選ばれた夜。
ずっと、自分が何者なのか、なんの価値があるのかわからなかった。
「起立、礼。おはようございます。」
担任の先生の、HRはじめるよー。という声が響く。
がらがら、クラスのみんなが椅子を引き、座る音が聞こえてくる。
私も当たり前のように座り、先生の話を聞く。
天宮ゆら、高校1年生。ぱっと見れば普通の女の子である。
―ただ、ひとつ、誰にも言えない秘密がある。
私はこっそり、自分の身につけているペンダントを見つめた。
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あれは高校入学後、1週間後だっただろうか。
夕方、散歩をしていると空が暗闇に包まれた。
雨が降る……わけでもなさそう。
私は嫌な予感がして、家に引き返そうとした。
そのとき、
「うわー、なんあれ。」
ふと振り返ると、同じ高校の制服を着ている背の高い女の子が顔を顰めて遠くを眺めていた。
私も同じ方向を見つめると、なんだか、人型のものが浮いているような気がした。
「なにあれ、人?」
「…?あ、天宮さん!?」
横から一言こぼした私に、視線を向ける。
顔をよく見れば、同じクラスの女の子だった。
「あ、月城さん…。」
「えー名前覚えてくれてるの!?嬉しい!」
にこにこと笑顔になった彼女は月城 澪さん。本当にスタイルが良くて、モデルもやっているらしい。ウルフカットで美人さんで、見ていると逆に怖いくらいだ。
私はふと先程人型のものがあったところに目をやると、大きくなっているような気がした。 まさか、近付いている?
やはり嫌な予感は拭えず、早めに帰ろうと決心したその瞬間、大きな揺れが私たちを襲った。
「もぉ〜!!なんなの!」
「ぎゃ!!地震!!」
「早く帰らなきゃ……。」
近くには月城さんと私以外にも3人の女の子がいた、
2人は同じ学校の、中等部の制服を着た子達。
もう1人は同じ高等部の、おそらく先輩。
私は月城さんに別れを告げ、その場を後にしようとした、その瞬間。
ドオン!!!
先程の地震とは比べ物にならない揺れを感じた。まるで、何かが爆発したみたいな……。
私たちは咄嗟にしゃがみこみ、頭を抱えた。
轟音がおさまり、ゆっくりと顔をあげる。
───"ナニカ"が、いた。初めてみるもの。
ただ、この世のものではない、化け物。それだけはわかる。
周りにいた人たちは、悲鳴をあげて逃げていく。
ばたばた、そんな足音の中にどさっと誰かが倒れる音がした。下校途中の小学生くらい女の子。
女の子は痛みか、恐怖からか、悲鳴にも近い泣き声を上げ始めた。
それに目をつけた化け物はその女の子に近付く。
まずい、そうは思うが、どうしたらいいか分からず私はその場に立ち尽くしてしまった。
「大丈夫!?…ほら!天宮さんも!」
俯いた顔を上げると、月城さんがその女の子を立ち上がらせ、抱き抱えていた。月城さんはそのまま、私の手を取り走り出した。
「わけわかんない!なにあの化け物!!怖い!!」
月城さんは叫びながらも女の子をしっかり抱きかかえたまま走る。
だけど、無数いた化け物は私たちに近付いてくる。
「くっ、そ!」
月城さんは苦しそうに呟く。
私は
──ここまでか。なんて、他人事のように考えてしまった。
どれくらい走ったかわからない。もう足はフラフラで、肺もあつくなっているような気がする。
女の子を抱きかかえている月城さんなんて、もっと苦しいと思う。
私はその場に立ち止まった。
「何してんの!?」
月城さんは私の手を引いて、また走り出そうとする。
私はその手を振り払う。
「このまま3人で走ってたって、絶対追いつかれるよ。わかるでしょ?早く行って。…このままだと、その子も死んじゃうかも。」
私は微笑んだ。貴方は多くの人に望まれている。貴方のお陰で救われている人間はたくさんいる。月城さんは死んではいけない。
私は月城さんを無理やり押して、走って。と、声を掛けた。
顔を歪め、悲しそうな顔をしたけど、それでも月城さんは前を向いて走り出した。
私は上をむくと、化け物たちは私に向かって飛んできていた。
…これで、終わりか。
不意に、幼い頃を記憶がよぎった。
幼い頃はよく、流れ星を見つければ願いが叶う。という話を信じ込んで、よく空を眺めていた。
たくさんあった願い事は、ひとつも叶うことはなかったのだけれど。
私は化け物を見ながら、考えた。
ああ、せめて、最期くらい。
自分の人生が、意味のある、価値のあるものだったと、思いたい。思わせて欲しい。
私はそんなことを考え、目を瞑っていた。
その時、目を瞑っていてもわかるくらい、眩い光が放たれていることがわかった。
