第8話:雨宿り
どうも、Rowun☽です。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は、雨宿りの小屋での少し静かな時間のお話です。
キースとアルマ、二人の距離がほんの少しだけ変わる回でもあります。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第8話をどうぞ。
――ピコン。
頭の奥で、妙な電子音が鳴った。
キースは瞬きをした。
そして、視界に浮かぶウィンドウを見る。
【アルマ・ル・ヴァルディス】
【好感度+1】
「……は?」
固まる。
完全に固まる。
数秒後。
「……いや待て」
キースの脳がフル回転を始めた。
好感度システム。
それは《アルカディア・レクイエム》に存在するゲームシステムだ。
攻略対象キャラクターとの関係値を示す数値。
だが――。
「……これ、ヒロイン専用じゃなかった?」
攻略対象の好感度が見えるのは、プレイヤーキャラ。
つまり、聖女。
ゲームの主人公だけのはず。
「……なんで俺に見えてる?」
キースは青ざめた。
自分はキース・ヴァレンタイン。
攻略対象側のキャラクター。
つまり――。
「俺も攻略対象だよな?」
なのに。
好感度が見える。
プレイヤーのように。
「……え、これ」
嫌な予感がする。
「世界、バグってない?」
その疑問は、雨音にかき消された。
森にはまだ、細かな雨が降り続いている。
キースは戦いの余韻も冷めぬまま、ふらつくアルマの手を掴んだ。
「…………」
「…………」
言葉はない。
だがキースの瞳には、ただ一つの意思があった。
――この人を安全な場所へ。
アルマは抵抗しなかった。
手を引かれるまま歩く。
やがて二人は、崩れかけた廃小屋へ辿り着いた。
苔むした屋根。
歪んだ壁。
だが、雨を避けるには十分だった。
しとしとと雨音が響く。
湿った土の匂い。
そして、互いの呼吸音。
「……寒くないですか、王子」
「……ああ、平気だ」
アルマの声はそっけない。
だが先ほどより静かだった。
(……だめだ)
キースは視線を逸らした。
(目のやり場に困る)
ちらり。
また視線が戻る。
アルマの白いシャツ。
雨で濡れ、肌の輪郭がうっすら浮かび上がっていた。
(やばい)
胸が焼ける。
(尊い)
つぅ――。
鼻から何かが流れた。
「……なんだ、鬱陶しい」
アルマが眉をひそめる。
「えっ!?いや、その……」
キースは慌てた。
「違うんです!いや違わなくもないというか!!」
アルマの視線が、ゆっくりキースの鼻先へ落ちる。
「……変態か、お前は」
冷たい声だった。
だがどこか、先ほどより緊張が解けている。
「だって無理ですよぉ……!!」
キースは叫ぶ。
「美しすぎるんだもん……!!」
アルマは額を押さえた。
「……なんなんだ……お前は」
(本気で理解不能だ……)
深いため息。
その隣でキースは鼻を押さえながら悶絶していた。
しばらく沈黙。
やがてキースがぽつりと言う。
「今日、街にいなかったから……」
アルマを見る。
「嫌な予感がして探してたんだ」
「……余計なお世話だ」
アルマの目はどこか遠くを見ていた。
だがキースは真っ直ぐ言う。
「でもさ」
「見捨てることなんてできないでしょ」
少し笑う。
「だって……君だから」
アルマの瞳が、わずかに揺れた。
沈黙。
「……濡れたな」
アルマが呟く。
「だね。でも」
キースは笑う。
「推しと雨宿りイベントとか……俺、生きててよかった……!!」
「……その“推し”って言葉」
アルマが言った。
「結局何なんだ」
キースは少し考える。
そして静かに言った。
「存在そのものが奇跡って意味」
アルマは黙る。
「生まれてくれてありがとう」
「笑ってくれてありがとう」
「怒ってくれてありがとう」
「黙っててもありがとう」
「そこにいるだけで世界が輝く」
キースは少し笑った。
「俺にとって推しって、そういう存在」
アルマはしばらく黙っていた。
「……長い」
ぽつりと言う。
「語るな」
だがその声は、どこか柔らかかった。
再び雨音だけが響く。
やがてアルマが言った。
「……お前の名を、もう一度」
少しだけ視線を逸らす。
「今度は……聞いておく」
キースの心臓が跳ねた。
「キース!!」
勢いよく答える。
「キース・ヴァレンタインです!!」
「……そうか」
アルマは小さく呟いた。
その瞬間。
彼の中で、何かが変わった。
(……こいつは)
(ただの変態じゃない)
ほんのわずか。
だが確かに。
アルマの中に、信用の芽が生まれていた。
あとがき
第8話を読んでいただきありがとうございました。
今回は森の小屋での雨宿りという、少し落ち着いたシーンでした。
キースの騒がしさは相変わらずですが、アルマとの距離もほんの少しだけ変わり始めています。
ここから物語は少しずつ次の展開へ進んでいきます。
また次のお話でお会いできたら嬉しいです。
またね。




