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13.ロリエルフ魔法使いと伝説の武闘家と その1



 とある休日の朝のこと。


 さて、開店だ。学校が休みの日くらい、お店番のお手伝いでもしようかね。


 まずはお店の正面の扉をひらく。窓をあけ、風を通す。

 

 うちのお店には、聖なる武器もある。呪いの防具もある。王宮の宝物倉にあるのと同じ、超高価なレアアイテムも沢山ある。あやしいげな雰囲気は隠しようがないが、乱雑に並べられた膨大な数の魔法道具から漂うカビの匂いは、嫌いじゃない。


 簡単な掃除が終わった頃、あくびをかみ殺しながらお父さんが店に来た。同時に、ぼちぼちとお客さんが来店しはじめる。


 うちのお店の商品のメインは、魔法がかかった小物だ。戦闘用の物が多いが、火炎魔法火鉢とか冷凍魔法の冷蔵庫とか、庶民の生活に密着したものも少なくない。ほとんどは、お父さんがむかし冒険者をやっていたときに手に入れたものらしい。店頭に並べきれなくて、今でもインベントリの中にしまわれたままの商品もたくさんある。店が軌道に乗ってからは、ギルドからの紹介でアイテムを売りに来る冒険者も増えてきた。お客さんは、ほとんどが冒険者や騎士様。ちょっと裕福な平民も多いかな。


 お店に出た時の私の役目は、基本的に商品とお金の管理、帳簿つけや各種の書類書きだ。そして、お父さんが店をはずしている時は、お客さんからの問い合わせ対応もやったりする。


「ミウ、昼までには帰ってくるから、店番頼むよ」


「はーい」


 例によって、お父さんがお貴族様のお屋敷へのお届け物と御用伺いに出かけていった。


 最近お父さんが御用伺いにでかける頻度もふえたし、平日の昼間は私はお店を手伝えないし、一人くらいバイトを雇ってもいいんじゃないかなぁ。……なんてボーッと考えていたら、ちょっと変わったお客さんが来た。





「おはよう、ミウちゃん。タケシは?」


「おはようございます、ウリセスさん。お父さんはちょっとお使いにいっちゃった」


 『タケシ』というのは、お父さんのことだ。お父さんを名前で呼ぶこのお客さんは、ウリセスさん。ウリセスさんは、数ヶ月に一回づつふらりとお店にやってきて、いろいろ妖しいアイテムを売りつけて去って行く、あやしいお姉さんだ。


 身長は私とおなじくらい。銀の瞳に銀の髪、見た目は十代半ばの超美少女。さらさらの絹糸のような髪から覗く耳は尖っている。いわゆるエルフという人種だ。


 服装は、いつもタブタブの黒いローブにとんがり帽子、身長よりも長い杖をもっている。お父さんの昔の仲間で、その服装から想像できるとおり強面の大魔法使い。……らしいのだけど、そのガラス細工のような繊細で美しい顔だけみていれば、とてもそうは見えない。っていうか、お父さんの『昔の仲間』って、いったいこの人は何歳なんだろう?


「もう、タケシは相変わらずフラフラと落ちつきがないわねぇ。……ミウちゃんひとり? ノブ君は?」


「ノブは冒険者ギルドに行ってますよ」


「だめよぉ。ミウちゃんみたいな可愛い女の子がひとりでいちゃ。あぶないでしょ。いつもボディガードのノブ君といっしょにいなさい」


 はぁ……。ウリセスさん、何度もうちに来た事あるけど、突然なにをいいだすのかしら。


「まぁいいわ。誰も居ないのなら、ミウちゃんにお願いしたいことがあるの。いい?」


「はい。私にできることでしたら」






「入手した魔導具を買い取って欲しいのよ。私にも正体がわからない品もあるのだけど、勝手に適当な値をつけてかまわないわ」


「えっ、私がですか?」


「そう。どうせガラクタばかりだろうし。……まとめてこれくらいでどう?」


 鞄の中からガラクタアイテムの山を取りだしてテーブルの上にならべながら、ウリセスさんは指を三本だしてみせた。平均的な騎士様の半年分のお給料くらいかな?


