」
『いやいや、そんな馬鹿なことする人もいるからさ。
そのうち見つかるって、とりあえず他の仲間とも連絡とって集合したほうがいいんじゃない?』
「そうだな。でも、カオリの目が覚めてからにしよう」
『うん、わかった』
図書室の時計の針は動いていなかった。
多分、俺たちがリアルキルゲームに入った時から止まっているんだろう。
このゲームから脱出出来ればまた何事もなかったかのように日常が送れるはずなんだ。
また、受験とか嫌だ、なんて言ってられるのに……なんでこんなにも日常が遠いのだろう。
あたりまえに過ぎた日々を思い出すだけで辛くなってきてしまう。
あたりまえに一緒にいた仲間を思い出すだけで、心が割れるような、そんな悲しみにつつまれる。
非現実は、アニメやライトノベルだけで十分なのだ。
現実に起こったらそれは悲劇でしかなくて……。
もうこりごりなんだ。
決められた一週間の時間割をたんたんとこなして、出された課題を嫌々モードでこなす、それが理想的な毎日なのだ。
それ以上なんていらない。
そんな日常にどうして、戻れないのだろうか。
目を閉じるとそんなことしか考えられない自分に腹が立つ。
「……ここ、は…………図書室……?」
「……おはよう、なのか?
まぁ無事に目が覚めて良かった」
まだ視界がぼやけているのか、カオリは目を擦っていた。
だが、次にカオリの口からでた言葉の意味が俺にはわからなかった。
「……何で…………しょ、う……が、いる、の…………!?」
「……は?」
『……久しぶりだね、カオリ』