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~元魔王、修得~


「『────』」


ネルヴァは魔法を唱える。前方に突き出したネルヴァの掌から、弱々しい火が放射される。火はネルヴァの掌から離れ独立するが、30cmほど前に進むと、フッと掻き消えた。


「……違う、こうやる」


ネルヴァの隣に立つ少女が、先ほどネルヴァが唱えた呪文と同じ言葉を口にすると、前方に構えた少女の掌から、ネルヴァとは比較にならない程力強い炎球が飛び出した。


「む、無理かもしれない」


ネルヴァはポツリと呟く。辺りのスライムを一掃したところで、少女に魔法を教えてくれるように頼んだのだが、教えてもらったところで軽々扱えるものでは無い。


「『────』」


もう一度ネルヴァは火球の呪文を唱えた。だが、やはりネルヴァの掌から出たのは、弱々しい火だった。自分の魔法と少女の魔法が同じ物だとはとても思えない。


もう魔法の練習を始めてから数時間が経過しているが、無駄に魔力を消耗するだけで一向に魔法の技能が伸びる様子はなかった。


───もう、諦めよう。


ネルヴァが、そう口にしようとした時、


「……媒体があれば」


隣で少女が呟いた。ネルヴァが「はい?」と聞き返すと、少女はおもむろにネルヴァの持つ出刃包丁を指差した。


ネルヴァは少女の言動から意図を汲み取り、剣を魔法発動の際の媒体にしようと言いたいのだと理解する。


一般的に魔法とは、体から体外に出る魔力によってできている。魔力が体から出る際に、呪文等によって魔力に属性(火や雷など)を付加し、そこで初めて魔法と呼ばれるものになる。つまり、呪文が無ければただ魔力を外に放出するだけの攻撃になってしまう。ネルヴァは、属性付加の段階でつまづいているのだ。


「この剣を使って魔法を発動させるんですか……」


剣を中継して、体外に魔力を放出する。剣や杖などは、魔力に体の延長と捉えられ属性付加出来る時間が僅かに増えるとか、なんとか。


よく分からないが、取り敢えず剣を上段から振り下ろしながら火球の呪文を唱えた。振り下ろす必要はなかったかもしれないが、何となく魔法に勢いがつくかも、とか思いやってみた。結果、


何故か剣は炎を帯びて、さらにそれを勢いよく振り下ろしたおかげで炎は剣を離れ、三日月状の火球(?)となり前方に飛んでいった。


威力は、少女の火球を遥かに凌駕している。やがて三日月の火はネルヴァから20mほど離れた所でフッ、と消えた。


「……凄い」


ネルヴァの隣にいる少女が、呟いた。


正直、少女の驚愕とは裏腹に、ネルヴァはあまり驚かなかった。魔法は杖で発動させるものだと思っていたので、剣で発動させられる、と言われた時の方が驚いた程だ。まあ、球の型ででる炎が三日月型だったのはそれなりに驚いたが。


剣でやれば、出来るのは何となくわかった。その位、ネルヴァは剣に関しては天才的なのだ。


だが、魔法という攻撃手段を手に入れられたのは、素直に喜ばしいことだった。


少女は、驚愕から立ち直ったようで、


「……どう?」


と訊いてきた。イマイチ要領を得ないが、魔法の感想ということだろうとネルヴァは解釈し、答える。


「何というか……疲れました」


「そう」


…………。


………………。


会話が保たない雰囲気に、若干の気まずさを感じたネルヴァは、話題を模索した。そして、重要なことを思い付く。


───この女の子の名前は……?


数時間、この少女と共にいたのに名前すら知らなかった。そのことに、少女に対して若干の罪悪感を感じるが、まぁ向こうも訊いてこなかったしいいか、と思い直す。


取り敢えず名前だけでも名乗っておこう、とネルヴァは考え、言った。


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。僕はネルヴァ。ネルヴァ・ビューレンスです」


ネルヴァが言うと、少女は僅かに目を見開く。


───一体、どうしたのだろうか?


 わなわなと震わせていた唇を開き、少女は答えた。


「……私は、フィリア……です。名字は……ありません。……平民ですので。……先ほどからの無礼、どうかお許しください」


平民?物腰は貴族の様な振る舞いなのに、この子は平民なのだろうか。何かそこら辺は込み入った事情がありそうなので、触れないでおこうとネルヴァは思った。


「別に、いいですよ。いや、僕、貴族の三男ですからそこまで怯えなくても……」


少女の態度に、少し心に傷を負う。でも仕方ない、とネルヴァは思った。


貴族にとっては、平民の人権など無いに等しいのだ。それこそ、反抗したり態度が悪かったりするだけで首が飛ぶこともある。数十年前は、貴族でない者は人ではないとまで言い切った者もいた。それほど、貴族と平民の身分差は大きいのだ。


少女は、気にしていないと言われて安堵したようだった。


───それにしても、僕はそんなに貴族に見えないのかなぁ……


ネルヴァは心の中で落ち込んだ。



──日は、もうすぐ暮れそうだった。





……なんか貴族とかよく分からなかったので、かなり鬼畜になってしまった……


でも後悔はしていません。

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