 まぁ、ぱっと見そんなものだろう。それくらいなら、お父さんに相談しなくても、私の一存で買い取ってもいいや。


「一応、鑑定してみますね。お茶入れるので、腰掛けてお待ちください」




 さて。


 改めて、ウリセスさんの持ち込んだアイテムの山をながめる。ほとんどは一山いくらの小物ばかり。大物は汚い剣が何振りか、くらいか。


 確かに私は、この世界の仕組みやアイテムについて、少なくとも一般市民よりは知ってるかもしれない。なんせ、この世界の設定をつくったのは私なんだから。


 でも、知識は大きく偏っているんだよなぁ。ストーリーに登場した魔法や魔導具、ヒロインや取り巻きの男の子達がサキュバス退治のために利用した武器や防具ならばよーっく知っているんだけど、それ以外は全く知識がないのだ。


 まずは小物。こいつらは見るまでもない。


 目立つのは、ビンに入ってる低レベルのポーション。でもこれは、材料さえあれば魔法使いがいくらでも作れるし、もともとそれほど高価な物でもない。とはいっても、一般市民がそうそう買えるような物ではないけど。


 あとは、剣か。ちょっと小綺麗な剣は、装飾は綺麗だけど、刃はボロボロだ。研げばなんとかなるのかな? なんにしろ、魔法はかかっていないただの剣だから、たいした額にはならないだろう。


 それにしても、ウリセスさんってお父さんの昔の仲間なんだから、もっともっと高価で貴重なアイテムをたくさん持ってるだろうに。こんな一山いくらの安物アイテムをお金に換えて、どんな意味があるのだろう?


 ウリセスさんは、机に肘をつき、手の平の上に顎を乗っけて私の様子をじっと見ている。いつもながら、表情が読めない人だなぁ。エルフって、みんなこんな感じなのかなぁ。





 最後に残ったのは、細い剣。


 汚い鞘に細い刀身。日本刀みたいに、ちょっと反っている。


 あちっ!


 思わず手を引っ込めた。鞘から刀を抜こうとした瞬間、刀身が光ったのだ。それだけではない、刀身からでた光をあびた部分の肌が、焼けるように熱い。


 こ、これは……?


 もう一度、指先を近づける。だが、触れられない。近づくだけで凄まじい熱を感じる。刀の周囲の空間そのものが、まばゆい光の粒子でつつまれている。


 ぶるっ


 全身が震えた。反射的に椅子から立ち上がる。一歩、二歩、本能的に後ずさりしてしまう。


「ミウちゃん?」


 ウリセスさんが声をかけてくれる。が、……彼女の表情はまったく変わっていない。相変わらず冷たくて妖しげな視線をこちらに向けるだけだ。


「……ご、ごめんなさい。これ、私には鑑定できません」


「どうしたの?」


 刀が発する光の粒子がますます濃くなったような気がする。熱い。視線を向けることすらできない。


「ただ、……ただ、凄い剣だと言うことだけはわかります。お父さんが帰ってきたら、高い値をつけてくれると思います。だから、ごめんなさい。その剣を、……しまってください。私は触れないんです。お願いですから」


「えええ?」


 ウリセスさんが剣をとる。この人は、この剣から何も感じていないらしい。ゆっくりと鞘から刀身を引き抜く。眩しい光の奔流が空間に溢れる。その光の大部分が、私に向けて突き刺さる。


 くっ、


 耐えられない。私は、飛び跳ねるように後ろにさがる。剣が発する圧力で、息もできない。しかし、背中が壁にぶつかっている。これ以上さがれない。身体がうごかない。目を閉じ、光から顔をそむけ、その場にしゃがみ込む。全身がこまかく震えている。力がはいらない。


「ミウちゃん。この剣がなんなのか、わかるの?」


 わかる。わからいでか。これは、……『破邪の剣』だ。神官達が、サキュバスの隠れ里を襲ったときに使った剣だ。



 

 

2015.03.31 初出

 

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