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アルカディアに誓って、運命を殺す。  作者: Rowun☽
第一章:運命への反逆

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9/30

第8話:雨宿り

どうも、Rowun☽です。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、雨宿りの小屋での少し静かな時間のお話です。

キースとアルマ、二人の距離がほんの少しだけ変わる回でもあります。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、第8話をどうぞ。

 ――ピコン。


 頭の奥で、妙な電子音が鳴った。


 キースは瞬きをした。


 そして、視界に浮かぶウィンドウを見る。


【アルマ・ル・ヴァルディス】

【好感度+1】


「……は?」


 固まる。


 完全に固まる。


 数秒後。


「……いや待て」


 キースの脳がフル回転を始めた。


 好感度システム。


 それは《アルカディア・レクイエム》に存在するゲームシステムだ。


 攻略対象キャラクターとの関係値を示す数値。


 だが――。


「……これ、ヒロイン専用じゃなかった?」


 攻略対象の好感度が見えるのは、プレイヤーキャラ。


 つまり、聖女。


 ゲームの主人公だけのはず。


「……なんで俺に見えてる?」


 キースは青ざめた。


 自分はキース・ヴァレンタイン。


 攻略対象側のキャラクター。


 つまり――。


「俺も攻略対象だよな?」


 なのに。


 好感度が見える。


 プレイヤーのように。


「……え、これ」


 嫌な予感がする。


「世界、バグってない?」


 その疑問は、雨音にかき消された。


 森にはまだ、細かな雨が降り続いている。


 キースは戦いの余韻も冷めぬまま、ふらつくアルマの手を掴んだ。


「…………」


「…………」


 言葉はない。


 だがキースの瞳には、ただ一つの意思があった。


 ――この人を安全な場所へ。


 アルマは抵抗しなかった。


 手を引かれるまま歩く。


 やがて二人は、崩れかけた廃小屋へ辿り着いた。


 苔むした屋根。


 歪んだ壁。


 だが、雨を避けるには十分だった。


 しとしとと雨音が響く。


 湿った土の匂い。


 そして、互いの呼吸音。


「……寒くないですか、王子」


「……ああ、平気だ」


 アルマの声はそっけない。


 だが先ほどより静かだった。


(……だめだ)


 キースは視線を逸らした。


(目のやり場に困る)


 ちらり。


 また視線が戻る。


 アルマの白いシャツ。


 雨で濡れ、肌の輪郭がうっすら浮かび上がっていた。


(やばい)


 胸が焼ける。


(尊い)


 つぅ――。


 鼻から何かが流れた。


「……なんだ、鬱陶しい」


 アルマが眉をひそめる。


「えっ!?いや、その……」


 キースは慌てた。


「違うんです!いや違わなくもないというか!!」


 アルマの視線が、ゆっくりキースの鼻先へ落ちる。


「……変態か、お前は」


 冷たい声だった。


 だがどこか、先ほどより緊張が解けている。


「だって無理ですよぉ……!!」


 キースは叫ぶ。


「美しすぎるんだもん……!!」


 アルマは額を押さえた。


「……なんなんだ……お前は」


(本気で理解不能だ……)


 深いため息。


 その隣でキースは鼻を押さえながら悶絶していた。


 しばらく沈黙。


 やがてキースがぽつりと言う。


「今日、街にいなかったから……」


 アルマを見る。


「嫌な予感がして探してたんだ」


「……余計なお世話だ」


 アルマの目はどこか遠くを見ていた。


 だがキースは真っ直ぐ言う。


「でもさ」


「見捨てることなんてできないでしょ」


 少し笑う。


「だって……君だから」


 アルマの瞳が、わずかに揺れた。


 沈黙。


「……濡れたな」


 アルマが呟く。


「だね。でも」


 キースは笑う。


「推しと雨宿りイベントとか……俺、生きててよかった……!!」


「……その“推し”って言葉」


 アルマが言った。


「結局何なんだ」


 キースは少し考える。


 そして静かに言った。


「存在そのものが奇跡って意味」


 アルマは黙る。


「生まれてくれてありがとう」


「笑ってくれてありがとう」


「怒ってくれてありがとう」


「黙っててもありがとう」


「そこにいるだけで世界が輝く」


 キースは少し笑った。


「俺にとって推しって、そういう存在」


 アルマはしばらく黙っていた。


「……長い」


 ぽつりと言う。


「語るな」


 だがその声は、どこか柔らかかった。


 再び雨音だけが響く。


 やがてアルマが言った。


「……お前の名を、もう一度」


 少しだけ視線を逸らす。


「今度は……聞いておく」


 キースの心臓が跳ねた。


「キース!!」


 勢いよく答える。


「キース・ヴァレンタインです!!」


「……そうか」


 アルマは小さく呟いた。


 その瞬間。


 彼の中で、何かが変わった。


(……こいつは)


(ただの変態じゃない)


 ほんのわずか。


 だが確かに。


 アルマの中に、信用の芽が生まれていた。

あとがき


第8話を読んでいただきありがとうございました。


今回は森の小屋での雨宿りという、少し落ち着いたシーンでした。

キースの騒がしさは相変わらずですが、アルマとの距離もほんの少しだけ変わり始めています。


ここから物語は少しずつ次の展開へ進んでいきます。


また次のお話でお会いできたら嬉しいです。


またね。

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