馬鹿とガフ
「じゃ、今から簡単にこのオンラインゲー[head to tail]について説明するからちゃんと聞いとけよ」
「ほいほい、早くしろ」
学校から少し離れたところにある寮に帰宅し、俺の部屋で奴に解説してもらうことにする。
「まず、アカウント設定だな。ユーザー名とパスワードを登録してキャラクター作成をする。このキャラクターは…「説明めんどいからMikiで読むからいいや。重要なことだけ教えてくれ」…ハァ」
説明文、解説書も俺の好きな本の守備範囲内だ。男ヴォイスの解説なんかより文字を見たい。
「わかった。両棲類にはなるな」
「意味が分からんが、了解した」
このゲームの世界観は中世的で、剣と魔法のファンタジー世界らしい。ユーアフ大陸という大陸内で冒険する冒険者としてプレイヤーは生活していく。まずは始まりの街から始まるそうだ。なんというテンプレ。
種族はヒト種のヒューム、エルフ、ドワーフ。半漁人のサバサバ、アンコー。両棲種のカエエル。巨種のドラゴニウス、龍人の中から選択できるそうだ。ヒト種と巨種はまだ分かるが、サバサバ、アンコ―、カエエルって馬鹿にしているのだろうか。ネタ種族としては良さげだが。
初期スキル6つを選択し、キャラクターの容姿を調整する。目を黒くしたり、身長を現実に合わせたりといじくり回す。
このゲームでのお金はCoinで表され、単位はマネだ。初期は2500マネが支給されるらしい。
2時間程悩んで作成したキャラのカスタマイズ結果はこうなった。
<Name:ラビック>
種族:アンコ―
Sex:male
Age:17
Lv.1
Coin: 2500マネ
HP:150
MP:75
STR:5(10)
VIT:5(10)
INT:5(5)
DEX:8(8)
AGI:5(10)
LUC:10(10)
※()は水中内。
称号:---
スキル:<翻訳Lv.1>、<筆記Lv.1>、<速読Lv.1>、<記憶Lv.1>、<MP吸収Lv.1>、<MP回復Lv.1>、<>、<>、<>、<>、<>、<>、<>、<>、<>
装備:初心のベスト、初心のハーフパンツ、初心の靴、初心のペン、初心の杖、錆びかけたナイフ
ゲーム開始は明後日の土曜日、5月初めからだ。それまでは解説書を読んだり、β板の記事を読んだり、解説Miki読んだりして時間をつぶそう。
サービス開始が楽しみだ。
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解説:
種族:アンコ―
あんこうの顔をした人型の亜人。光る疑似餌は先を見通す道標となるか(?)
スキル:
<翻訳>
読めない言語が読めますように。
<筆記>
コピー機が無い。ならば書き写せばいいじゃない。
<速読>
時間が無くてもすぐ読める。時間の少ない貴方の味方です。
<記憶>
いつでもどこでもなんでも思い出せます。
<MP吸収>
大気中から魔力を貰っちゃえ。MP切れなんてありえない。
<MP回復>
ポーション飲むのメンドクサイ人にはこれをどうぞだお。
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―ガフ(隣の席の友人?)視点―
VRMMORPGである[head to tail]をβテスターとして体験した俺は、今までのVRMMOとは違い、ダンジョンの遺跡や街の所々に文字が多い。それらは攻略に関係あると噂されていたが、誰も翻訳スキルを取らずにモンスターを倒して経験値やマネを取ることに集中している。
そういう自分もギルドの仲間と基本戦闘しかこなしていない。
まあ、誰も翻訳スキルを取らないのには理由があるのだが。
ぶっちゃけると、翻訳スキルがあるからと言って読めるようになるわけではない。翻訳スキルを取ったものの街中や遺跡の文字が全く読めなかったとβ板に書き込まれた。
それ以降は翻訳スキルが存在しなかったかのように誰も彼もがスルーしはじめた。
実際、翻訳スキル無しでもβテストは順調に進んでいったので誰も気に留めなかったに違いない。
ただ、文字が大量に表れてその上翻訳スキルがあるとなると何かあるはずだ。
だけど俺はギルド仲間との攻略で時間が無い。ならば時間があって読みものが好きな奴を巻き込んでやればいい。
ということで隣の席の奴を巻き込むことにする。なんだかんだで仲もいいし、読み物があると言えば飛びつくはずだ。
本当に飛びついてくるとは思わなかったが。
キャラ設定を済ませ、サービス開始当日。
キャラネームを聞き出し、待ち合わせ場所に向かうとそこには一人の…一匹のアンコーがいた。
「お前は誰だ」
と聞いてしまった俺は悪くないと思う。
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解説:
Miki:
うぃきぺでいあ的なもの。
β板:
βテスト中の掲示板。