十三話目。
「DB……あのさ、前みたいに一緒に戦えないかな?」
敵だといったDBにそんな質問を問いかける。
まだ、仲間として接していたいのだ。
このゲームが終わって消えてしまってもそれまでは仲間でありたいという希望を私は持っていた。
「……は?当たり前だろ。俺は雪村彩夏を倒したいし、そもそもお前らを殺そうとも思ってない」
「え?だってさっきリクに銃を……」
「なに言ってるんだよカオリ。
確かに俺は銃を向けられたけど、あの銃もうとっくに弾切れだったぞ?」
DBに渡された銃の弾を確認すると確かに弾が入っていなかった。
それをわかっていたからリクは撃たれそうになっても落ち着いていたのかと納得する。
「だったら何で私達の敵だって嘘をついたの!?」
「……敵の敵は味方、敵を騙すにはまず味方から。俺はただ、雪村彩夏を倒すためにこのゲームをクリアしようと思ってる。だからお前らと行動していただけだ。まぁ今となってはお前らは俺の大切な仲間だけどな」
意味が分からない……。
慌てていたのは私だけ?
疑ったのも私だけってことじゃん。馬鹿みたいだ、いや、馬鹿だ。
「頭を抱えてないで次のことを考えなきゃでしょ、カオリ」
「う、うん……。
まぁそうなんだけど、次って?」
「次は次。
つまりは、七不思議を倒しに行くってこと」
残る七不思議は六つ。
そのうち一つは霊奈だ。
六つの内一つはわかっていても他が全くわからない。
敵を知らずに戦いに行くなんて自殺行為そのものだ。
そう思ってまた皆と相談しようと振り向く。
だが私の視界に映った皆は未だに止まっていた。
「…え……?」
絶対に止まれない姿勢で止まっている。
触ってみると石のように…いや、それ以上かもしれない硬さだ。
雪村彩夏は、きっとこのステージを私達だけでプレイさせる気なんだ、そう察するのが遅すぎた。クラスメイトが所持していた武器は使えなくなってしまっている。
これでどうクリアしろと……!?
無理ゲーだし、クソゲーじゃないか!!
弾の無い銃は使えない。そんなの当たり前だ。
私のナイフの切れ味だってもう限界に近い。頼れるのは、ヒロトの鉄パイプだけ。
しかもたったこれだけの人数でクリア出来るはずがないのは主催者である彩夏が一番よく知っているはずだ。
私達を殺す目的なら、わざわざこのゲームを開くはずがない。
そう考えるとこのステージでは戦闘は必要ない……かもしれない、という結論になる。あくまで予想、必ずとか、絶対とか、そんなのは言えない。
もしかしたらただ私達を殺したいだけなのかもしれないし。
全部が全部、可能性。
まずは冷静にならないと。
「マズいかもね……少人数でのクリア方法なんて知らないよ?」
「今まではただ戦ってただけだもんな」
「頭を使うのかも。最初のミッションは皆の石化を解くこと、みたいな」
石化……。
その言葉がヒントなのかな。
でもそんなにこのゲームが優しいわけがない。
「私達の知識じゃ足りないよ。
危険かもしれないけど図書室に行こう」
「図書室は資料室の近くですよ、カオリさん」
落ち着いた声色で話に入ってくるレイナ。
その瞳を暗くしながらうつむいた。
「資料室は七不思議の一つです。
すみません皆さん、正直私はあなた方だけでのゲームクリアは不可能だと思います。
リタイア、していただけませんか」
「リタイアなんてあるの!?」
「はい。ですが、あなた方のこのゲームに関する記憶は失われ、止まった方々はもちろん、死んだ方は戻りません。それどころか、リタイアする代償としてあなた方の寿命は極端に縮みます。無事現実に戻ったとしても、最低一週間、最高一年といったところでしょうか、その程度しか生きられないのです」
「私達に、それをしろと!?」
「……はい」
「そんなの、無理に決まってるじゃない!!」
ミカと私はレイナにむかって叫んだ。
このゲームは最悪だ。
結局はクリアしなければならないということだろう。その結末しか選択出来ないようになっている。
「では、どうすると言うのですか?」
「そんなの決まってる。
ゲームをクリアするの」
「てか、それしかないでしょ」
「この少人数で何が出来るんですか!
無駄死にする気ですか!?」
今度はレイナが叫んだ。
レイナは私達に死んで欲しくないんだろう。それは単純に嬉しい。
でもそれじゃダメなんだ。皆を助けなきゃ。
ハッピーエンドで終わらせてヒロトを生き返らせるんだ。
私はその目的を果たすために諦めたくない。
諦めちゃいけない。
皆無事に現実へ帰るんだ。皆で卒業したい。
誰一人欠けちゃいけないから。
「……なんでもできるよ、だって私達…………」
「「「「信じあってる、仲間だから」」」」
DBを含めた私達四人が揃ってそう言うとレイナは驚いた顔をして反論を止めた。
「もう止めませんよ。
……止めませんから、絶対にクリアして下さい。
私も出来る限りサポートします」
レイナの顔にはもう迷いはなかった。
吹っ切れたんだろう。
「ありがとう。
それじゃあ行こうか、四人とも」
リクが立ち上がって教室のドアの前に立つ。
私達は静かにその言葉に頷き一歩を踏み出した。
安全地帯から出ても何にも怖くなかった。
自分を高く評価しているわけじゃない。
……ただ、この五人なら大丈夫な気がするんだ。