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26.悪友と秘蔵写真と

「ミウ、さっきの授業よくわかんなかったんだ。ノートかしてくれないか?」


 ある日、最後の授業が終わった直後のこと、例によってノブの隣の席に座っていた私は、同級生に声をかけられた。


 テツジ・ラダーニ君。同級生の中で、本当に数少ないノブのお友達だ。


 赤毛にそばかす顔のテツジ君は、ちょっとやせ気味でひ弱そうな平民の男の子だ。しかし、その外見ににあわず、彼の実家は、……本人はあまり言いたがらないけど、王都のスラムや暗黒街を仕切るマフィアのボスなんだよね。


 暗黒街のボスの跡取り息子であるテツジ君は、半端な貴族よりもはるかにお金持ちだ。身につけている品は貴族に劣らず高級品ばかり。学校から外出するときは、四六時中強面の護衛にガードを固められている。本人はとっても気のいい男の子なんだけどね。


「そんなに意外そうな顔するなよ。僕が勉強するのが不思議かい?」


 うん。


 素直に頷く私とノブ。やれやれとばかりに、両手を肩の高さでおおげさに広げるテツジ君。わざとらしく声をひそめる。


「たしかに我が家の家業はロクでもないけど、閉塞した貴族制の底辺で食うや食わずの生活をしている貧しい平民達の立場を代弁するためには必要悪の一種だと思うんだ。うぬぼれかもしれないけどね。だからこそ、僕は貴族にも平民にも舐められない立派な人間にならなきゃならないのさ。なのに、……こと勉強に関しては同室のノブはまったくあてならないんだよ。困ったことにね」


 「なんだと「いいよ。貸してあげる」」


 立ち上がりかけたノブを制して、私はカバンをあける。中で控えている触手がノートを手渡し(?)てくれる。





 なぜ私がテツジ君の実家のことまで知っているかというと、彼もノブと同じで、私の作った物語の主要登場人物のひとりだからだ。……思い出したのは、こないだ自己紹介してくれた後だったけどね。


 たぶん数年後、異世界から召喚されたヒロインと同級生になるテツジ君は、例によってヒロインの逆ハーレム要員のひとりとなる。で、ノブや殿下のような直球ヒーローの男の子とはちがう、ギャグ担当だけど女の子に優しくて、ついでにお金もあるし世の中の闇の部分もよーく知っているという、ちょっと変化球の魅力でヒロインをどきどきさせてしまう男の子なのだ。


 顔をみても私が彼の事を思い出せなかったのは、一巻の時点では挿絵になっていないから。まだ容姿についてあまり詳しく設定していないから。


 そーかー、テツジ君って、こーゆー可愛い顔していたんだなぁ。こうして自分が作ったキャラクターが三次元で動いてしゃべっている姿に実際に出会ってみると、まるで生き別れの我が子にであうようで嬉しいよ、お姉さんは。


 ちなみに、テツジ君はノブと同じで基本的に貴族を嫌っているし、貴族達もあまり彼とは関わろうとしない。しかも寮ではルームメイト。ゆえに、自然とノブとテツジ君はいっしょにいる時間が長くなるのだ。そりゃあもう、姉の私が嫉妬してしまうくらいだ。





「ミウ、ノートのお礼と言ってはなんだけど、いいものをあげよう」


 テツジ君が意味ありげに微笑みながら、私に封筒を手渡してくれた。


「もともとはノブに頼まれたものなんだけど、君に先にみせてあげるよ。十分堪能したあとで、ノブに渡してくれたまえ」


 ノブが好きなもの? いったい何が入ってるんだろうね。


「ちょっ、テツジ、アホ、なにやってるんだよ。ミウにだけは見せないでくれ!」


 このふたり、たまに私に内緒で、なにやら密談しているだよなぁ。こそこそと、いったい何をやってるんだか……。なんとなく想像はつくんだけどね。


「ん? 男同士なんだから、そんなに気にすることないだろ?」


「気にするんだよ。だめだ! ミウ見るな!! 頼む、見ないでくれ!!!」


 私から封筒を取り上げようとするノブ。しかし、ノブが私に対してその馬鹿力を本気でふるえるはずがない。全身でガードしながら中身を取り出す私。


「 ……前から不思議だったんだけどさ、君、なんでミウの前だとそんなに良い子ぶってるんだ?」


「お、お、俺はいい子ぶってなんかいないぞ」


「良い子ぶってるじゃないか。僕は、君が是非とも欲しいと言うから、親父の店から苦労してこの魔法絵画を手に入れてやったんだぞ」


 魔法絵画というと、風景や人物を魔法で紙に写し取ったもの。そして、テツジ君の実家のお店というと、良い子は決して関わってはいけない大人専用のあれこれや、倫理的に絶対に許されない非合法の品を扱うお店ばかりという噂だし、……いったいどんな絵画なんだか。


