無音コードの少年
ごく普通の家庭に生まれた俺。でも世間は一般的に〝ごく普通〟では無くなっていた。世界のほとんどの人が何かしらの〝コード〟を持つこの世界。
__コード。この世界における特殊能力の総称。生まれつきの才能ではなく、「人生の記録が形になったもの」がコードとして発症する。人の感情、経験、信念、後悔、執着などが一定以上積み重なると、その人だけのコードが発現する。普通は十歳前後に発現するが、実際年齢は関係ないと研究結果が出ている。年齢よりも、強い喪失や大きな達成、命の危機、長年の努力、消えない願いなどがきっかけになる。例えば「絶対に妹を守りたい」という強い念を持つと、《守護壁》、結界を作る能力が発動したという男子生徒が居た。もう一つ例を挙げよう。「誰にも本心を知られたくない」という強い願いを持つと、《仮面劇》、姿や声を偽装出来る能力が発動したという女子生徒が居た。__俺のクラスで。
「ええ?月詠くんってまだコード発動してないの?」
「嘘だろ〜〜、もうこのクラス…っつーか、この学校みんな発動してるっつーの。」
「うるせーなあ、いつか俺にも出てくるって。な?何だっけ、コード…か。」
ごく普通の家庭に生まれたが、ごく普通の体ではないらしい。ーーそれが俺、月詠イオ(つくよみ いお)なのである。柔らかな銀髪、ルビーのような紅い瞳。少し幼さが残る顔立ち…我ながら可愛い系の容姿だとは思う。ただ、身長が一六八cmで、一七〇cmないのが気に食わないわけで。ッあ〜〜、なんでもっと伸びてくれなかったんだ!俺だってもう十五だってのに…。
「俺はな!」
そう言って立ち上がる。勢いよく立ち上がる。
「俺はな、そういうコード?つーのが俺に発動しなくても、俺は俺だから気にしねーんだよ。…この考え方かっこよくね?」
俺なりの渾身の格好いい台詞だと思うんだけど、どう?そう見渡すと、馬鹿だろ、と馬鹿にされて終わった。中々に格好良かったと思うんだけどな〜〜。
「格好付けるのもいいが、月詠!進路調査表を提出しろ!」
「あでっ。」
後ろから担任の先生に頭を叩かれる。そういや進路調査表出てなかったな。
「でも行きたい高校なんて無いですよ俺〜〜。」
「もう中学三年だぞ、いい加減考えろ。」
そう言われても。コードも発動してない俺を受け入れてくれる高校なんてあるのか…?
「そういえば月詠くん、行きたい高校決まってないんだっけ?」
そう声掛けてきたのはクラスでも可愛い…方だと思う俺の幼馴染__葉乃宮ソラ(はのみや そら)。ピンク髪に赤色のメッシュ、赤とピンクのオッドアイは人を惹きつける魅惑がある。一六五cmと高めの身長でスタイルも良いから、学年問わず人気なんだとか。まっ、俺には関係ねー話だけど。昔はさ、ソラも俺の事イオくん呼びだったのに、中学入ってから苗字呼びにされた。なーんだか距離感じるよな〜〜とか思いつつ、俺だけ名前呼びも変だから葉乃宮って呼ぶことにしてる。
「おー。つーか、コードがない俺でも受け入れてくれる高校なんてあるのかっつー話でさあ。ウケるよな!」
「うーん…やっぱり通信制くらいしかないかなあ。月詠くんは高校行きたいの?」
「行きてえけどさ〜〜、やっぱ高卒資格は取りてえじゃん?葉乃宮は?どこ高受けんの?」
「私?私は星命学園!」
「…は?」
__星命学園。世間で悪団体に対峙するための捜査官、交渉人、戦闘員、技術者を育む、全国の中でトップレベルに有名で有力な高校の一つ。戦闘員育成クラスA組、技術者育成クラスB組みたいにクラス分けされる。全てのクラスと学年を合算して、特に有力な十二名を〝十二星座〟として名付けられるのも有名な話だ。
「おま、お前そんな所受けんの!?」
「うん!昔から政府に関わる仕事に興味があったの。星命学園って一番の有力学校でしょ?受けるならやっぱりそこかなって今先生と相談中なんだ。」
「特に戦闘員と捜査官なんて給料高いもんな〜〜、俺も出来ることなら目指したかったわ。」
「星命学園はコードが発動してない人も一般生徒として受け入れてるみたいだけど……行かないの?」
「行かねえよ!」
いやいや、葉ノ宮考えてくれ。コードで大活躍している人の中一人だけ一般生徒で授業とか受けてたら浮くだろ。体育祭とか文化祭とか俺も星命学園の行ったぜ?コードを使った演出すごかったんだ。俺がそんな場所に行けるわけねえだろ……。
