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リアルキルゲーム 〜白の呪い〜  作者: 沙乃
【中学三年】第二ステージ
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十五話目。

 息が出来ない。声もでない。震えが止まらない。

 それくらい怖い。


 ……けどそんな恐怖、全部殺してしまえばいい。



「ッ……はッ……あはは……簡単な、ことだ」


 今やるべきことを考えたら大分落ち着いた。

 黒い奴がその影のようなもので私を包む。



 そんな状況でも私の頭は冷静だ。

 ギュッと握っていた鉄パイプを離す。

 少し大きな音が廊下まで響いた。

 黒い奴は私に抵抗する気がなくなったと思いまた笑い出す。


 鏡にしか映らないソイツの正体なんてどうでもよかった。

 関係なかった。だって倒せばいいだけだから。


 鏡にしか映らないなら、鏡を壊せばいい。



「……ちょっと…………固いかなッ!!!!」



 ナイフを鏡に刺した。

 パリンッといい音がして鏡が割れる。

 もちろんナイフの刃はそのまま突き刺さりとれない。



「……?…………イヤアァアアッ……ア……ァ……!!!!!」


 狙いは外れたらしく、黒い奴の右肩に刺さっている。

 とっさに避けたんだろう。


 倒した、そう、思ったのに……。



「……ッ……?」



 右肩が痛い。

 私の右肩から、血が出ている。


 白い床が私の血で染められていく。



「何で……何でよ……!?」



 いつの間にやられた?奴は余裕で私を攻撃する素振りなんて見せてない、なら、いつ?

 左手で肩をおさえると手に血がべったりとついている。


 鏡を見ると先ほどの黒い影がいなくなって私が映っている。

 逃げたのかな……。



「……あっけなかった」



 一刺しで倒せる相手だなんて、弱すぎて気味が悪い。

 そんなことを考えながら落とした鉄パイプを拾い上げる。


 トイレを出ようとしてある違和感に気付いた。



「鏡の中の私が動いてない……」


 そう呟くと鏡の私がニヤリと笑った。



「気付クノ遅イヨ」



 話し方も、声も、表情も全部私なのに、その雰囲気は全く別人だ。

 それを見て気が付いた。

 幽霊の情報が少ないのも、トイレの幽霊と言われるのも、花子さんとは別物なのも全部、鏡に映った自分が敵だからだ。

 そうなると隣の男子トイレでリクも戦っているということになる。

 鏡を粉々に割ったところでコイツは倒せない。ただ相討ちになるだけだ。


 ……どうすれば…………どうすれば勝てる!?


 鏡を攻撃してもダメ、相手に攻撃されてもダメ。もう逃げるしかないじゃん!!



「…………無理、だよ」

「無理じゃない!!!何してるんだよバカ!」

「リク……!?」



 なぜか姿は見えないのにリクの声が聞こえる。

 リクは倒したってこと……?


「だって……、倒す方法なんて思い付かないよ!!」

「ソイツを殺したって自分は死なない!はやく戻ってこい!!このままだとお前はッ…………」



 そこでリクの言葉は途切れた。

 電話でいきなり切れてしまったかのような途切れ方だった。



「戻ってこいって……どーいうこと……」

「全く、リクは本当に余計なことを言うね」



 鏡の中の私はもう意思のないような話し方ではなかった。

 そしてゆっくり、鏡から出てくる。

 私が私を見つめる奇妙な状態になった。



「アンタ、何なの……リクの言葉を止めたのもアンタなの?」

「んー?見たまんまのことを受け入れられないのかな?

 ワタシはカオリ、西田香織。つまり貴女だよ。邪魔になるものは排除する。ワタシは私が欲しいだけ」


「私がカオリ!アンタは私じゃない……アンタはただの偽物でしょ!!」


「…………そうだね。確かにワタシは完全に貴女じゃない。

 だってワタシは貴女のトラウマの中にいるんだもん。今の私(・ ・ ・)とは(・ ・)違う(・ ・)



 もう一人の私は悲しそうに笑った。

 そのヘタクソな笑い方を見て、私は封じ込んだ記憶を思い出す。


 嫌な気分だ。


 今の私は、もうあんなことこりごりなんだ。

 上手くやってきたのに、今さら思い出したくもない。


 私の嫌そうな顔を見てもう一人の私は笑った。私が嫌なことをするのが楽しいのか。



「こうすればもっと、思い出せるかな?」




 鏡に刺さっているナイフを外してセミロングよりも少し長めの髪を一気に切る。

 出来上がったショートカット。過去の私の姿だ。

 本当にやめてほしい。



「もう、思い出したくないッ!!!やめてよ、私は変わったんだ!!」



 つい叫んでしまった。

 トラウマがフラッシュバックするから、目をギュッと瞑って止まらない頭痛を我慢する。

 嫌な記憶はほんの少しでも思い出すと引っ込むまで時間がかかるのはわかってた。だからずっと思い出さないようにしていた。



「あははっ、やっぱり私はワタシだよ。弱いなぁ。

 わざわざ強いふりなんてしなくていいんだよ?そんなの辛いだけでしょ。強いふりなんてしたら誰も助けてくれないよ?」



 言葉が心に刺さる。

 目が熱くなって、涙がこぼれた。

 嗚咽が止まらない。過呼吸ぎみになり、息が苦しい。



「うる、さいっ……もう、嫌なのっ……!」

「ワタシが助けてあげる。ワタシが一番私を知ってる。あの時の辛かった想いも、ワタシが一番、わかってるから」



 もう一人の私がゆっくり私を抱き締める。体温はない。

 でもなんだか安心する。私は敵であるワタシを拒否しなかった。

 拒否出来なかった。















 その安心に包まれながら、私は目を閉じた……。

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