十四話目。
私達五人は二人と三人に別れて行動することになった。
私とリク、ミカとDBとレイナ、それぞれ七不思議のある場所へと向かうことにしたのだ。
レイナからの情報によると七不思議には難易度があるらしい。
だがどれも低いらしく、二回目である私達なら少人数でもクリアが可能かもしれないという。かもしれない、だけ。
教室内で何か使えるものはないかと出る前に探索したところなぜかそれぞれの机の中には黒い端末があった。
学校内の地図、GPS、電話機能という3つしか使えない端末だ。
これじゃまるでホラーゲームにフルダイブしているようにしか思えない、と考えたところで今の自分達がまさにそうだと現実を受け止めた。
「…………ミカそっちは、どう?」
『今のところ何もない……けど、夜の学校ってやっぱり雰囲気が独特……』
「何を言っても朝はこないからねぇ……。
とにかく、何かあったらすぐ連絡して」
『…………ねぇ、今思ったんだけど何かあったとしてすぐ連絡できると思う?』
「……そういえば無理だね」
頭も冷静になってきて何をすべきかがわかったら行動は早かった。人数がすくないせいか話がまとまるのも早いし、何より動きやすい。
足音と話し声が響く暗い廊下は普段の何倍も長く感じた。
所々にある非常灯は気味が悪く点滅を繰り返す。
入れる教室は限られていて、廊下で敵とあったら逃げられなさそうだ。
鍵が掛かっている、というよりはドアが重いような感じ。
正面突破を常に考えなければならないだろう。
『……まぁこまめに連絡とればいいよ。
生きてるか死んでるかはGPSでわかるみたいだし。絶対に死なないでほしいけど』
「死なないよ。
とにかくそっちはまかせるから、頑張ろうね。お互いに」
『もちろん』
充電がなくなるかもしれない、と言って通話を終了した。
私の少し後ろを警戒しながら歩くリクはやはり足を引きずってあるいている。
応急措置の包帯もじわじわと血が滲んでいて、歩くのが辛いんじゃないかと思う。
しかし今の状況を考えるとリクが動いてくれないと戦力的にキツイ。
申し訳なさを感じながら歩くスピードを落とした。
「……ケガ、どう?」
「んー、大分良くなった気がする。
というか、痛みになれたな」
「あまり無理はしないでほしいよ」
「無理はもともとできねーよ。
俺さ、アニメとか漫画とか、主人公がケガして血とかいっぱいだして……でも死ぬ寸前まで戦ってるのカッコいいと思ってたんだ」
「…………バカじゃん」
「だよな。
でも体験したら本当に痛くて、痛みだけで死にそうで、すっげー怖かった。そう考えると2次元の主人公って化け物だよな」
確かに、と納得した。
見てるこっちが目を塞ぎたくなるようなケガも、2次元の主人公は辛そうな顔をしただけでそのあとラスボスさえも倒しちゃう。
それがカッコいいと、私も思ったことがある。
でも現実は違う。
一回目の時、目の前で人が死んでいくのをただ見ていた。
震えて、見ていた。
血とか見ただけで吐きそうになったし、声もでなかった。
本当の恐怖は、画面の向こうとは違う。
「…………俺のケガはまぁいいとして、お前のケガは大丈夫なのかよ?」
「え?……あぁ、右腕のこと?」
「それ意外もケガしてんのかよ」
「いや、大したケガはしてないけど……。
…………腕はもう大丈夫かな。痛くないし、多分右腕を使って戦えると思う」
「ならいーけど」
私達が向かっているのは「トイレの幽霊」が噂の三階のトイレだ。
花子さんとかよく言われてるけどそれとはまた別ものらしい。
というか、幽霊について全くと言っていいほど手掛かりなし。
本当に七不思議なのかも不安になる。
トイレの前は異常に暗かった。
「えーっと……リク一人で男子トイレ行ける?」
「行けるに決まってんだろ!
お前もさっさと女子トイレ行けっ!!」
なんか怒られたし……。
トイレに入ると空気が重くなった気がした。
これは当たりかな……。
鉄パイプを握りなおして個室を睨む。
心臓の音だけが私の頭に響きつ続けて不安になっていく。
私一人で大丈夫なのか、死ぬかもしれない、そんな考えが頭に過ぎる。
「な、なに怖がってるんだろ……今までだってこんな状況だったのに。
いまさら……」
怖いだなんて、おかしい。
「落ち着こう……」
個室を睨むのを止めて水道の方を見る。
蛇口を捻ると水が出てきた。
電気はつかなくても水は出るようだ。
水に触れると何となく、安心した。多分、生きてるって感じがするからだ。
ふと目の前の鏡を見る。
自分の余裕のない表情が映っている。
「……何この顔。ひどい」
体調が悪いようなそんな顔だ。
肌色の綺麗さは全くないし、むしろ真っ青になっている。
そうして眺めているとある異変に気付いた。
なにか、いる……。
直感だがそう思った。
鏡越しにトイレ全体を見る。
すると何か黒い人のようなものがゆっくり、動いていた。
「……やっぱり、当たりか」
勢いよく振り返る。
だがその黒い人のようなものはいない。
「!?…………何で……確かにいたはず……」
そういえば直接みたわけじゃない。
鏡越しにあの姿を見た。
目の錯覚?
いや、そんなことは……ないとも言い切れない。
……もう一度、鏡を見た。
「ッ!?」
ソイツは鏡にいた。
映っていた。
……でもなぜか鏡にしか映っていない。
「……ズット、マッテタヨ」
ソイツは私の後ろで、大きな口で笑いながらそう言った。