「このカスが星命学園だァ?無理に決まってんだろ。だって無音だぜ?どんな手を使うんだよ、金か?」
「ちょっと、京極くん!」
出た。俺の天敵、京極火花。コード:火花。活力を利用した火花を作り出し爆発を起こす。火花はコンロに火をつけたり、小さなこともできるらしいけど、本人がやりたがらない。そりゃあそうか。彼とは成績を競い合ったり喧嘩する仲。中学からの付き合いだけど、かれこれとても仲が悪い。
「なんですかあ?その顔はァ。ま、俺も星命受けるけどな。定員少ねーんだよ、オメーみたいなカスは受けんな。」
「何かな火花くーん。その言い方は俺が受かる可能性があるかもとでも?」
「ねえから受けんなっつってんだろ、シネ。」
あーうざいなあ。と思っても口には出さないんですけどね。良いでしょう、俺も星命学園を__一般課程で受けてやろう。
「テメー、今一般課程受けようとか思っただろ。」
ギク。何故分かる。
「一般課程でもコードの授業はあるんだぜェ?どーすんだよ、なあ、無音クンよお。」
「は?そんなん毎回見学しときゃ良いだろ。」
……流石にそれは単位を落とすか。
「まっ、俺も星命学園、前向きに検討しとくよ。誰かさんのおかげで俺の心に火がついたし?ありがとねーお二人さん。」
「ああン!?受けんな、帰れ、シネ!消えろ!」
「そ、そう?えへへ。前向きになってくれて良かった。もう帰るの?」
「おー。今日母さんにおつかい頼まれてんだ。」
「そっかあ。またね!月詠くん!」
「またなー、……火花もありがとさーん。」
「皮肉にしか聞こえねえよクソ!」
火花と喧嘩するのは正直嫌いじゃない。いや、嘘ついた。結構嫌いだ。何かと突っかかってくるからな。一方で葉ノ宮と話すのは結構癒される。この歳にもなると幼馴染って疎遠になる気もするけど、……俺らも例外ではないか。名字呼びになってるしな。でも会話できてる時点では結構いいんじゃないか?
(それよりコードをどうにかしないと。)
今の進路の選択肢は、中卒して就職するか、高校に進学するか。進学するなら星命学園一択だ。なんだって、あの二人……火花はいいか。葉ノ宮と同じ高校に行きたいからな。……これじゃ俺葉ノ宮の事好きみたいじゃね!?ちげえから。好きとかじゃねえから。今までずっと同じクラスだったのに離れるのが嫌なだけだからな。
ウーンウーン、と考えているとふいに背後から話しかけられる。
「君、何について考えてるの?」
「え?はい……うおっ」
俺よりかなり背の高い白衣を着たお兄さんが居た。仮面を被っていて素顔は見えない。
「それで?」
「えっ、えーと……進路について……」
「おや、見た感じ君はそこの中学校の生徒だね。何で悩んでいるのかい?」
「いやー、それが俺にはコードが発動しない無音ってのがありましてえ……」
ってこれはじめましての人に言うことじゃないな。すみません、と言うと、むしろ都合がいいと頷かれた。
「私で良ければ話を聞こう。良いカフェを知っている。」
連れていかれたのはモノクロで統一されたカフェだった。お客さんは男の人が多い感じはするな……。
「ささ、座って。私が奢るよ。」
「あ、ありがとうございます……?」
「私はね、コードに詳しいんだ。」
「えっ!?」
母さんにおつかい頼まれてるから早く帰らないと……と思ってたのに、その彼の一言に我を忘れて、話にめり込んでいた。能力には三つの要素があること。核と呼ばれるもの。能力の源で人生で最も強い感情が宿っている。これが壊れると能力を失うこと。記録と呼ばれるもの。能力を構成する記憶で、コードを使う度少しずつ消耗すること。残響と呼ばれるもの。感情の余波で、暴走や覚醒の原因になること。そして、コードは使う度に、能力の元になった記憶が少しずつ削れること。つまり、最後には「なぜこの能力を手に入れたのか」さえ思い出せなくなること。
「……だから、能力者たちは強くなるほど大切なものを失うという宿命を抱えているんだよ。」
「へえ……!」
特別コードに興味があるわけではないが、ただ今コードについて詳しく知りたい俺にとって、この男の話はとても興味深い。コード発動の何かしらの鍵になるかもしれねえし。
「ところでお兄さんのコードは何なんですか?」
「私かい?」
「はい!」