「い、いや、それは感謝している。でも、……ミウの前で言うなって言っただろ」


 声をひそめるノブ。無駄だよ。全部聞こえているよ。


「変な奴だな。ミウとおまえは兄弟だろ。ミウだって見たいよな? おっぱいの大きな女の子の……」


「わーわーわー」


 ノブが大声をだす。かまわずに、私は封筒をあける。ちらりと見えただけで、肌色が多い写真だという事だけはわかる。


 はぁ。なるほどね。まぁ、男の子なんだから仕方ない。……私は女性といっても、もともとあちらの世界では成人していた大学生。精神年齢は君たちよりもだいぶんお姉さんなんだから、別にその程度で動揺なんてしないのにね。


「見るなぁぁぁぁぁぁ」


 ノブの絶叫を無視して、私はテツジ君がくれた魔法写真を眺める。


 どれどれ。ノブの好みの女の子とやらは、どれくらい大きな胸をしているの、か、……な、ああああああ??





 うわぁぁぁっぁ!


 今度は私の絶叫である。おもわず声を上げてしまった。とっさに目をそらし、目の前のいかがわしい魔法絵画をテツジ君につきかえす。


 こ、こ、こ、こ、こ、こ、これは、……こ、こんなものを、お前達は見て喜んでいるのかぁ!


 油断した。しょせん中学生相当の男の子が見て喜ぶものだから、せいぜい水着の女の子が危ないポーズを取っている程度だと思い込んでいた。


 し、し、しかし、そこに映っているのは全裸の女性。しかも仰向けになった蛙のような格好をして男の人と○×▲□……。


 こっちでは、ま、ま、ま、跨がってる。……立ったまま後ろから? あああああ、く、口? むむ胸だけでなく、○×◎●↑↑↓↓←→←→……。


 これ以上の細かい描写をしてしまうとこの作品が十八禁になってしまうのでとても言えないが、……ていうか、この『絵画』の内容は、私の知ってる語彙ではとても表現しきれるものではない!


 い、いや、おちつけ自分。私だってわかってる。男女があんな事をするのは、当然のこと、……で、で、でも、この世界は私の作った世界、女性向けのライトなファンタジー世界だったはずなのに、私の知識を越えたあんなことやこんなことを、人々がやっているなんて!


 ……ああ、そうだよ、その通りだよ。私は何も知らないんだよ。あちらの世界で大学生をやっていたときから、私は男の人とこんなことやったことないんだよ。文句あるかよ。






「あああああんた達、ガキのくせに、こ、こ、こ、こんなものを……」


 私の顔は今、確実に真っ赤になっている。頭から湯気がでているかもしれない。


「ミウ。誤解だ。誤解なんだ。俺はこんなものが欲しいとは頼んではいない、テツジが勝手にもってきたものなんだ! 信じてくれぇぇぇ!」


「あ! おまえ、ひとりだけ良い子ぶりやがって。……それにしても、ミウってノブの兄貴のくせにずいぶんウブなんだな。こんなもの見ただけで真っ赤になってるじゃん」


「わ、わ、わ、私は先に寮に帰るから、……じゃあ、あとはふたりでごゆっくり」


 おもわず二人の前から駆け出してしまった。


「ミウ、ミウ、まってくれ、誤解だ、誤解なんだよぉ」


「しかたない、ふたりで見ようぜノブ。まだまだたくさんあるんだぜ。ほら、魔法動画もあるぞ!」




 姉としては、弟に友達ができたことを喜ぶべきなんだろう。でも、でも、しばらくはノブの顔をまともに見られそうにないよ。




 

 

2015.05.02 初出

 


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