ひきこもり が ついほう されました
私は気が付きました。魚類の主人公が未だ泳いでいないことに。
そのうち干からびるんじゃないでしょうか。
干したアンコウって美味しいんですかね?
-めのまえに ひからびた じいさん が あらわれた-
ログインして図書館に入ると、ナレーションが頭のどこかに流れた気がした。
「お前さんは飽きもせず毎日毎日ここに来るのう」
「あ、はい…。……そうですね」
基本他人としゃべらないラビックは、突然しゃべりかけられるとどもってしまうのだった。
「いやなに、別に悪いとは言っておらんだが。少しくらい外に出てもよいのじゃぞ」
近所の爺さんのようににこやかに笑いながら話しかけてくる。
その笑顔が怖い。
「い、いや別に。私は好きなことができればいいんで」
「ほっほ。確かに好きなことができればいいの。しかし、その歳で外に出ないのいかんじゃろ」
爺、どうやって年齢不詳のアンコ―族の年齢がわかる。まさか相手のステータスがわかるスキルとか持っていやしないだろうな。いやしかし、ありそうで怖い。
「そう警戒するでない。一緒にかくれんぼをした仲ではないか」
「爺さん、今度は何の用だ。早く言って消えてくれ。俺は本を読むので忙しい」
どうだ。俺は本さえあれば、本さえあればそれでいいんだ。別に、ゴブリンになぶり殺しにされたから外に出たくないとかそんなことは一切ないんだ。
「それだ。たまには外にも出ないといかん。年長者として若者には少しぐらい教えるということをしなければいけないからの」
「いやいや爺さん、それは誇大妄想だって。別に爺さんは普通に爺さんしてればいいんだって。最近の若者はとか言い出したらただの嫌味な爺さんになっちまうからやめてくれ」
「いや気にするな。将来的に役に立つなら少しくらい嫌味な爺さんでよかろう。孤児院に子供の声がうるさいとか苦情を言うような爺さんにはならないから、このくらいでいいんじゃよ」
「えっと、だから何が言いたいんだ」
「儂はの、この大図書館の責任者じゃ。管理者じゃ。館長じゃ。いろいろと権限を持っている」
「ほうほう」
適当に相槌を打っておく。
「その権限ではな、ある特定の人物を出入り禁止にすることもできる」
「えっと、それはもしかして」
「いやなに、外で少し戦えばまた入れるようにしてやるからの」
「おいちょっとまて」
「新成ア・ポカリ・スウェット国王都大図書館館長ラ・ポカリ・プスが館長権限により、対象者ラビックを出入り禁止にする。期間は、対象者がレベルを25に上げるまでとする」
「出入り禁止だろ、ってことは今から出ることはできないよな。つまり一生此処で本を読み続ければいい訳だな」
「よく周りを見ろ。ここは図書館のロビーじゃ。読める本は一切ない。それに、主らはログアウトするんじゃろ。そのために宿に入らなければいけないんじゃろて。ほれ、はよ行け。権限使って強制退去させてもいいんじゃぞ」
いつの間にか爺が敵になっていた。敵を倒さなければ我が理想郷へと入ることは叶わない。しかし、敵を倒せば犯罪者として追われてしまう。
「くっ、仕方ないか」
-ひきこもり が ついほう されました-
「憶えてろよ爺さん。俺は必ず帰ってくる。必ずだからな」
「おう、待っておるよ」
にこやかに手を振りながら俺を図書館から追い出す悪魔は、見えなくなるまで笑っていた。怖い。
図書館から追放されたラビックは急いで常連になった裏通りにある一軒の本屋に向かう。本成分が足りない。
「何故だ」
本屋の入り口に張り紙が一枚。
〔アンコ―族 ラビックの入店禁止〕
「あの爺い、ここまで手を廻しやがったな」
癒しの空間を追われたラビックは、ギルドへと旅立つのであった。
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<補足>new
新成ア・ポカリ・スウェット国
head to tail online の中の王国。王は代々スウェット一族という王族が就く。新陳代謝がとても良く、夏になると脱水症状で倒れることがままあり。
古代ア・クエリ・アッス国の生き残りが主に住んでいるといわれる。
古代ア・クエリ・アッス国
スウェット一族の先祖とされるアッス一族が治めていた。明日を夢見ることが好きな一族で、常に未来を見た政治を行っていた。
なぜ滅んだかは未だ不明とされている。
ラ・ポカリ・プス
王都大図書館館長。ポカリの名が使われていること、またラという敬称が使われていることから、王族の一族の関係者か王族の一人と思われる。詳細は不明。
どこからどう見ても、白髪、白髭の近所の優しいお爺さん。
いよいよラビックも外に出る時が来るんでしょうかね。
今後の展開にご期待くださらないでください。