カッコイイから化学とかそういう系のなのかな〜〜、ほら、薬とか。あとは定番に水を操る系のコード?なんにせよコードってだけでかっこいいんだよな。なんて妄想を膨らませていると、ふっと男は笑みを零した。
「私かい?私はね、」
「__無音の能力を強制的に解放させる能力だよ。」
「……え?」
今なんて?この男は今なんて言ったんだ?能力を、解放?強制的に?どういう事だ。脳内が混乱でグルグルしていると、首にチクッと痛みを感じた。
「いて……っ!は、なんだよこの蜂のマスコットみたいなのは。」
「それは私の使い魔でね、可愛いだろう?」
「可愛いっつーか……ゔっ……っ!?」
ドクン。心臓だけじゃない、全身が悲鳴をあげるように脈打つ。猛烈な吐き気に襲われる。なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
「てめ……っ、何しやがった!」
「私の能力は私の血液を無音の人間に注入すると発動するのだよ。先程私の使い魔くんが君に注入したからねえ。そろそろコードが発動するんじゃないか?」
「っふざけんな!」
ぶっちゃけコードが発動するのはありがたい。ありがたいが、こんな形は望んでない、一ミリたりとも。俺は自分の力で発動させたくて__ッ!不意に手のひらから黒いモヤがかかったムチのようなものが飛び出す。どんどん伸びて、バラバラに動き出す。ガシャン、ガシャン、とカフェの中がぐちゃぐちゃになる。客たちが悲鳴を上げる。
「んだこれ、……なんだこれ、治まれよ、早く……っ!」
焦れば焦るほど黒いムチは暴走して止まらない。とりあえず店の外の広いところに。そう思って足に力を入れる。そのまま走り出そうとしたら勢い余って窓ガラスを割って空中高くまで跳ぶ。
(はああああ!?空!?)
さっきから摩訶不思議なことしか起きない。手のひらから黒いムチ。脚力が大幅にアップ。これが俺のコードって事か?だとしたら……だとしたら。だとしたら、何だ?とにかく、この暴走を止めないと。
「おい!仮面野郎!暴走止めれねえのかよ!」
彼を見た瞬間、背筋がゾッとした。彼は俯いたままニヤニヤと何か呟いていたんだ。心做しか紫の邪悪なオーラが見える気がする。
「ああ、良いねえ……コードが暴走する様子を見るのは堪らない……」
ダメだ。何で俺はこんなやつにホイホイと着いて行ったんだ。明らかに見た目からおかしい奴だったろ。なんで、なんで。そう思ってももう遅くて。そう思ってる間にもムチの暴走は止まらない。グルングルンと回転してはバチンバチンと物を壊していく。手のひらを自分に向けたら頭が壊されることを無意識に理解しているから、外に向けるしかない。でもそうしたら建物が壊れる。俺はどうするべき?自滅?いや、そんなのは嫌だ。誰か、誰か__
「月詠くん!」
聞き覚えのある声がする。葉ノ宮だ。
「おま……っ、何でここに!?いいから離れろ!」
「大丈夫!私の手を掴んで!」
無理だ。手のひらから暴走するものを出してんのに、そんな手でお前の手を掴めるかよ。でも__今は従うしかない。信じるしかない。手のひらを掴もうとすると、一度ムチがバチン、と葉ノ宮の手を叩いた。でも、そんなのお構い無しに彼女は俺の手を掴んだ。瞬時、俺のコードと思われる黒いムチも高い脚力もフッと力を失ったように発現しなくなった。そして、急激な疲労により、__俺は意識を失った。
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【登場人物紹介】
月詠イオ。十五歳。誕生日:八月十日。コード:不明。現在確認出来ているものは、黒いムチを手のひらから出現させることと高い脚力の二つ。容姿:銀髪に赤い瞳。幼さが少し残る、男子生徒にしては可愛い系の顔立ち。一六八cm。
葉ノ宮ソラ。十四歳。誕生日:三月三日。コード:無効化。触れた者のコードを無効化する。容姿:ピンク色のストレート長髪に赤いメッシュ。ピンクと赤のオッドアイ。一六五cm。クラスでは可愛いと言われる存在。
京極火花。十五歳。誕生日:八月四日。コード:火花。活力を利用して火花を作り出し爆発させる。容姿:トゲトゲした赤い髪に深紅の瞳。つり目で近寄り難い顔立ち。一七六cm。
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