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17.王家と冒険者と誇りをかけた約束と



「ご主人はいらっしゃいますか?」


 いつものごとく、真っ昼間からお店の奥でお父さんとノブと私、そしてウリセスさんでおバカな話で盛り上がっているところに、冷やかしじゃないお客様が来た。


 お店の前、それほど大きくはないが造りは豪華な馬車がとまる。中から出てきたのは、小綺麗で誠実そうなおヒゲのおじさまだ。貴族? というよりも、どこかの有力貴族の執事さん?


「はーい。少々おまちください」


 そんな背筋が伸びたヒゲのおじさまが、お店の玄関前で対応した私の顔を凝視している。


「あなたが、ミウ・イーシャ様ですかな?」


 え? え、ええ。そうですけど。


 おじさまの視線が、私の頭のてっぺんからつま先まで、ゆっくりと時間をかけて移動する。決してイヤらしい視線じゃなくて、ギリギリ失礼には当たらない感じだけど、ちょっと引いてしまうなぁ。これは、なんというか、……まるで品定めするような視線?


「ああ、あんた、えーと、たしか王様の侍従長さん、だっけ? なんか商品を探しているのなら、王宮まで届けるてやるぜ」


 お父さんが、面倒くさそうに声をかける。


 えええ? 王様の侍従長さんって、とんでもなく偉い人なのでは? お父さん、知り合いなの?


「あいかわらずですな、タケシ・イーシャ殿。おお、ウリセス殿もごいっしょでしたか。本日は陛下の代理として参りました」


 よほど大事なお話なのか、それとも私やノブに聞かせたくない話なのか、とにかくお父さんとおじさまは内緒話をするためお店を出て家の方にはいって行った。当然のようにウリセスさんもついていく。


「ウリセス、なんでお前がついてくるんだよ」


「あら、私も家族みたいなものじゃない。なんとなく想像つくけど、どうせミウちゃんやノブ君に関わる話なんでしょ? 私はあの二人のお母さん代わり枠ということで、いいじゃない」


 ……家の中、散らかってるなぁ。失礼にあたらないかなぁ。それよりも、いったい何の話なんだろ?







「見合いだと? 遠慮しとくよ。俺はまだ死んだ妻を忘れられないからな」


「あなたなら後添えを捜すのもわけないでしょうに、もったいない。……しかし本日のお話はタケシ殿にではありません。イーシャ家のご長男です」


「そりゃそうか。……じゃなくて、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ、いくつか見合いの話がきているのは確かだが、あいつはまだ十二歳だぞ。半人前だ。しかも、さっきあんたは王様の代理としてきたと言ってなかったか?」


「正式なご婚姻は、成人としてみとめられる十五歳になってからになりましょう。しかし、両家の絆を国内外に示すため、幼い頃から婚姻の約束を交わすのは貴族の間では珍しいことではありません。他家からもお話が来ているのなら、なおさら早く決めねばならぬでしょう。まさか、陛下直々のお話よりも他家を優先させるなどということはありますまいな」


「いや、しかし、わがイーシャ家は由緒正しい平民だ。そもそも、見合いの相手は誰だって? まさか王家の……」


「もちろん、代々王家に侍従としてお勤めしている私が直々に参ったのですから、王家に関わるお話にきまっております。陛下の内孫であらせるイヴァン・サドーレ様です」


「まってくれ! イヴァンちゃん、じゃなくてイヴァン姫殿下って、……一介の商人の家が、さすがに王家の姫様を嫁にもらうわけにはいかんだろうよ」


「何をおっしゃります。イーシャ殿といえば、かつて王国を救った四英雄のひとりではありませんか。しかも、イヴァン様の御尊母は、やはり四英雄のヤンツ・ロビール殿の御息女にあたります。イヴァン様は勇者の血を引いておられるのですから、イーシャ殿の家に嫁いでもなにも不思議はありません」


「確かに、勇者ヤンツの野郎の孫ならば、俺と縁がないこともないが。……いや、いや、いや、しかし、こーゆーことは本人の気持ちが」


「タケシ・イーシャ殿。お忘れか? あなたがた四英雄がドラゴンの魔王を倒し、王都に凱旋した際。陛下が褒美に姫と爵位を授けようとしたのを、こともあろうにあなたは断った」


「あー、そういうこともあったかな。俺は貴族になんてなりたくなかったし、心に決めた女性がいたんだよ」


「陛下により直接下賜される褒美を断る者など、大貴族を含めても王国の歴史上あなたとウリセス殿だけ、空前にして絶後でしょうな。ともかく、その時、貴殿は陛下にこうおっしゃったはず。代わりと言ってはなんだが、自分の長男か長女は王家と結婚させてやる、と」


「あー、あー、あー、そういえば、そんな事を言った、……かなぁ?」


「うんうん、確かに言った。私もその場で聞いていた」


「あ、ウリセス、おまえ裏切るのか? あの時は、まさか俺とあいつの間に子ができるとは思ってなかったしなぁ……」


「陛下はお約束をお忘れになってはおりません。七年前、王都に戻ってきた貴殿に男子がいることを知った陛下は、大層お喜びになられた。もちろん、イヴァン様ご本人も……」


「あー、たのむ、ちょっと待ってくれ。じゃ、じゃ、じゃあ、そうだな、あいつはまだ冒険者の見習いだ。嫁をもらう余裕などない。冒険者として一人前になってから、本人の気持ちを確かめて、それから改めて話をすすめるということで、どうだ?」


「冒険者見習い? あなたのご長男は冒険者登録などしていないでしょ?」





 な、……に?


「……誰の話をしているんだ?」


 まさか……。


「もちろん、貴殿のご長子ミウ・イーシャ様です」


 隣で話を聞いているウリセスがお茶を噴き出した。


「ええええっ? あ、ああ、ああああああ、そうか。そうだな。俺の『ご長子』はミウだ。そういうことになっていたな、世間的には」


「陛下直々のご意向であるにもかかわらず、有力貴族の多くはイヴァン様が平民に嫁ぐことに強硬に反対しております。このまま議論をつづけても宮中が混乱するばかり、ゆえに妥協案として貴殿には爵位が授けられることになりましょう。形式上のものですが、今回はうけていただきますよ。一方、ここ数年陛下のご健康はすぐれません。ですから、陛下はできるだけ早くお話をまとめることをお望みです。よろしいですな」


「そ、そうか。……だ、だ、だ、だが、ミウはまだ学生だ。半人前だ。ちょっと男らしさが足りなくて女々しいところもあるしな。考える時間をくれ。せめて、せめて、せめて高等部を卒業するまでまってくれ。たのむから」


「……よもや陛下とのお約束を違えることはありますまいな。あのとき貴殿はこうもおっしゃった。『冒険者としての誇りをかけて、誓ってやる』と。あなただけではない、王国すべての冒険者の誇りにかけて、約束は守っていただきますぞ」


 慌てふためきパニックになっている俺を尻目に、ウリセスがひとつため息をつく。


「もう、タケシって本当にバカよね。何事もその場のノリだけでやり過ごそうとするからこうなるのよ。あの王様ちょっと変わってるし、自分が子どものころ冒険者にあこがれてたとか言ってたし、たぶん本気でイヴァンちゃんをミウちゃんの嫁にするつもりよ。……どうするのよ、タケシ」


「……どうしよう?」




 

 

2015.04.04 初出



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