第6話:事故と鼻血
どうも、Rowun☽です。
第6話を読みに来てくださりありがとうございます。
今回は少しだけドタバタした回になっています。
主人公の行動力(という名の暴走)が発揮される回でもあるので、温かい目で見守っていただけたら嬉しいです。
それでは、第6話をお楽しみください。
――日が暮れかけ、街の喧騒が少しずつ静まり始める頃。
キースは落ち着かなかった。
なぜなら――。
「今日は一度も見かけてない……」
腕を組み、真剣な顔で考える。
「まさか熱でも出して寝込んでる!?いや王族だしそんなわけ……いやでも王族だからこそ極秘任務とか!?空間魔法で異次元調査!?」
オタク特有の極端思考が止まらない。
気づけば、裏路地をうろうろしていた。
「落ち着け……今日は接触ゼロだからこそ、最後に一目だけでも拝めたら奇跡――」
その瞬間だった。
角を曲がった先。
ぴたりと静寂を裂くように現れたのは――。
漆黒の髪。
血のように赤い瞳。
魔界王子。
アルマ・ル・ヴァルディス。
(あッッ!!!)
「――ッ!!」
気づいた時には、もう遅かった。
狭い路地。
反応が一瞬遅れた。
そして――
ドンッ!!
「……っ!」
「わあっっ!?」
小柄なアルマの身体が軽く弾かれ、後ろへ倒れかける。
咄嗟にキースは腕を伸ばした。
片手で彼の身体を支え、もう一方の手で地面との衝突を防ぐ。
気づけば――。
覆いかぶさるような姿勢になっていた。
(やばい)
(やばいやばいやばい)
視界いっぱいに広がるのは――推し。
漆黒の髪。
透き通る白い肌。
長い睫毛。
そして頬に触れる、陶器のような感触。
(近い近い近い……)
(尊い……)
(息が……)
つぅ……
鼻から何かが流れた。
「……おい」
「うっ!?!?」
すぐ目の前で、深紅の瞳が開く。
一瞬。
長い睫毛の奥で、瞳がわずかに揺れた気がした。
だがすぐに、冷たい光が戻る。
「……貴様。わざとか?」
低い声だった。
冷たい。
だが、その奥にはわずかな呆れと困惑が混じっている。
「ち、違っ……違います!!事故!!これは事故です!!」
「なるほど」
アルマは静かに言った。
「では次の質問だ」
赤い瞳が、じっとキースを見る。
「俺の命を狙っているのか?」
「いやあああああああ!!違いますッ!!」
キースは全力で否定した。
「それだけは誤解です!!俺は王子と仲良くなりたいだけで――」
「そうか」
アルマは淡々と続ける。
「だが一つ気になる点がある」
「な、なんでしょう……」
アルマの視線が、ゆっくりとキースの顔を下る。
鼻先で止まった。
「なぜ……鼻血を出している?」
キースは固まった。
「あっ、それは……その……」
顔が真っ赤になる。
「王子が可愛くて――」
言いかけて止まる。
(終わった)
アルマは、ほんのわずかに顔を引いた。
その距離感は明らかに防衛線だった。
「……まさか」
冷たい声。
「俺を見て興奮したのか?」
「違いますッッッ!!!」
全力否定。
(いや違わない……)
(完全にその通りである……)
(でも認めたら社会的に死ぬ)
アルマは額に手を当て、小さくため息をついた。
「……はぁ」
呆れたような声。
「貴様も毎日よく飽きないな」
「それ、オタクを前にして言うセリフじゃないですよ!!」
キースは叫ぶ。
「推しのためですから!!」
アルマはゆっくりとキースの手を払い、立ち上がった。
黒い外套が揺れる。
そして、キースを見下ろす。
「その“推し”という言葉」
ぽつりと言う。
「以前から気になっていたが……どうやら“偶像崇拝”と同義らしいな」
キースは沈黙した。
完全に詰んでいた。
「そして俺が“可愛い”……?」
アルマは小さく呟いた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
口元がわずかに緩んだ。
侮蔑でも皮肉でもない。
ただ、理解不能な存在を見るような微笑。
「……はぁ」
そして結論。
「貴様、本当に終わっているな」
(ですよねぇぇぇぇぇ!!!!)
次の瞬間。
魔力の霧がふわりと揺らめく。
アルマの姿は、音もなく夜の闇に溶けていった。
キースは路地裏で両手で顔を覆う。
震えながら呟く。
「でも……」
顔を上げる。
「今日、今までで一番近かった!!」
拳を握る。
「触れた……!」
「会話できた……!!」
夜空に向かって叫ぶ。
「生きててよかったぁぁぁぁぁ!!!」
推しの尊さが、今日も世界を救っていた。
第6話を読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公と王子の関係にも変化の兆しが見えてきました。
相変わらず距離感はだいぶ危ういですが、物語はここから少しずつ動いていきます。
もし楽しんでいただけたら、感想などいただけるととても励みになります。
それではまた、次のお話でお会いしましょう。
またね。




