第3図書館にて
第3図書館に着くと、ぽつぽつと雨が降りだしてきた。
私たちは慌てて第3図書館の入り口の扉を開け、中に駆け込んだ。
「なんか、暗い……ね」
明海は雨粒を鞄から取り出したハンカチで拭きながら呟くと、私に寄り添ってきた。
年季を感じさせる木造の廊下を蛍光灯の明かりがうっすらと照らしており、私たちは寄り添いあいながら廊下を進んでいく。
少し歩くと重厚な作りの木造の扉が現れ、私たちはゆっくり扉を開けて中には入った。
(なんか……懐かしい香りが……)
収蔵されている本の古臭くも懐かしい香りに包まれた薄暗い空間にところ狭しと棚が並んでおり、その棚にもびっしりと専門書が詰め込まれている。
通路にも本が積んであるため、私たちはそれらを避けながら、部屋の奥にある読書スペースに向かった。
読書スペースに着くと、窓際の椅子に男性が一人、こちらに背を向けて座っていた。
「あっ、いたいた!れいんー!」
明海が男性を呼びながら歩み寄ると、男性は机に本を置き、座ったまま振り返った。
その顔を見て、私はあの雨の日に傘を貸してくれた男性だと確信した。
確か、あのときも彼は本を抱えていた。
「柴山さん、『れいん』じゃなくて『れおん』です」
彼はため息まじりにそういうと私に気づいたのか、軽く一礼した。
私もつられて一礼すると、二人に歩み寄り、鞄から傘を取り出した。
「あの、これ、ありがとうございました」
差し出された傘をしばし凝視し、彼は思い出したように小さく息をはくと、首を横にふった。
「いえいえ、良かったらお使いください。今日も雨ですし」
彼は窓を見て、私にそういうと微笑んだ。
確かに急遽、傘を返すことになったため、代わりの傘を持ってきてはいないし、明海の傘には二人は入れない。
「それに……傘はありますから」
彼はそう言い、机の上に置いた鞄から折り畳み傘を取り出して、私たちに見せた。
それは私に貸してくれた傘……ではなく、明海が持っている傘とお揃いだった。