私は咄嗟に目を開けて、光の正体を見た。
「…ペンダント?」
私は、咄嗟にそれを手に取った。
『君は、共鳴した。』
ペンダントを取ると、その場所は不思議な空間に包まれた。
そして、目の前にいる夜空の色をした星から不思議な声が聞こえた。
「…共鳴?どういうこと?…そもそも、これは何?」
『君は、共鳴した。星核と。君は…夜明けを妨げるものを壊滅させなければならない。』
意味がわからない、混乱する。だけど、それ以上は何も教えてくれなかった。
私は何気なく、ペンダントを握りしめた。
「共鳴…?使命?貴方は何を言っているの?私には、何も出来ないのに」
ああ、そっか。これは夢なのか。こんなの、現実なわけがない。
星は何も話さない。喋らない。
この空間には、耳が痛くなるほどの静寂だけがあった。
私は握りしめていたペンダントを眺めた。
何ができるって言うのだ、このペンダントで。
なにもせず、ぼうっと眺めていると、ペンダントから強い光が放たれた。全部を覆い隠してしまう、そんな光が。
光の中に、落ちていく感覚があった。
私はもう、動くのも嫌だった。
どうせ夢だから、と、流れに身を任せていた。
「結局…願ったって、何も叶わないんだ。」
わけわかんないよ、なにあの星。
願いを叶えてくれるわけでもない、何も教えてくれない。
「…私には、なにもない!」
「私には何も出来ない!みんな勝手なことばっか!」
「星なら…私の願い、叶えてよ…!ちゃんと、私の生きてた意味を、価値を証明してよ!!!」
私はやけくそでそう叫んだ。
どうせもう、終わりなんだ。
私は目を瞑った。その時。
光の粒子が私を包み込んだ。
心臓が熱くなり、息が苦しくなる。
体から力が溢れてくる。
目を開けると、そこには星空が広がっていた。
不思議と、気持ちは楽になっていた。
目の前には、杖があった。私は、無意識に手に取り、1歩踏み出す。
すると、空間はなくなり、元の世界に戻っていた。
まるで、あの空間にいた時間は数秒だったかのように、さっきと同じ状態だった。
「…え、は!?」
私は咄嗟に自分の姿と手に持っている杖を眺めた。
学校の制服から、わけのわからない白とピンクのフリフリの服に変わっている。
驚いているのもつかの間、化け物が3体まとめて私目掛けて猛スピードで向かってくる。
「こ、来ないで!」
私は驚いて、咄嗟に杖を敵に向けた。
ぎゅっと目を瞑っていると杖が少し震え、パァンという破裂音が響いた。
驚いて目を開くと、化け物が塵になっていく。
私は声が出なかった。…自分は、どうかしてしまったんだろうか。この化け物を、殺してしまった…?
もう本当に何が何だかわからない。
また数体まとめて私に向かって襲ってくるのを必死に避ける。その怪物がぶつかった地面は、大きくえぐれている。
あんなのに当たったら…。
背筋が凍る…。恐怖で頭が回らない。
…さっきの光線を、もう1回放つしか、ない?
迷っている間に、1体が目の前まで迫っていた。
手を伸ばせば届いてしまいそうなくらいに。
私は咄嗟に大きく後ずさる。
このままだとどっちにしろ死ぬ…!
そう思った瞬間、私は杖を強く握りしめた。
「近寄るな!!」
私がそう叫び、杖を化け物の目の前に突き出す。
光は一直線に化け物に向かって放たれた。
私を囲うように迫ってくる化け物達を光が貫き、塵となって消えていく。
周囲に気配が無くなると、私は力が抜けて崩れ落ちた。
気が付けば、ふわりと、私から光の粒子が舞い上がり、私は元の制服姿になった。
握りしめていたはずの杖も、いつの間にかペンダントに変わっていた。
私は、何が何だかわからないまま、疲れた体を引きずって家へ帰ろうと、歩を進めた。
ふと、理由もなく背筋がヒヤッとした。
「…?気のせい、だよね。」
私は嫌な予感を必死に誤魔化しながら、帰路に着いた。
「…星核が、目覚めたか。…報告せねばな。」
この世の、人間ではない、異形な頭をした人物が一言呟き、静かにその場を後にした。
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本当に、あの時は大変だった。特に後処理が!
どうやら私は、魔法が使えるようになったらしい。
あのよく分からない星、名前(?)はノクス。と言うらしい。
ノクスは本当に必要最低限しか話さない。しかも、よく分からない時に現れる。
…あらかた、あの時の騒ぎについては夢や疲れによるもの。幻覚みたいなもの、ということにできた。
でも、月城さん、この人は何故かはっきり覚えていて、誤魔化すのが大変だった。
…私は、これからの日々を考えて、思わずため息をついた。




